第11話 幼馴染との再会
本当に拍子抜けするほど、普通の食事だった。
その前に武具に関心が高い公爵家のコレクションを色々と見せてもらった。
その中にはウォーカー家の代々当主の作品も含まれていた。
「これが……」
かなり説明が長かったが、はっきり言って……
とても興奮した。
名工と言われた人たちの作品をこうやって、間近で見られる機会はほとんどない。
デルバート様の説明はほとんど耳に残らなかった。
「さすがだな……」
それだけが耳に残った。
きっと、武具を褒めてのことだったのだろう。
さて、食事は……。
「アリーシャ。もうちょっと、ゆっくりと食べなよ」
「うぐっ……苦しい」
まったく、詰め込みすぎるから。
「君もすっかりお兄さんだな。おや? どうやら、良いライバル関係になってしまったようだな。どちらがいいお兄さんか比べようじゃないか!」
何を争っているんだ、この人は?
「……いえ、僕のお兄さん歴はデルバート様の比ではありません。比べるまでもないでしょう」
「うむ。まぁ、それもそうだな。大人気なかったな」
いや、そこで引かれても……
どちかというと、お兄さん比べをいい出した時点で考え直してほしかった。
「さてと、僕達はそろそろ……」
どれくらいの時間が経っているのだろうか?
アリーシャも食べ疲れてしまったのか、ウトウトしだしている。
僕もなんだか、眠いな。
なんだかんだで、コンテストに向けて睡眠を削っていたからな。
「ライル君。どうだろう? 今日はここに泊まっていかないかな?」
「それは……さすがに……あれ? なんで、こんなに眠いんだろう」
「ライル君……」
それを最後に僕は意識を手放してしまった。
目が覚めたのは真っ暗な部屋の中だった。
ソファーに横たわり、毛布だけがかかっていた。
「すっかり寝てしまったみたいだな。それにしても、ここはどこだろう? アリーシャは?」
薄暗い部屋にはアリーシャの姿はなさそうだ。
窓が少し開いていて、冷たい空気が部屋中に流れ込んでくる。
ちょっと寒いな。
閉めようと窓に近づくと、そこにはベッドがあった。
大きな、様々な装飾が施されたものだった。
さすがは大貴族だな。
客室にまで、こんなベッドを……
しかし、なんで僕はソファーに?
まさか、庶民にはベッドを使わせたくないということか?
……と思っても怒りなんて湧かない。
それが当然か。
カーテンがゆらゆらと揺れ、月明かりがベッドの上を明るく照らした。
人?
誰か、寝ているのか?
まさか……
「アリーシャ? そこにアリーシャがいるのか?」
さすがに僕を差し置いて、ベッドで寝るとは思えないけど……。
だけど、デルバール様なら考えられるな。
とにかく、帰ったほうがいいだろう。
朝までいたら、いつ帰れるかわからないもんな。
あとで勝手に帰ったことを謝罪しておけば……
「アリーシャ。さあ、帰ろう。僕が背負ってあげるから」
手探りでアリーシャの体に触れた……つもりだった。
柔らかい?
なんだ、この弾力のある柔らかさは。
これは……アリーシャじゃない!
一体、誰なんだ?
「ん……だれ? お兄様?」
女性の声のようだが、とても掠れている。
まるで老婆のようだ。
だけど……不思議と懐かしい感じがした。
「僕は……」
「ひっ!! だれ? お兄様じゃ……ない?」
その人は動こうと必死になってはいるが、位置は全く変わることはなかった。
「動けないんですか?」
「だれ……だれなの?」
「僕はライル。デルバール様に夕飯に招待されたんだけど、眠っちゃって。気づいたら、ここにいたんだよ」
「……」
そうだよね。
いくらなんでも、僕がいていい場所ではない事くらい分かっている。
それにきっと、この人は重い病気なのだろう。
月明かりがこの人のシーツから覗かせる体を映し出した。
痛々しいまでの包帯が巻かれ、顔にも幾重にも巻かれていた。
かろうじて、目だけがこちらを向いていた。
青い瞳……デルバール様と同じ瞳をしている。
きっと、縁者か何かなのかもしれない。
「失礼しました。僕はいなくなりますね」
ゆっくりとベッドから降りる。
少しでも振動させないように……きっと、この人が痛むだろうから。
「待って」
それはとても小さく、か細い声だった。
それでも僕は聞き逃すことはなかった。
「僕とどこかでお会いになったことがありますか?」
変な質問だが、どうしても気になっていたんだ。
既視感がどうしても拭えなくて。
「ええ。昔……」
昔?
ということは奉公時代か。
公爵家は大きなお屋敷だったから、百人以上には会っていたよな。
誰だろ?
「覚えていない? 噴水の前で私に……その愛の告白を……」
うそ、だろ?
そ、そんなはずはない。
彼女は今頃、王都の学園にいるはずなんだ。
ここにいるはずは……ないんだ。
風の噂で聞いていたんだ。
第二王子との婚約が決まったって。
その時はショックで、修行に没頭することくらいしか、その事実から逃げることは出来なかった。
「フェリシラ……様なのですか?」
「ええ……こんな姿で貴方にだけは会いたくなかった」
それは変な再会だった。
彼女は体を動かすことも出来ない病人になっていたのだから。
やっぱり、彼女は僕を嫌っていたのかな。
「ごめんなさい。僕はもう出ていくよ。きっと、もう会うことはないと思う」
これが本当の最後の別れだろう。
でも、彼女の声を聞けて良かった気がする。
なんとなく、踏ん切りがついたよ。
「待って。行かないでよ」
「僕と話しているのは辛いですよね?」
嫌味で言っているつもりはない。
彼女はきっと重病人だ。
これ以上、僕との会話で無駄な体力は削ってほしくないんだ。
「そうじゃない……そうじゃないの。そういう意味で……ごほっごほっ」
僕は駆け足で駆け寄った。
「大丈夫ですか? あまり無理はしないで下さい」
「ううん。私ね、ずっと後悔していたの。あの時、ちゃんと言っていれば良かったって」
何の話だ?
いや、なんとなく分かる。
でも、今更どうでもいいんだ。
はっきりと断っておけばよかった……そういうことなんだろう?
「いいんだ。フェリシラ様が気にすることはないんだよ。僕が勝手にしたことなんだから」
「ううん。私ね……貴方が好きだったの。ずっと……」
僕は声が出なかった。
昔とは全然違う、掠れた声でその言葉を聞いた。
信じられる?
いや、僕はその前にとても嬉しかった。
たとえ、姿が変わったとしても、僕はずっとフェリシラ様が好きだったから……。
「僕も……」
言おうとした時にノックが聞こえてきた。
返事も待たずに、ドアがゆっくりと開いた。
フェリシラ様の部屋に容赦なく入れる人……それは……
「フェリシラ。やっと言えたんだな。お兄ちゃんは嬉しいぞ! よし!! 祝杯だ!! 皆を起こせ!」
この人……ドア越しにずっと聞いてたな。
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