そのインタラクティブな青き救世主はあらゆる時空を超えて偏在する

『雨の情景から始まる魂の4000字』企画 BEST 5

 四千字という狭き枠の中で巧みに絡み合わされたデュアルストーリー。

 そのひとつは現代、我々が暮らすこの国。
 主人公は雨空に小さく浮かれる男子高校生。
 彼が雨を心待ちにしている理由。
 それは雨天時の通学バスで乗り合わせる違う高校の女子の存在だ。
 彼らを巡り合わせたのは青いカバのストラップ。
 けれど親密さを増した彼らをある日、厄災が見舞う。

 一方、古代イスラムの地。
 おそらくはアラビア半島だろうか。
 ひとりの老人が小高い丘の上で胡座をかいていた。
 傍には青いカバの置物。
 彼は村の危機を救おうとその置物に祈りを捧げていた。
 
 青きカバ、それは水を司る神。
 その青き神は時として祈りを聞き入れ、時空を超えて必要としない地点から必要とする場所へと偏在する水を運ぶのである。
 
 量子学的には宇宙は生まれた瞬間から無数のパラレルワールドを創造しているという。
 ならば青きカバはその時空を超えた世界を水という媒体をよすがに繋ぎ合わせる力を持つのかもしれない。

 読み終えた者にそのような途方もない想像を抱かせるこの物語は、類い稀なる想像力と巧妙にして精緻な表現力を合わせ持つ奇才鐘古こよみ氏にしか書くことができないものだろう。