第9話 賢者の失われし部屋

 俺はゆっくりと鍵を回す。

 すると、突然『ガガガガッッ!!』と言う音と共に、ボス部屋の奥側の壁がなくなり、階段が出来た。

 

「……何も見えねぇ……」


 俺は警戒しながら近付いてみるが、道は今までとは違って暗闇に支配されていた。

 しかしモンスターの気配もないので、懐中電灯を付けてゆっくりと進んでいく。


 階段には特に罠などもなく、明かりがあれば意外と歩きやすい。

 しかしその代わりなのか知らないが、物凄く長い。

 ほんと気が滅入りそうなくらい長く、俺も既に三〇分は歩いているがちっとも終りが見えてこない。


「これで何か良いものがなかったら許さん」


 俺は一回も会ったことがないのに、既に賢者のことが嫌いになりそうになっていた時――


《隠し部屋――賢者の失われし部屋を発見しました》


 と言う表示と同時に一気に辺りが明るくなる。

 

「うわっ!!」


 先程まで真っ暗闇に居た俺にとって、いきなりの光は非常にいけない。

 しかしこんな無防備な状態を晒しているにも関わらず、何かされる気配はなく、俺は思わず首を傾げる。


 やっと目が光に慣れてくると、ゆっくりと目を開く。

 そこには様々な本が置いてある本棚がズラーッと並び、部屋の隅には小さな机がこじんまりと置かれている。


「……これなら武器は絶対にないな」


 俺はそう断言するが、実際その通りだった。

 一応部屋をぐるっと一周してみるも、特に武器や防具のようなものは置いていない。

 本棚に入っている本は、読めないどころかそもそも白紙で何も書いていなかった。

 それも一冊ではなく、俺の確認した限りでは全て何も書いていない。

 俺はそのことに理解出来なく首を傾げる。


 読めもしない本がどうしてこんなにあるんだ? 

 まるで本棚から興味・・・・・をなくさせるような・・・・・・・・・……。


 そんな事を考えていると、突然俺の目の前に何時もの表示が現れる。

 だが、その表示は意味不明だった。


《本を読めば力が手に入るだろう。しかし必ずしも本と言うわけではない》

 

「……何だこれ? 謎解きみたいだな……でもこれを解き明かせば力が手に入るんだろ?」


 俺は誰も居ないと分かっていながら問いを投げかける。

 すると又もや表示が現れた。


《報酬――賢者の魔水、スキル【時空魔法】、【魔力親和】》


「おおおおおお!! 時空魔法とか世界最強の魔法じゃないか!? 魔力親和って言うのは聞いたこと無いが……」


 時空魔法は、アメリカが誇るS級プレイヤーの持っているスキルで、巷では世界最強は彼女なのではないかと噂されるほどの物凄いスキルだ。

 彼女と相対したら最後。

 自分が気づかない間に死んでいるらしい。


 そんなスキルがF級ダンジョンで出て良いものなのか!?

 まぁあのスライムは明らかにF級ダンジョンを逸脱していたからな。

 

 そもそも自分の階級よりも下のダンジョンには、何かの依頼とかが無い限りは入ってはいけない。

 それは、プレイヤー全体の力を底上げするためだ。

 強いプレイヤーがダンジョンを攻略しまくれば、その分弱いプレイヤーが増える。

 そんな状況を改善させるための規則だ。


 なので、F級プレイヤーでは到底あのスライムは倒せないだろう。

 まずソロでないといけないと言う決まりがあるくらいだし。


「――っと……そんな事はいいとして……取り敢えず探してみるか」


 俺は様々な本を手にとって、中を見てみたり、表紙や背表紙を見ていると、全ての本に一つの共通点があることに気付いた。

 何と書いてあるのかは分からないのだが、背表紙に文字のようなものが書いてある。

 もしかしたら異世界の言語だろうか?


《異世界文字を発見しました。これより翻訳に入ります》


「……まさかの本当に異世界の文字だったのか……それに翻訳までしてくれるとは」


 改めて【異世界の記憶】スキルの凄さを思い知った。


 それからは永遠と背表紙の文字の解読。

 どうやら文字というよりは異世界での数字らしく、本棚にきれいに収めてあったままを持って解読したのだが、全て不規則に並んでいた。

 もしかしてこれを番号順に並べるのだろうか?


 その予想は当たっており、実際に本棚に『一から』と言う文字が刻んであった。

 俺は一つ一つ翻訳して番号順に並べていく。

 しかしこの部屋に本が何千とあるので、物凄い時間がかかるし面倒くさい。

 だが報酬のことを思うとどうしてもやめられない。


 結局俺は全八〇〇〇冊を並び終えるまでひたすらに翻訳する羽目になった。





***





「はぁはぁ……これでラスト……八〇〇〇ッッ!! ――終わったああああ!!」


 俺は最後の本を本棚に入れ終わると、大の字になって床に寝転ぶ。

 もはや疲れたという領域を超えて達成感しかない。

 

 俺が一人達成感に酔いしれていると、突然部屋全体の明かりが消え、本棚が光りだす。

 

「――!? な、何だ!?」


 俺は急いで起き上がると、《変幻自在》を棒に変えて戦闘態勢に入る。

 しかしモンスターなどの気配は一切なく、本棚が光っていること以外何もない。

 だがその本棚の光も直ぐに消えて、部屋の明かりがついた。

 

「……何だったんだ?」


 俺は全く状況が理解できず困惑の表情を浮かべるのみ。

 するとそんな俺の状況を察したかのように何時もの表示が現れた。


《条件を達成しました。賢者の魔水を獲得しました》

《特殊スキル――【時空魔法】、【魔力親和】を獲得しました》

《賢者の魔水を使用しますか? Y/N》

 

 俺はその表示を見た途端にYの方を押す。

 するといきなり小さな瓶が手に現れた。

 これが多分賢者の魔水なんだろう。


 俺は躊躇せずに瓶の蓋を開けて飲み干す。

 そして直様ステータスを開く。



—————————————

八神響也 17歳 

Level:19(+6)

《ステータス》

体力:560/560(+120)

魔力:1280/1280(+1060)

攻撃力:125(+30)

防御力:87(+18)

敏捷力:144(+36)

精神力:173(+42)

《固有スキル》

【異世界の記憶Level:2(EX)】

《特殊スキル》

【守護者Level:2(A)】【時空魔法Level:1(S)】

【魔力親和Level:1(SS)】

《スキル》

【身体強化Level:3(D)】

【雑用Level:2(E)】【精神耐性Level:3(B)】

【気配感知Level:3(B)】【棒術Level:4(D)】

—————————————

 

「……………は?」


 俺は自分のステータスを見て間抜けな声を出す。

 だがこれは絶対にしょうがないことだと思う。


「いやいやいや、魔力一〇〇〇アップ? そんな馬鹿な。現S級プレイヤーの最高魔力が一五〇〇なのに……後少しで追いつくじゃん」


 俺は嘘ではないかと何度も確認するが、どうやら嘘でも見間違いでも無いようだ。

 賢者の魔水がまさかそこまで魔力を増加させるものだったとは、流石の俺でも想像していなかった。


「……まぁ強くなれたならいっか。うん、それで良い」


 俺はそう思うことにして見て見ぬ振りを始めた。

 


——————————————————————————

 ☆とフォローしてくださると嬉しいです。

 

 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る