第2話 ステータス

「ギャアアアアアアア!?!?」

「ぐっ――」


 ゴブリンは時速六〇kmを超えたバイクの衝突に全身をぐちゃぐちゃにして吹き飛ぶが、俺も無傷なわけもなく空中に投げ出される。

 そのまま受け身を取り損ねて地面に激突するが、ぎりぎり打撲程度の痛みで済んだ。


 俺は痛む体に鞭を打って呆然としている梨花の下へ向かい、その震えた体を抱きしめる。


「梨花! 大丈夫か!? お兄ちゃんがモンスターはぶっ殺したぞ!」

「お、おにいちゃん……?」

「そうだ。梨花の世界一頼りになるお兄ちゃんだぞ! 怪我はしてなさそうだが……大丈夫か?」


 俺は梨花の体を見て聞く。

 すると梨花はやっと助かったことを自覚したのか目から涙を溢れさせて今度は梨花が俺に抱きついてきた。


「こ、怖かったよぉぉぉぉ……死ぬかと思ったぁぁぁ……」

「大丈夫だ。お兄ちゃんが居る限り守ってあげるから」


 梨花が少しでも落ち着くように背中をさする。

 そうしたら少しの時間が経つと泣き声が聞こえなくなってきた。

 もう大丈夫かなと思いゆっくりと手を離すと、目を真っ赤に腫らした梨花が、


「あ、ありがとうお兄ちゃん……私を助けてくれて」


 そう言って笑顔を浮かべる梨花。

 俺もそれにつられて自然と笑みが浮かぶが、直ぐに顔と心を引き締める。


 まだ此処はモンスターの巣窟。

 プレイヤーが全部のモンスターを倒してくれるまでは安心出来ない。

 ダンジョンブレイクは、そのダンジョンのボスモンスターを倒さなければ終わらず、倒されるまでどれだけ下っ端を倒そうが意味がないが、一度外に出てきたモンスターはボスを殺しても活動を続けるので一匹も取り逃がしてはいけない。

 だからそんな事が起きないようにダンジョン管理局が管理しているはずなのだが、どう言う訳か出現してしまった。

 まぁ理由は後でダンジョン管理局に問い詰めるとして、俺も自分にできることをしよう。

 

「――ステータスオープン――」


 俺はプレイヤーなら誰もが口にする言葉を紡ぐ。

 

 ――ステータスオープン。

 それは人間がモンスターに対抗するために必要なステータスを見えるようにするための合言葉のようなものだ。

 そしてステータスの取得条件はモンスターを一体でも倒すこと。

 

 因みに俺はバイクでゴブリンを殺したのでステータスの取得条件を達成している。

 なので出てくるはずなのだが……


「…………うわっ!?」

「? どうしたのお兄ちゃん?」

「い、いやなんでもない……気にしないでくれ」


 梨花は首を傾げながら俺の言葉を疑っているが、それよりも目の前のステータスに夢中だった。


「こ、これが俺のステータス……!」


—————————————

八神響也 17歳

Level:1

《ステータス》

体力:130/200

魔力:100/100

攻撃力:35

防御力:33

敏捷力:36

精神力:47

《固有スキル》

【異世界の記憶Level:1(EX)】

《スキル》

【雑用Level:1(E)】【精神耐性Level:1(B)】

————————————— 


 俺は自分のステータスを見て自分の立ち位置を分析する。

 両親に聞いていたステータスの平均値が大体三〇前後のはずだが、俺は平均三五は余裕である。

 そして魔力も決して少なくないし、体力もこのLevelではトップクラスに高い。


 日々のバイトの成果だろうか?

 バイトを何個も掛け持ちすると、余りのキツさと辛さに心体共に鍛えられる。


 しかし俺はステータスよりも、とある所が気になっていた。

 それはスキルの上にある《固有スキル》の文字。

 固有スキルとは、大体一〇万分の一の人が持っている唯一無二の強力なスキルだ。

 現在の日本にいる一〇人のS級プレイヤー全員が固有スキルを持っていて、どれもチート級に強く、A級プレイヤーとは強さの格が違うらしい。

因みに歴代の固有スキル持ちは全員A級以上のプレイヤーになっている。

 

 そんなスキルを俺も持っているのだ。


「【異世界の記憶】か……一体どうやって使うんだろうな。それに……そもそもスキルってS級までしかなかった気がするんだが」


 しかし俺の【異世界の記憶】の横にはEXの文字があり、EXはどんなラノベでもSよりも強いのがテンプレだ。

 この世界はラノベではないので本当にS級よりも強いのかは知らないが……っと、そんな事を考えるよりも先に出来る限りダンジョンから離れないと。

 幾ら俺が固有スキル持ちだとしても、まだレベル一で尚且、攻撃スキルすら持っていない俺では、正直ゴブリンにすら勝てないだろう。


「見つからない様に逃げないと……立てるか梨花?」

「うん、もう大丈夫だよお兄ちゃん」


 俺は梨花に手を差し伸べて立ち上がらせると、辺りを警戒しながら歩いていく。

 やはりモンスターは此処には居ないのか、物音一つしない。

 しかしもしかしたら動いていないだけかもしれないので警戒は解けない。


 はぁ……それにしても、このスキルは一体どうやって使うんだろうな?

 見た感じ戦闘系でも回復系でも……それこそ俺が知っている全系統のスキルのどれとも似ているような物が思いつかない。

 しいて言うなら支援系だろうか?


 俺は出しっぱなしのステータスの固有スキルを横目に考えていると、一つ先の曲がり角から音もなくゴブリンが現れた。

 その姿を確認した瞬間に急いで鉄パイプを空間バッグから取り出すと、梨花を守る様にして立ちはだかる。


「梨花! 絶対に俺の後ろにいろよ!」

「う、うん!」

「グギャギャ? グギャグギャ!!」


 俺が弱いと思っているのか、ゴブリンはニヤリと加虐的な笑みを浮かべるとゆっくりと此方に歩いてくる。

 俺はブンブンと近づけないように鉄パイプを振り回すが、あの加虐的な笑みを崩すことなくゴブリンが近づいて――


《――所持者の命の危機のため【異世界の記憶】の効果により、戦闘に強制的に介入にします。

 敵――ゴブリン。

 弱点――首への殴打や斬撃。

 タイミング――棍棒を振り下ろした瞬間。

 予測――縦に真っ直ぐの振り下ろし》

《【棒術】の入手条件は、一〇体のゴブリンを一人で倒すことです。残り九匹》


 と言う表記が俺の目の前に現れる。

 な、何なんだいきなり……これが異世界の記憶のスキル効果なのか?

 ならやってみるしか無い――!


 俺は覚悟を決めて鉄パイプを構える。

 チャンスは一度きり、失敗したら待っているのは死のみ。

 だが俺は先程一瞬でゴブリンに勝ったことで気付いていなかった。

 自分とゴブリンとのレベル差がそもそも違い、他のプレイヤーと違って攻撃スキルも対モンスター用ライフルも持っていなかった事を。


 ゴブリンが俺の構えを見て突如走り出す。

 そして気付けばあっという間に目の前におり、直ぐに棍棒がスキルの言った通り真っ直ぐに振り落とされるが、俺はそれをただ眺めていることしか出来なかった。


 あっ―――終わっt――――


《―――所持者の敗北を予測。只今より【記憶再現】モードに入ります》


 その瞬間、俺の意識は暗転した。













《レベルアップしました》

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