第15話 鍛冶は大金が転がり込む商売です
武具屋『ブーセル』の前には長蛇の列が並んでいた。
路地裏では収まりきらず、表の通りにまで人が集まってきていた。
これは……。
「とにかく、中に入ってくれ」
……商品が……ない。
「これは……」
「原因はライルさんなんだろ?」
……?
まったく、見に覚えがない。
「ライルさん、コンテストで優勝したんだろ?」
へぇ、さすがに耳が早いな。
評価されたみたいでちょっと嬉しいな。
「まぁ、偶然が重なった結果ですけどね……」
「それはどうでもいい」
あ、そうですか。
「ライルさん、その時にうちから買ったって言わなかったか?」
そんな記憶は……
「ああ、申込みの時に購入店にこの店を書きましたよ。それが?」
「それが? じゃない!! そのおかげで店は大繁盛なんだ! 本当に感謝しても、しきれない。ライルさんは神様だよ」
なんか、恥ずかしいな。
「それは良かったですね。ああ、そういえば、僕の修繕した武具なんですけど……」
折角だ。
ここで売ってもらえないか聞いてみよう。
他の所で一応は約束しているけど、店は多いほうがいいもんな。
ん? 急に手を握られたぞ。
「あ」
「あ?」
「あるのか? ライルさんの武具が!」
「え? ええ。たくさん……」
まぁ、ここで手に入れた中古武具の半分はナマクラになっちゃったけど……。
「売ってくれ!!」
「いいの?」
「ええい! 言い値で買う。だから、すぐに持ってきてくれ。いや、それじゃあ遅い。手伝いを出す。すぐに行ってくれ!!」
なんだか、いい方向に話が進んでいるみたいだ。
しかも、言い値でいいだって!?
これがコンテスト優勝の効果ってやつなのかな?
ん? アリーシャ?
「ダメ!! それは私の仕事。奪うの、絶対にダメ」
「アリーシャ。今回は……」
「絶対にダメ! 仕事が無くなったら、一緒にいられなくなる。だから、ダメ」
……アリーシャ。
「安心しろ。お前には別の仕事を与えるつもりだ。荷物持ちばかりだと、面白くないだろ?」
「ううん。お兄ちゃんと一緒にいられれば、いつも楽しいよ」
……かわいい。
いやいや。
現実に戻ってくるんだ。
「今回は別の人に頼もう。そうだ!! 親父、中古の武具はないか?」
「あん?」
結局、店の人に武具は取りに行ってもらうことにした。
そして、僕は一本の短剣を手にしていた。
「ライルさんに全部渡したからな。今はそれぐらいしかないんだ」
随分と肉厚な短剣だな。
持った時から、ずっしりとした重みを感じていた。
重さだけなら、普通の剣と変わらない。
だが、直感的には悪い武器ではないと思う。
「アリーシャ。悪いが、店の方の手伝いをしてやってくれ」
「いいの?」
ん? 何を心配しているんだ?
……ああ。
「アリーシャを獣人だってバカにするやつはいないさ。宿屋の人も変わっただろ?」
「そう、かな? じゃあ、やってみる」
さて……。
短剣の刃になぞるように砥石を走らせる。
何度も何度もやってきた当たり前の動作を繰り返していく。
……これはすごそうだな。
今まで取り扱った武具の中でも最高の輝きを放っている。
「これは鉄ではないよな?」
普通の短剣ではまず、虹色に輝くなんてことはない。
変わった一品が手に入ったものだな……。
さてと……お店のほうがどうかな?
アリーシャはちゃんと手伝えているかな?
