第8話 シークレットボス

 俺はそれから四〇分掛けてダンジョン内の通常モンスターのコボルトを全て倒した後、ボス部屋の前に来ていた。

 洞窟の中にいきなりデカい扉があってびっくりしたが、ダンジョンだということを思い出して、こう言う事もあるかと納得。

 案外俺は適応能力が高いのかもしれないと思った瞬間であった。


「それにしても……意外と狭いな。これなら一時間以内にボスを倒せるかもな」


 流石にF級のダンジョンなだけあって、思ったよりも狭くモンスターの数も少なかった。

 そもそもダンジョンの等級は、ダンジョンが発している魔力値によって決まる。

 魔力値が高ければその分広さもモンスターの脅威度も高くなり、低ければ低いほど狭くて雑魚モンスターしか居ないと言うわけだ。

 

「よし、それじゃあ一〇分以内に・・・・・・ボスを倒すぞ!」


 俺はそう意気込んでボス部屋の扉を開けた。


 とある目的を達成するために——―







《隠し部屋を発見――賢者の秘密基地。

 条件―――魔法スキル未所持。レベル十五以下。全モンスターとボスを一時間以内にソロで討伐》





***





 ボスの部屋は今までの洞窟のような感じとは違い、古代文明の遺跡の様な部屋だった。

 そして真ん中にコボルトエリートと言うコボルトを大きくしたようなモンスターが居るはずなのだが……


「何だあれ……?」


 俺の目の前には体長一、二m程のウネウネしたスライムのような生物が蠢いていた。

 本来スライムは色があったとしても体が透けているのだが、コイツは全く透けていないどころか、色んな物を混ぜたような姿をしている。

 

「でもキメラではないし……こんなの見たこと無いぞ」


 全く正体が分からず頭を抱えていると、俺の頼みの綱が反応した。


《戦闘開始を予測。残り三〇秒。

 対象――捕食者プレデター

 弱点――核

 タイミング――攻撃が止んだ瞬間。

 予測――触手五六本同時発射》


「…………は? 何だよその出鱈目な攻撃回数。絶対避けきれないだろうが」


 思わず愚痴が出てしまうほどの予測に俺は一瞬心が折れそうになる。

 しかし更に絶望的な情報が入ってきた。


《対象のステータスを表示します》


—————————————

捕食者(分体) ??? シークレットボス(弱体化)

Level:40⇒20

《ステータス》

体力:核が破壊されるまで

魔力:1500/1500 ⇒750/750

攻撃力:300 ⇒150

防御力:0

敏捷力:300 ⇒150

精神力:0

《固有スキル》

【捕食(SS)】

—————————————


「…………」


 もはや言葉も出ない。

 現時点の俺のレベルは一三。

 相手が幾ら弱体化していてレベルが二〇になっていた所で勝てる気がしない。

 

 だが大切な所を忘れてはいけない。

 今まで俺が勝てない相手には必ず【記憶再現】が発動していたけど、今回は発動していないと言う事は――


「俺でも勝てる相手だということだッ!!」


 俺は捕食者を観察して弱点である核を探す。


 今回の敵は今までと違って体力が存在しない。

 と言う事は闇雲に攻撃しても意味がないと言う事だ。

 そしてどうせコイツは核を動かせるはずだから、しっかりと認識して尚且その動きを予測してから攻撃しないといけない。


「取り敢えず……ヤツの攻撃を見てからだな」


 どうやらコイツは触手で攻撃してくるそうなので、攻撃範囲が必ずあるはずだ。

 無限に伸ばせるのならそれはもはや生物ではないからな。

 まぁコイツが生物なのかは不明だが。


 俺が必死に考えていると、遂に捕食者が攻撃を開始した。

 沢山の触手が俺に向かって弾丸のように向かってくる。

 

「くッ―――はぁああああああ!!」


 俺は気配感知で触手の気配を読みながら自分に近いものから順に攻撃を弾いていく。

 しかし俺のステータスでは捌ききれず、致命傷は避けているもののどんどん傷が出来ていく。

 スライムの癖に何故触手に当たると切り傷が出来るのかは分からないが、これ以上はマズい。


 俺は【身体強化】を発動してステータスを底上げし、【異世界の知識】の予測と【気配感知】を使って触手を弾きながら無理そうなものだけ避けると言う戦法に変えて、防除しながらも着々と距離を詰めていく。

