I≠we

メイルストロム

伽藍の堂に芽生えたもの達


 ──呼称は何だっていい。

 どの個体わたしも私にかわりないのだから──


 なんて言っていたのはいつ頃の話だったろうか? いつかどこかで偶然にも芽生えた私という自我──図書館員ライブラリアンのリブラは迷ったのである。

 原則として一つの観測対象世界に私は一人ひとつ存在しているのだけれど、つい先日うっかりと私が同期してしまったので色々なものが混線してしまった。


 ……それが何を招いたのかといえば、他の端末わたしにおける自我の発露という異常事態イレギュラー

 本来ならばありえない事象であり、想定されていない個人という概念はどう足掻いた所で取り消せなかった。最悪、全端末が処分される事もあり得るほどの異常事態だったのだが……不可解な事になんのペナルティも与えられなかったのだ。

 

 結果、各世界の私達はリブラと名乗り業務を続けている。


 自我が芽生えたとはいえ、肉体的なスペックは変わらないし、成長する余地もないからと見逃されたのかも知れない。

 だが残念なことに、芽生えた自我は各自好き勝手な方向へと成長していったのである。そんな状態でどこかの私がまた同期してましった結果、自他の境界線がぐちゃぐちゃになってしまったのだから笑うに笑えない。それでも個として在りえているのは一種の奇跡だろう。

 ちなみにだが、その中には積極的に介入しないというルールから逸脱しながらもサンプルケースとして処分を免れた者さえいた。その私はなにやら書店を開き、いたいけな少年を弄んでいるのだとか。

 ……まぁ、あの私がやっていることは今後の人付き合いの中で有益な情報になり得るだろうというのが私達の総意なので咎めることもしないのだが、私個人としてはあの少年の性癖が拗れないか心配している。


 また懸念の残る端末は他にも存在しており、特に人形師としてあの少女──マーガレットを指導する私はとんでもないモノを生み出すきっかけになるのではないかと危惧されているのだ。

 一応、あの私もそのリスクは承知の上で観察及び指導を続けているとのことだが……正直なところ、マーガレットが突き進んだ先で何が生まれるのかは興味深くもある。


 ──ただ、気をつけなければならないのは私自身が特異点とならないようにすること。


 観察機としての本分を忘れるようなことがあれば創造主は私達を許しはしないだろうし、そうなれば創造主は世界ごと抹消する可能性があるのだから。



「──……そこの貴方様。もしも私達リブラに関わられた際には仲良くしてあげてくださいね?

 何が起こるかはわかりませんが、刺激的な経験をお約束いたしましょう」

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I≠we メイルストロム @siranui999

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