第3話 固有スキル【異世界の記憶】

「―――はッ!?」


 突如俺の意識が浮上する。

 しかし先程までは全く無かった体の痛みと混乱でフラッとしてしまうが、何とか耐えて辺りを見回す。

 首が九〇度折れているゴブリンの死体以外は何も変わらない。

 あの時俺は間違いなくゴブリンが振り下ろす棍棒が当たるはずだった。

 しかしいきなり視界が真っ暗になって……気付けば目の前でゴブリンが死んでいた。


「い、一体何がどうなって……」

「――大丈夫お兄ちゃん?」


 俺がわけが分からず頭を抑えていると、後ろから梨花の声が聞こえたので振り向くと、心配そうな表情で俺を見ていた。

 そうだ、自分で分からないなら俺を間近で見ていた梨花に聞けばいいじゃないか。


「ああ大丈夫だ……。なぁ梨花、俺がゴブリンに殴られそうになった後おかしな事なかったか?」

「おかしな事……? あ、でもいきなり物凄く強くなってたよお兄ちゃん。別人みたいに物凄い速さでゴブリンの棍棒を避けて首に鉄パイプをぶつけてたよ」


 別人みたいにね……やっぱり最後に見たあの表記の効果だろうな。

 

 俺は最後に見た【記憶再現】を思い出す。

 此処からはただの推測になってしまうが、きっと異世界の誰か強い人の記憶を一時的に俺の中にインプットさせて記憶通りに動かさせたと言うのが一番近い気がするな。

 再現なら俺とその異世界の記憶の誰かがほぼ同じ動きをしているはずだし。


「だからこんなに体が痛いのか……」

「ん? どうしたの? あっ、もしかしてさっきのスキルなの?」


 梨花が興味津々と言った風に俺に顔を近づけて聞いてくる。

 だがここはまだ危険なゾーンなのと、俺自身把握しきれていないスキルなので、少し無理やりではあるが話を変える。

 

「そう言えばこのショッピングモールの中に何か武器になりそうなの知ってるか?」

「むぅ……露骨に話題を変えた……もういいよ。……ないよ。このショッピングモールってプレイヤーも来るけど一般の方の方が来るから武器は売らないようにしてるんだって」

「そうか……」


 なら完全に逃げの一択だな。

 俺のレベルじゃどうあがいてもホブゴブリンには勝てないし……レベル?


「――ステータスオープン――」


—————————————

八神響也 17歳

Level:3(+2)

《ステータス》

体力:100/240(+40)

魔力:100/120(+20)

攻撃力:45(+10)

防御力:39(+6)

敏捷力:48(+12)

精神力:61(+14)

《固有スキル》

【異世界の記憶Level:1(EX)】

《スキル》

【雑用Level:1(E)】【精神耐性Level:1(B)】


《【棒術】習得まで残り8体》

————————————— 

 

 おっ、レベルが上がってるな。

 確かゴブリンのレベルが五くらいだったはずだから、一体倒すだけで二つ上がるのは予想通りだ。 

 まぁだが次は一つ上がるかも分からない。


 しかしそれはそれとしても、【棒術】のスキルは欲しい。

 今梨花の身どころか自分の身すら守れないくらいの強さしかないので、何としてもこのスキルを手に入れたい。

 更に言えば、自分達で探していた方が不意打ちされるよりもマシだからな。


「……梨花、少し聞いてくれるか?」

「何、お兄ちゃん?」

「これから俺は後8体のゴブリンを殺して【棒術】のスキルをゲットしようと思うんだ。だから……」

「いいよ」

「……え?」


 俺が全部を言い終わる前に梨花がオッケーを出す。

 そのため逆に俺が呆気に取られてしまった。

 

「い、いや提案する俺が言うことでもないけど……大丈夫なのか?」


 俺が恐る恐るそう聞くと、自身のガタガタと震える体を抱きしめながら梨花が頷く。


「確かに怖いけど……お兄ちゃんの足を少しでも引っ張りたくないの」


 覚悟の意思を瞳に宿して梨花が言う。


「よし、なら後少しだけ我慢してくれ。出口に向かいながらゴブリンを探して【棒術】を手に入れたらすぐに逃げよう」

「うん!」


 俺たちは息を潜めてゴブリンを探すと共に、ショッピングモールの出口に向かって歩き出す。

 取り敢えずこのショッピングモールを出ることが先決だな。


 ショッピングモールは俺たちが隠れるのを助けてくれる地形だが、逆に言えばゴブリンが何処にいるのか分からないので、その分危険度も精神的恐怖も高くなる。

 だが外ならある程度見渡せるし、その気になれば乗り捨てられたバイクにでも乗って逃げることができる。

 流石にゴブリンではバイクの速度に追いつかないからな。


 俺たちがゆっくりと周りに警戒しながら歩いていると、靴屋の中にいるゴブリンを見つけた。

 すると急に、先程も出た表示が現れる。


《【気配感知】の入手条件――隠れた敵を見つける――を一部満たしました。残り4体です》


 その表示は新たなスキルの解放条件だった。

 しかも今俺たちに一番必要な不意打ち対策にもなるスキル。

 

「凄いなこのスキル……」


 俺は自身の固有スキルの凄さに感嘆しながらも、警戒してゆっくりと近づいていく。

 するとまた目の前に半透明なボードが現れた。


《対象――ゴブリン。

 弱点――頭。

 タイミング――バレなければそのまま、バレれば振り向いた瞬間。

 予測――振り向く》


 固有スキルが言うには、俺たちはバレるらしい。

 なら振り向いた瞬間に脳天かち割ってやる!


 俺達は鉄パイプを構えてゆっくりと近づいて行くが、スキルの通り突然ゴブリンの動きが止まったかと思うと、此方を振り向いた。

 

「今だ! はっ!!」


 俺は振り向いた瞬間に鉄パイプをゴブリンの脳天に振り下ろす。

 するとゴブリンは特に何もすることが出来ずに『ゴシャ!』と言う音を立てて頭が潰れた。

 しかし鉄パイプも当てたところがグニャッと曲がってしまっており、使い物にならなくなってしまった。


 俺はまだ予備が何本かあるのですぐに捨てる。

 しかしその瞬間に俺の体が突如おかしい程に震え出した。


「…………え?」

「だ、大丈夫お兄ちゃん!? どうしたの!?」


 梨花も突然ガクガクと震え出した俺に驚いているが、一番俺が驚いている。

 

「あ、あれ? お、おかしいな……どうして震えが……」


 意味が分からず混乱していると、突然今度は震えが収まった。

 更に意味が分からなくなり、取り敢えずステータスボードを見てみると《【精神耐性】が発動しました》と書いてあり、そこで初めて今の震えが人間に似たモンスターを殺した事への恐怖だと気付いた。

 あの頭蓋骨を割る感触は今でも手に残っている。

 しかし先程とは違い、スキルのお陰か震えは起きない。


「……本当に駄目だな俺は……こんなんじゃ梨花を守れねぇ」

「お兄ちゃん……?」


 俺は気合いを入れるため一度パンっと頬を叩く。

 頬のヒリヒリのした痛みが俺の心を冷静にしてくれる。


「よし、もう大丈夫だ。それじゃあ次行くぞ梨花」

「むぅ……私は何も分からないのにー! 後でちゃんと教えてね!」


 そんな梨花のお小言を貰いながらもショッピングモールの出口へと向かった。 


——————————————————————————

 ☆とフォローしてくださると嬉しいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る