第5話 ダンジョンブレイクの終わり

 俺は今まででは考えられないほどの速度でゴブリンに接近する。

 ゴブリンはいきなり強くなった俺に先程まで浮かべていた笑みを消して驚いており、急いで戦闘態勢に入ろうとしているがもう遅い!


「食らえ!!」

「グギャギャ!? グギャ―――」


 俺の強化された棒術は容易くゴブリンの首をへし折り、それだけでは止まらず首が胴体から離れる。

 『ドンッ!』と頭の落ちる音がすると共にゴブリン達の間に恐怖が走るのを感じた。

 今がチャンスかもしれない。


 俺は次のゴブリンの頭をかち割り、更に次のゴブリンへと突撃。

 

「グギャ!?」

「ギャギャギャ!!」

「ペギャ―――」


 それからは一方的な蹂躙。

 ゴブリンが棍棒を振り回そうが当たらないし、当たっても全く痛くない。

 しかし俺がゴブリンに攻撃すると全て一撃で死んでしまう。

 

「まさかステータスが違うだけでこれだけ簡単になるとは……」


 俺は最後の一体にとどめを刺す。


《レベルアップしました》


「一〇体で一つか……やっぱりゴブリンは経験値が少ないな……」


 まぁ同じレベルなのでレベルアップ速度が遅いのは当たり前か。

 しかしこれで【異世界の記憶】が提示したホブゴブリンのステータスと殆並んだ。


 この固有スキルはどうやらステータスすらも表示してくれるらしく、ホブゴブリンのステータスは強化された俺よりも少し上だった。

 しかし今回俺がレベルアップしたので殆ど同じになっているはずだ。


「後は……お前だけだ、ホブゴブリン!!」

「ギャギャ!」


 ホブゴブリンは自分の仲間が死んだにも関わらず変わらず笑みを浮かべている。

 いや……ホブゴブリンにとってゴブリンはただの下僕で駒なのかもしれない。

 だが、俺はそう言うのは大嫌いなんだ。

 

「行くぞ―――疾ッ!!」

「グググギャ!!」


 俺は全速力でホブゴブリンに近づいて鉄パイプを振り下ろすが、奴は棍棒で簡単に受け止めてしまった。

 流石にステータス差が無いと押し込めないか……。


 俺は記憶に従い、一旦距離を取ってから再び接近し、ホブゴブリンが棍棒を振り回している所をギリギリで避けて脛を思いっきり叩く。


「ガアアアアアア!?」

「よし、少しは効いているな」


 よほど痛かったのか、ホブゴブリンは振り回すのをやめて脛を押さえる。

 人型のモンスターの弱点は人間と同じらしく、少しの間動けなくなっていた。

 そしてこの隙が最大のチャンスだと記憶が言っている。


 俺は動かないホブゴブリンの腕を鉄パイプで叩いて棍棒を手放させる。

 そしてその棍棒を遠くに蹴り飛ばす。

 これで奴は武器を失った。

 あとはタコ殴りにすれば勝てる……と思っていたのだが、流石ボスと言ったところか。


 ホブゴブリンが咆哮すると、近くにいたらしいゴブリンが集まってくる。

 そしてホブゴブリンの指示で俺に襲いかかってきた。

 だが……


「お前達じゃ相手にならないんだよッ!」


 俺は鉄パイプを振るって近づいて来るゴブリン達を倒して行く。

 ゴブリン程度なら何匹居ようが俺の敵では無い。

 しかしホブゴブリンも俺を倒せるとははなから思っていなかったらしく、気付けば立ち上がって棍棒を手に持っていた。

 更には先程の余裕な笑みはなく、本気で俺を殺しに向かって来る。

 

 その姿に一瞬俺は勝てないと思ってしまった。

 そして殺されるとも。

 先程までは相手が油断してくれていたから有利に進めていけたのだと。

 だがその考えはすぐになくなった。


 俺は梨花を守ると心に誓ったんだ!

 絶対に勝ってみせる!


 そんな俺の気持ちと連動するかのように体が勝手に動き出す。

 しかし俺に戸惑いはなく、ただ記憶に己の身体を任せる。


 すると俺の身体は先程と同じくホブゴブリンに突撃していく。

 しかし今度はホブゴブリンも俺に向かって突撃して来た。

 そしてお互いの鉄パイプと棍棒がぶつかり合い……


「うおっ!?」

「グギッッ!?」


 お互い吹き飛ばされる。

 しかしすぐに体勢を立て直し、再び接近。

 ホブゴブリンは再び力の篭った一撃を繰り出して来るが、俺はそんな攻撃をいなすように体の力を適度に抜く。

 そして鉄パイプを滑らせるようにして衝撃を地面に逃すと、鉄パイプを振り上げる。

 俺の攻撃は前のめりになっているホブゴブリンの顔にぶち当たる。


「グギャアアアアア!?」

「よし! このまま一気に畳み込む!!」


 俺は記憶にある通りに鉄パイプを振るっていく。

 振り下ろし、振り上げ、斜め打ち、横薙ぎ、突きなどを繰り返し放ち続け、相手が攻撃する暇を与えない様に怒涛の連撃を喰らわす。

 しかし——

 

「グッグガッ!!」

「チッ———」


 ステータスが同じなのと、どうしても体力がずっと続かないため、ホブゴブリンに反撃される。

 しかしギリギリでホブゴブリンの横薙ぎを避けると二mを超えるその巨体の懐に入り込み、問答無用無慈悲な一撃を与える。

 

 そう、男なら誰しもがその痛みが分かるだろう。


「グギャアアアアアアアア!?!?」


 俺が奴の金的に全力の一撃を与えると、ホブゴブリンが絶叫した後、ゆっくりと後ろに倒れていった。

 そしてすぐに奴の頭を殴り、息の根を止める。

 本来であれば胸に一突きしたかったのだが、俺が持っていたのは剣ではなく鉄パイプだったので、こうするしかなかった。


《レベルアップしました》

《レベルアップしました》

《レベルアップしました》

《ダンジョンをクリアしました。報酬を獲得しました》

《レベルアップしました》


 ホブゴブリンがとうとう死んだのか。


「はぁ……やっと終わった……」


 俺が安心したその時——


《【記憶再現】の発動を終了しました。所持者に反動が還ります》


「ぐっ———ぐあああああああ!?」

「お、お兄ちゃん!? 大丈夫!? お兄———」


 梨花が俺に近寄って来るのを見てから意識を失った。


 妹を守ったと言う少しの達成感を感じながら。








《特殊な条件を達成しました。スキル【守護者】を入手しました。スキル【身体強化】を入手しました》




—————————————

八神響也 17歳 

Level:11(+5)

《ステータス》

体力:12/400(+100)

魔力:200/200(+50)

攻撃力:85(+25)

防御力:63(+15)

敏捷力:96(+30)

精神力:117(+35)

《固有スキル》

【異世界の記憶Level:1(EX)】

《特殊スキル》

【守護者Level:1】

《スキル》

【身体強化Level:1(D)】

【雑用Level:1(E)】【精神耐性Level:2(B)】

【気配感知Level:2(B)】【棒術Level:3(D)】

—————————————

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る