第4話 ボス――ホブゴブリン

「はぁああああ!!」

「グギャ!?」


 俺が鉄パイプを横薙ぎするとゴブリンの首に当たり、『ボキッッ!』と言う骨折音と共にゴブリンが倒れる。


《レベルアップしました》

《【棒術】を入手しました》


「はぁはぁ……やっと手に入れたぞ―――ステータス―――」


—————————————

八神響也 17歳

Level:6(+3)

《ステータス》

体力:190/300(+60)

魔力:150/150(+30)

攻撃力:60(+15)

防御力:48(+9)

敏捷力:66(+18)

精神力:82(+21)

《固有スキル》

【異世界の記憶Level:1(EX)】

《スキル》

【雑用Level:1(E)】【精神耐性Level:1(B)】

【気配感知Level:1(B)】【棒術Level:1(D)】

————————————— 


 俺はステータスを見てガッツポーズする。

 その姿を見て、隠れていた梨花が出てきて聞いてくる。


「お兄ちゃん! 遂に【棒術】手に入れたの?」

「ああ。これで梨花をゴブリンから守れそうだ」


 俺は鉄パイプを何回か軽めに振ってみると、今までヘロヘロとして頼りなそうに視えた俺の素振りにキレが出ている。

 確かにスキルの力はすごいな……先程まで初心者だった俺が半年くらい練習した人みたいに早変わりしたぞ。

 だがまだスキルを手に入れたと言ってもどれもレベル一。

 この程度では直ぐに殺されてしまう。

 

「もっと強くならないとな……」


 俺は梨花を見ながら改めてそう決意する。

 そして俺が強くなったら、梨花さえ良ければプレイヤーにしてもいいかもしれない。

 プレイヤーは高レベルにでもなればトラックにぶつかられても無傷で耐えることが出来るほどだからな。

 俺だってずっと梨花の側にはいてやれないし、自分のみを守る手段がある方がいいだろう。

 

「どうしたのお兄ちゃん?」

「……いや、何でも無い。それじゃあ逃げようか」

「うんっ!」


 俺達は逃げる。

 ダンジョンから出来る限り遠くに。

 しかしそれが意味のないことだと分かるのは二時間後であった。





***





 【棒術】を手に入れてからは、ゴブリンとのレベル差が埋まったこともあり大分楽に狩れる様になったため、梨花の体力に合わせてダンジョンから離れようと逃げていた。

 道中は常に【気配感知】を発動させていたため、レベルが二になり、感知範囲が倍増した。

 元々は五〇mだったが、現在は一〇〇m程まで感知できる。


「お、お兄ちゃん……もうこれくらいで大丈夫かな?」

「いや……何匹か気配があるから多分まだ抜けれていない」

「ええ……もう二時間位走ってるよ?」


 梨花がうんざりとした表情でため息を吐く。

 俺はプレイヤーになったから体力も上がっているが、梨花は一般人なのでこの距離を走るのは相当キツイだろう。

 既に一〇kmは余裕で走っているが、一向にゴブリン達が消える気配がない。


「おかしい……これだけ離れれば少し位減ってもいいはずなのに……」


 基本モンスターはダンジョンブレイクが発生するとボスモンスターに集まる習性がある。

 そしてボスモンスターは基本的にダンジョンの近くに居ることが多い――


「お、お兄ちゃん……あれって……」

「なん―――ッッ!?」


 俺は梨花の口を手で抑え、近くに乗り捨てられている車の後ろに隠れて息を潜める。

 何故そんな事をしたかと言うと……


「馬鹿な……何故此処にホブゴブリンが……」


 そう、俺達の進行方向にダンジョンのボスであるホブゴブリンがいたのだ。

 しかも周りに一〇体以上のゴブリンを連れて。

 

 無理だ……勝てない……。

 ただでさえホブゴブリンに勝てないのに、ゴブリンが周りにいたら勝てるはずもない。


 俺の心臓が破裂しそうなくらいに鼓動を刻む。


「クソッ……一体どうして……いや、今思えばおかしな事ばかりだった……」


 俺も初めてのダンジョンブレイクで気が動転していたが、今冷静になって考えれば普通ではないことだらけだった。

 もしボスモンスターであるホブゴブリンがダンジョンの近くにいたのなら、もっとショッピングモールにゴブリンがいても良かったはずだ。

 しかし実際には一〇体もいなかった。

 更にあのゴブリン達は個々に動いていて統率された様に感じなかった。

 まぁその御蔭で俺も梨花も生き残れたのだが。

  

 これだけボスが近くに居ないことを証明する出来事が会ったのに何故俺は気づかなかったんだ……!

