第7話 F級ダンジョン攻略
――二週間後――
俺は初めてのダンジョン攻略に行くための準備を終えて出発しようとしていた。
「じゃあ行ってくる。梨花は俺が居ないからってはっちゃけ過ぎるなよ」
「大丈夫だよお兄ちゃん! 私はもう子供じゃないよ」
「任せて下さい、梨花ちゃんは私が責任を持って守りますから!」
俺の言葉に頬を膨らまして反論する梨花と、自分に任せろと胸を張る梨花の護衛の
彼女は協会から派遣されたB級プレイヤーで、俺よりも遥に強い。
そんな上位プレイヤーの結衣さんだが、俺も彼女もお互いのことを知っていた。
一週間前の顔合わせで会った時に、お互いの顔を見て発した言葉が、
『あっ! この前のお姉さん!!』
『あっ! この前配達に来てくれた妹思いの子!」
と言う感じで、まさかの最後に荷物を届けに行ったマンションに住んでいた女性だった。
始めは何故助けてくれなかったのかと突っかかりそうになったが、どうやら彼女は別のダンジョンへの攻略依頼があったらしく、俺から荷物を引き取った後で直ぐに別の地方に飛んでいたらしい。
そして戻ってみれば自分の家が壊れており路頭に迷っていた所を、朝霧さんの依頼で住み込みになると聞き飛びついたんだとか。
俺はもう少しじっくり考えようとしたのだが、梨花が「可哀想だから結衣さんでいいでしょ?」と言ってきたのでしょうがなく了承することに。
その時の結衣さんの喜び方は、まるで宝くじが当たったかの様な異常なテンションで、俺が不思議に思い「どうしてお金があるはずなのに他の所を借りないんですか?」と理由を聞くと、一人は寂しくて耐えられないと言う意外な答えが帰ってきた。
それで今は俺達の家に居候しているのだが……この一週間ですっかり馴染んでしまった。
俺は二人の仲よさげな姿を見てはぁ……とため息を吐く。
「本当によろしくおねがいしますよ」
「何回も言うけど任せて下さい! これでも私強いので!」
「……それじゃあ行ってきます」
「「行ってらっしゃい!!」」
最後にマウントを取られた気がするが、無視して、俺は二人の声を聞きながら家を出た。
***
「……本当に交通費は出してくださるんですよね?」
『勿論です。それも専属プレイヤーの特権です。如何なる時でも交通費はタダです』
俺は電車とバスを使ってある程度の所まで言った後、歩きながら今日攻略しに行くF級ダンジョンに向かいながら朝霧さんと電話をしていた。
先に言っておくと、結局俺は協会と専属契約を結んだ。
梨花が結衣さんを気に入り、結衣さんが協会の専属プレイヤーだったからである。
そして攻略報酬だけでなく、月に給料まで貰え、更には武器・防具の修理もタダと言われれば断る理由がない。
その際にステータスを見られてのだが、何故か固有スキルである【異世界の記憶】は表示されず、他のステータスのみが表示された。
理由は分からないが、俺的にも表示されない方がありがたいので特に問題はない。
それに特殊スキルを手に入れていたお陰で覚醒後すぐにボスモンスターを倒せたことに怪しまれなかった。
「ほんとに良かったよ……」
『何か言いましたか?』
「い、いえ、何でもありません」
俺は出来るだけ取り乱さずに返答する。
電話越しだったためよく聞こえていないようで安心した。
そう言えば今回のダンジョンの敵は、ゴブリンほどの大きさだが、上半身が犬のような見た目をしたコボルトと言うモンスターで、強さはゴブリンと大して変わらないが、鼻が良いらしく正面切って戦わないといけないらしい。
まぁそもそも俺のレベルはコボルトよりも上なので隠れて奇襲する必要はないのだが。
「そろそろ着くので切りますね」
『分かりました。それではご武運を』
俺は最後に「ありがとうございます」とだけ言って電話を切り、目の前にある洞窟型のダンジョンに感嘆の声を漏らす。