 人間の適応能力とは凄いもので、始めは全く追いつけていなかった触手のスピードにだんだん慣れてきて楽に弾けるようになってきた。


《隠れステータス――反射神経が上昇します》

《隠れステータス――反射神経が上昇します》

《隠れステータス――反射神経が上昇します》

《隠れステータス――反射神経が上昇します》

 

「何だこの隠れステータスって?」


 俺は聞いたこと無い言葉に攻撃を弾きながら首を傾げる。

 ……まぁそれは後でいいか。

 そんなことよりも先にあの化け物の核を見つけないと……。


「だけど肉眼では視えないし……気配を感知しようにも触手で手一杯だし……」


 今では思考をしながらでも対処出来るようになったが、流石に気配を感知しなければ攻撃を捌ききれない。

 しかしこのままでもジリ貧で、どんどん俺が不利になっていく。

 そんな行き詰まっている時に、突如ステータスボードが開き、とある所の表示が変わっていた。


—————————————

八神響也 17歳 身体強化中

Level:13(+2)

《ステータス》

体力:300/440(+40)

魔力:200/220(+20)

攻撃力:95(+10)⇒115

防御力:69(+6)⇒89

敏捷力:108(+12)⇒128

精神力:131(+14)

《固有スキル》

【異世界の記憶Level:1(EX)】

《特殊スキル》

【守護者Level:1】

《スキル》

【身体強化Level:2(D)】

《【雑用Level:1(E)】》【精神耐性Level:2(B)】

【気配感知Level:2(B)】【棒術Level:3(D)】

—————————————


 ………………【雑用】?

 このスキルが何か役に立つのか?

 まぁでも手詰まりなわけだし、やるだけやってみるか。


「【雑用】発動!!」


 ………………………。


 俺は試しにそう言ってみるが、何も起きない。

 やはり駄目か……と思った瞬間――


「!? 見える!? 化け物の核が見えるぞ!?」


 ふと化け物を見た時に体の一部が丸く光っており、絶えず動いているのが確認出来た。 

 あれが核と言うものだろうか?

 いや、もう何でもいいから取り敢えず試してみるしか無い。


 俺は覚悟を決めて回避を捨てて前に足を進める。

 致命傷になりそうな攻撃は棒で弾いて、化け物の攻撃が緩んだ一瞬の隙に一気に接近。


「――――ッ」

「これで攻撃出来ないだろ―――くたばれッッ!!」


 俺は棒の先を尖らせて光の球目掛けて全力で刺す。

 化け物は絶対に核を破壊されない自信があったのだろうか?

 なんて思うほど何の防御もすることなく狙い通りに光の球――核に寸分違わず突き刺さる。

 

 その瞬間に化け物が『ビクンッッ!!』と体を震わせたかと思うと、触手が突然力を失ったかの様にビチャッと地面に飛び散った。

 

《レベルアップしました》

《レベルアップしました》

《レベルアップしました》

《レベルアップしました》

《レベルアップしました》


 レベルアップを知らせる表示が大量に現れて、化け物が死んだことを俺に知らせてくれる。

 俺はその瞬間に膝から崩れ落ちた。

 緊張が解け、一気に疲労と頭痛が体を襲ってきたからだ。

 もう体を動かす力すら残っていないと感じてしまうほどの疲労感を感じていた。

 しかしその状態も長く続かなかった。


《ダンジョンをクリアしました。報酬として状態を全快させます》


 そんな表示が現れると共に、いきなり俺の体から疲労感や痛みが無くなった。

 それどころか何時もよりも元気なまでもある。


「これがクリア報酬か……しょぼいな」


 なんて思った瞬間だった。


《シークレットクリア報酬としてレベルと全スキルのレベルを一つ上昇させます。更に隠し部屋――賢者の秘密基地の鍵を入手しました》


「よっしゃああああああ!! 頑張ったかいがあったぜ!!」


 俺はジャンプして喜ぶ。

 もしこれでいい物が手に入ればもっとお金が貰えて梨花との生活を楽にできるかもしれない。

 そう思うと余計に嬉しく感じた。


「ふぅ……一旦落ち着こう。喜ぶのは隠し部屋に入ってからだ」


 俺は一度深呼吸をしてからクリア報酬の鍵を取り出す。

 見た感じ普通の鍵だが……何処に刺すのだろうか?

 

 そかしその疑問はすぐに解消され、目の前に鍵穴が突如出現する。

 俺は一瞬ビクッとしてしまうが、直ぐに落ち着き、そっと鍵を鍵穴に刺して回した。



 

 


 

 

 

 

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