 クソッ……完全に俺のミスだ……。


「……梨花、プレイヤーが来るまで後何分掛かる?」


 俺は数十分前にプレイヤー協会に連絡して援軍を頼んだ。

 何故か知らないが、今回のダンジョンブレイクは予測されていなかったらしく、まだ準備中だと言う話だった。

 此処はプレイヤー協会から結構離れているため、電話をかけた時は来るのには最低でも後三〇分がかかると言われたが……


「……最短でも後一〇分くらいだと思うよ……ねぇ、どうにかして逃げようよ」

「いや……それは難しそうだ」


 梨花の言う通り、俺も直ぐに逃げたい気持ちでいっぱいなのだが……もう遅かった。

 完全にゴブリンたちが此方を見ているし、


《ゴブリン達に見つかりました。予測――接敵まで残り三〇秒》


 【異世界の記憶】が俺達がバレていることをはっきりと教えてくれている。

 なので俺は逃げることを諦める。


「……梨花、此処で少し待っていてくれ」

「お兄ちゃん!?」

「俺がプレイヤーが来るまで時間を稼ぐ。それまで此処でじっとしていてくれ。俺が死ぬまで絶対に動くんじゃないぞ」

「ちょ―――」


 俺は鉄パイプを握り、震える体を精神耐性スキルで抑える。

 そしてゆっくりと自動車の裏から出ていく。


「おい、ゴブリン共! お前らの相手は俺だ! かかってこい!」


 鉄パイプを構えて自分にカツを入れる意味合いも兼ねて大声を張り上げる。

 するとホブゴブリンがゴブリン達に何やら指示を出し、ゴブリン達がニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべて近づいて来た。

 きっと俺程度なら余裕とでも思っているのだろう。


 正直俺もそう思っていたが―――その瞬間に俺の固有スキルが発動する。


《戦闘開始。

 対象――ゴブリン一〇体。

 弱点――首や頭、脛。

 タイミング――多数のためなし。

 予測――一気に全員で襲い掛かる》

《所持者の敗北を予測。これより【記憶再現】を発動します。―――所持者の意思を確認。意識を固定し記憶を活性化させます》


 その瞬間に前回とは違って意識を失うことはなかったが、まるで自分の体に自分ではない誰かが入ってきたような感覚に襲われる。

 そしてそれと同時に体から力が溢れてくる。


「これならイケる――!」


 そんな俺の言葉を後押しするかのように更に【異世界の記憶】が発動する。


《スキル――【身体強化】【見切り】を発動。ステータスが上昇します》

 特殊スキル――【守護者】を発動。――守護する者を確認。ステータスが上昇します》


 体がまるで重力から開放されたかの様に軽い。

 それに頭の中に奴らへの対抗策が幾つも浮かぶ。

 まるで何十、何百と戦ってきたかのように相手の行動が手に取る様に分かる。


「俺は……俺は……何としても――梨花を守ってみせるッ!!」


 俺はゴブリンたちへと突撃した。




—————————————

八神響也 17歳 記憶再現状態

Level:6

《ステータス》

体力:300/300 

魔力:150/150 

攻撃力:60 ⇒100

防御力:48 ⇒100

敏捷力:66 ⇒100

精神力:82 ⇒100

《固有スキル》

【異世界の記憶Level:1(EX)】

(《特殊スキル》)

(【守護者Level:1】)

《スキル》

(【見切りLevel:3】【身体強化Level:2】)

【雑用Level:1(E)】【精神耐性Level:1(B)】

【気配感知Level:2(B)】【棒術Level:1⇒3(D)】

—————————————

—————————————

ゴブリン

Level:6

《ステータス》

体力:200/200

魔力:10/10

攻撃力:40

防御力:38

敏捷力:47

精神力:31

《スキル》

【棍棒術Level:2】

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ホブゴブリン

Level:13

《ステータス》

体力:470/470

魔力:70/70

攻撃力:103

防御力:107

敏捷力:102

精神力:100

《特殊スキル》

【統率Level:2】

《スキル》

【棍棒術Level:3】

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