「これがダンジョンか……」
此処は別に山とかではなく、普通の町中なのだが、そう言った物はお構いなしにダンジョンが出来るため、場所に不釣りあいな物が出来ることはよくある。
今回のダンジョンもそうだ。
だが外見のことはこれくらいにしてさっさと入ってしまおう。
俺はダンジョンの横に建てられているダンジョン管理局に入ると、受付の者に協会で貰った専属プレイヤーのバッジを見せる。
すると受付の女性は大きく目を開いた後で、緊張気味に口を開いた。
「か、確認いたしました! それではお気を付けてっ!」
「ありがとう。頑張ってくるよ」
俺はバッジを受け取ってダンジョンに入った。
***
「中も洞窟って感じだな……」
俺がダンジョンの中に入って一番に思ったのはそんな事だった。
外見と中は違うのかと思ったが、想像通りの薄暗くて少しじめっぽい何処にでもありそうな所と言う印象が強い。
しかしちゃんと違う所もあった。
「ふむ……これがモンスターの足跡だろうな」
俺は地面にある人型の足跡を確認してその足跡が続く方を辿っていく。
「おっと、その前に――【
俺が言葉を発すると、腕にはめていた腕輪が光を放ったかと思うと変形していく。
最終的には前回俺が使った様な鉄パイプのような形状に変化した。
これは協会から貰った武器で、名は《変幻自在》と言うらしく、どんな武器にもなれるダンジョン産の貴重な遺物らしい。
更に魔力を通すことが出来、魔法を纏えるらしく壊れることもないと言う優れ物だ。
普通の武器は魔力を流そうとしても殆ど流れなかったり、爆散したりするので魔力を纏わせれる武器は貴重なのだとか。
そして何故棒にしたかと言うと、本当は槍や剣の方が良かったのだが、まだどちらのスキルも持っていないし初めてのダンジョン攻略なのでスキルを持っている棒にしたという訳だ。
俺は何回か棒を振って具合を確かめる。
「うん、完璧だな」
重さも長さも俺に丁度いいし、手によく馴染むので最大のポテンシャルを発揮できるだろう。
俺が気分を良くしていると、気配感知に何かが引っ掛かった。
数は三、強さは俺よりも下でプレイヤーではない。
俺は棒を構えてゆっくりと近付いていく。
そして角から広い空間を見てみると、三体のコボルトが槍のような武器を所持していた。
《戦闘開始を予測。
敵――コボルト。
弱点――ゴブリンと同様。
タイミング――槍を手放させる。
予測――三体同時に槍を腹めがけて一突き》
ふぅ……大丈夫だ。
ゴブリンと何も変わらないじゃないか。
それにホブゴブリンよりもあいつらは弱い。
「よし、行くか―――疾ッ!!」
俺は素早く角から姿を表すと、予測の通り三体同時に俺の腹めがけて突きを放ってきたので、ジャンプして槍を踏みつけると共に一体の脳天に棒を振り下ろす。
「「「バウッ!?」」」
情けない声を上げたコボルトは頭を失って倒れる。
残りの二体は突然のことに驚いているのかその場から動かないので、そのまま横薙ぎを一閃して槍を落とさせると、遠心力を利用して首目掛けて回転打ちを放つ。
俺の棒に当たったコボルトは首を横に九〇度に曲げでもう一体のコボルトの方に吹き飛ぶ。
仲間のコボルトに当たって体制を崩しているコボルトに脳天唐竹割りを繰り出しとどめを刺す。
「……ふぅ……取り敢えずどうにかなったな……」
俺は大きく息を吐き、コボルトの死体を協会に貰った空間ポーチに仕舞う。
モンスターの死体は素材になり、お金となるため持って帰る。
「さて……それじゃあとっとと攻略しますか」
俺は棒を構えて洞窟の奥へと足を運んだ。
―――この時の俺は知らなかった。
この先に化け物が潜んでいたことなど―――
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