「アリーシャ。店の方は……」
これは……
店の中が戦場のように武具の取り合いが始まっていた。
我先にと、列からはみ出るように飛び出す客。
すごいな……。
だが、他に視点を変えると別の戦場が出来上がっていた。
その中心にいるのが……アリーシャだった。
「なに、この子。すごく可愛い!!」
「美少女だ!! 獣人の美少女がいるぞ!」
「ぶってくれ!! その冷たい視線で俺をぉぉぉ」
なんだ、この状況は。
「あわわわわ。お兄ちゃぁぁぁん。助けてぇ」
「今、助けに行くぞ!」
まさか、こんな展開が待っているとは思ってもいなかった。
アリーシャを店の奥に引っ込ませ、僕が客の対応をすることになった。
その時のブーイングは相当なものだった。
チラチラと見えるアリーシャの姿を拝むものさえ出てくる始末。
……一体、どうなっているんだ?
「さあ、茶だ。飲んでいきな」
「ああ、ありがとうございます」
嵐のような客達は姿を消した。
全ての商品が嘘のように消え、残るのは空っぽになった店内だけだった。
「こんなに売れたのは初めてだ」
「そう、ですか」
親父は店内を眺めながら、感動に浸っているみたいだ。
僕はその間、ずっと仕入れのことを考えていた。
中古武具をどうやって手に入れるか。
……どこかで大量に手に入ればいいんだけど。
「あの」
「ん? なんだ?」
「中古の武具を手に入れたいんですけど」
「それは修繕用か!!?」
僕は頷いた。
というよりは親父の迫りくる顔に声が出なかっただけだけど。
「俺が調達してやる。その代わり……独占で買い取らせてもらえないか?」
ふむ……。
悪くない話だと思う。
「そうだ。今日の買い取りのお金を渡していなかったな。ほら」
ほらって……僕は受け取った袋で体のバランスが崩れてしまった。
なんだ、この重さは。
まさか、中身は銅貨ってことはないよね?
「金貨800枚。それが今日の支払いだ」
……うそ、だろ。
「で? どうだ?」
そんなの答えは決まっている。
「よろしくお願いします!!」
僕と親父はがっちりと握手を交わした。
中古武具の調達と販売を親父が。
武具の手入れを僕が……。
そういう条件で話が決まった。
だが、後でもう一つの条件が加わった。
「獣人のお嬢ちゃん! 頼む。店の手伝いを……いや、いるだけでいい。金貨10枚払うから!!」
アリーシャを店番にすると売上が倍になる……
そんな噂が領都アグウェルに広がることになる。
「アリーシャに店番をやらせません」
それが新たに加わった条件だ。
でも、そのおかげだろうか……アグウェルでは獣人を忌避する人が減った気がする。
……。
僕達はそんな日々を繰り返していた。
「随分とお金が溜まったな」
中古武具の調達を頼んだが、手に入るのは日に数個程度だった。
それを修繕して、親父の店に売る。
一日、金貨50枚程度になれば、いいくらいだ。
大抵は20枚くらいだ。
それでも何日も続ければ……
金貨2000枚へとなっていた。
アリーシャへの給金アップも検討しないとな。
今渡している金貨3枚なんて、アリーシャの胃袋の前ではないに等しい。
「えへへへ。お小遣い、増えるの嬉しい」
お小遣いではないんだけど……。
まぁいいか。
すると、コンコンと控えめなノックが聞こえた。
親父の店の人かな?
最近は景気がいいせいか、人を雇ったみたいだからな。
「あれ? どうなさいました?」
宿屋の女性だ。
「あの……公爵様の使いの者と名乗る人がライルさんとアリーシャちゃんを連れてこいって。それとこれを」
公爵からの手紙?
僕に一体、何の用が。
忘れてかけていたフェリシラ様の顔が浮かぶ。
同時に胸が痛む。
「……分かりました。すぐに向かいます」
「お願いします。アリーシャちゃん、今日も可愛いわね!!」
それだけを言って、扉を閉めた。
手紙にはこう書かれていた。
『ウォーカー男爵家族が来訪する。すぐに来てくれ』
……なんで、僕が……。
「アリーシャ。出掛けるよ」
「うん!!」
会いたくない家族に再び、会うのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます