第2話 ゴミスキルと追放

ウォーカー男爵領。


小さな田舎街だが、鍛冶師のお膝元ともあって優れた武具が取り扱われている。


そのせいか、冒険者たちが足繁く通っている街でもある。


そのおかげで街はそれなりの賑わいを見せている。


そんな街とも今日でお別れだ。


15年間、この街で血反吐を吐くような修行を重ねてきた。


究極の武器を作るための知識や経験を日々研鑽してきた。


だけど……たった一日でそのすべてが崩れ去ってしまったんだ。


「ライル=ウォーカー。神より授かりしスキルは……『研磨』」


その瞬間、全てが暗転したような思いだった。


だけど……まだだ。


研磨は鍛冶の工程の一つだ。


まだ、鍛冶師を続けられる……


そう、思っていた。


ただ、僕以上にショックを受けている人がいた。


父上……ウォーカー家の当主であり、当代きっての名工と言われるほどの人。


僕が初代様に次いで尊敬している人だ。


「神官長! そのスキルのランクはどうなのだ? もちろん最高のプレミア級なのだろうか?」

「申し訳ないが、ランクはない」


「ない!? ないとはどういうことです?」

「これは前代未聞だ。おそらくは……」


「レギュラーランクすらでない……と?」

「……うむ」


横で聞いていた僕は絶望を隠せなかった。


『研磨』スキルで、しかもレギュラーランク以下……。


スキルにはランクというものが存在する。


プレミア、スペシャル、レギュラーとなる。


鍛冶師で言うなら、プレミア級で一流名工と呼ばれる。


父上がそのランク。


次いで、一般名工と言われるのがスペシャル級。


レギュラーに至っては修行工と呼ばれる。


僕は修行工以下の存在だ。


僕と父上はとぼとぼと家路についた。


「親父!! ライルはどうだったんだ!?」

「ん? うむ……ライルは『鍛冶師』にはなれなかった」


兄のベイドだ。


『鍛冶師』のスペシャル級を持っている。


正直、鍛冶師貴族である我が家を継ぐには力不足は否めない。


それでも熟練度を上げていけば、いずれはプレミア級に上がるだろう……


そうなれば、十分に当主としての力量は身につくと期待されている。


もっとも、今の兄はそんな面影は微塵もない。


ただ、当主の座に固守するクソ野郎だ。


「ぷっ! はっはっはっ! 最高だな。あんなに苦労して、『鍛冶師』じゃないって。それで? 何のスキルなんだよ」


……。


父上は言いづらそうに真実を打ち明けた。


「へへへっ。俺を笑い死にさせる気か? 研磨なんて、下男の仕事じゃねぇか。ゴミスキルだな。お前、一生、俺の作った剣を研いでいろよ? な?」


ゴミスキルなんて……


父上はそんな兄を見ぬふりをして、どこかに行ってしまった。


今まで厳しくても、少しの優しさはあった。


その父上がどんどん遠ざかっていく。


ベイドの笑い声だけが妙に響く。


それから僕はベイドの作った剣を研磨する作業をひたすら続けた。


どんなに辛くても、鍛冶師としての仕事に携わりたかった。


その一心で、クソみたいなベイドの下でも文句を言わずにやってきた。


「このドヘタが!! てめぇのせいで、俺の素晴らしい剣が台無しになっちまったじゃねぇか!」

「そんな!! そんなのは言いがかりだ!!」


こいつの作る剣は、どんなに贔屓目をしても駄作だ。


いくら『鍛冶師』のスキルがあったとしても、スペシャル級であったとしても……


経験がなければ、大したものは作れない。


熟練度は☆1から5と上がっていく。


スペシャル級の☆1と下のレギュラー級の☆5はたいした差ではない。


その程度なのだ。


ベイドの実力は。


それでも僕は研磨を続ける。


ふとした、ある日。


久々に父上の姿を見た。


僕達とは違う工房を持っていて、そこで国王陛下に献上する剣を作成している。


ここにはきっと……


「親父。これを見てくれ!!」


ベイドの技能を確かめるためにやってきたのだろう。


研磨している途中だと言うのに、勝手に持っていってしまった。


「これは……お前が作ったのか?」


父上はじっとベイドの剣を見つめていた。


ベイドの使った酷い剣を……


父上も同じ感想を持つはずだ……


「親父。こいつを追い出そうぜ。こんな使えねぇ奴は、この家の恥だ! いいだろ?」


……こいつ。


「う……む」

「だそうだ!! 残念だったな。お前は追放!! そういうことで……」


蹴られるように外に追い出された。


……本当に追い出せれてしまったのか?


僕はこれからどこに行けばいいんだ?

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