side 男爵嫡男 ベイド

俺はベイド。


ベイド=ウォーカーだ。


『鍛冶師』スキルを持つ、将来有望な男だ。


ライルが家を追放されてから、俺の後継者への道は間違いないものだ。


だが、変なところから俺の人生にヒビが入ろうとしていた。


「お前には次の公爵様のコンテストに参加してもらう」


ウォーカー家は鍛冶師貴族だ。


代々、鍛冶師の腕があるからこそ、国王から貴族位なんかをもらっている。


職人の腕はコンテストで証明……。


それも分かっている。


だが……


「何、言ってんだよ。親父。あんな地方コンテストなんか……」


俺は将来有望な男だ。


そんな俺のデビューが地方の、だなんて。


話にならねぇ。


「ふむ。実はな、公爵家から直々の誘いだ。本来はライルに出させるつもりだったが、いない以上は仕方があるまい?」


くそっ!!


役に立たないくせに、こんな迷惑ごとまで俺に押し付けやがって。


だが、公爵直々から、となれば話は別だ。


ここで優勝して、恩を売っておくのも悪くはねぇな。


所詮は地方のだ。


王国主催とは比べ物にならねぇほど、ちゃっちゃいもんだろ。


「分かったぜ。あのバカの代わりっていうのは癪だけどな」

「そうか……ところであの剣は完成したのか?」


あん?


何の話だ?


「ライルを追い出した時に私に見せていた剣だ。あれは完成したのか?」


……俺は必死に思い出した。


そう……確かにあの時、剣を見せた。


バカが研いでいる時にひったくった奴だ。


俺の最高の出来の剣をダメにした事を見せるために……


だが、どうして、その剣の話になる?


アイツの研いだ剣だぜ?


ナマクラに決まってる。


「あんなのとっくに捨てたぜ。あんなナマクラ、叩き直す価値もねぇからな」

「ほう……あれをナマクラと……」


何を考え込んでいやがる?


訳が分からねぇ。


「ならば、今一度、剣を作ってみよ」


お?


珍しいな。


親父の方から、作れだなんて。


やっぱり、俺の腕を見込んで……


「しゃあねぇな」


俺は自分の最高の剣を作った。


「惚れ惚れしちまうぜ。やっぱり、俺の鍛冶師の腕は天才的だな」


……


「親父、持ってきたぜ」

「見せてみろ」


舐めるように見つめられると、さすがに緊張するぜ。


まぁ、一つ褒めの言葉をもらって、終わりだろ。


ああ、女でも抱きに行きてぇなぁ。


「お前、これはなんだ?」


お?


さっそく、お褒めの言葉か?


「それは俺の最高傑作だ。22歳の若造が作る剣じゃないってことくらい、分かっているぜ」


さぁ、来い。


俺の最高傑作の前にひれ伏せ。


俺に貴族位を譲る、とな。


おっと……ちょっと先走りすぎたな。


「……こんな酷い剣は初めてだ。あの剣を今一度、作ってくるのだ」


は?


おいおいおい。


親父の目は腐っちまったのか?


まぁいい。


面倒だが……


「お前、ふざけているのか? これではない。あの剣だ。私はあの剣をもう一度見たいのだ」


これで何度目だ?


さすがに天才の俺様でも不安がこみ上げてくるぜ。


だが、今はコンテストだ。


それさえ、優勝できれば……


「なぁ、親父。愚問かもしれねぇが……この剣でコンテストを優勝できるか?」


当然、余裕で優勝は間違いねぇ。


親父はその上のことを言ってんだろうよ。


「確かに愚問だな。こんな剣……最終選考にすら残らないだろうな」


……信じられねぇ。


俺の剣が通用しない、だと?


バカな……


だったら、あの剣はなんだったんだ?


あれは間違いなく俺が鍛えた剣だ。


俺はどうやって作った?


今までと同じはずだ。


だったら……


ちょっと待て。


未完成ってどう言う事だ?


あれは完成していたはずだ。


あのバカが研いでいる途中でひったくって……。


研ぎの途中?


つまり、なにか?


あの研ぎで俺様の剣が良くなった?


いや、ありえねぇ。


だが……。


「分かっていると思うが、コンテストでこんな剣を出せば、我が家の格は大きく傷つく。今はふざけていても良い。だが……」

「ああ。分かったぜ」


親父から言われた。


コンテストで入賞をしなければ、ライルと同様、追放だと。


くそっ!


どうして、こうなったんだ。


俺は何本も剣を作った。


だが、どれも親父の目にはナマクラにしか映らなかった。


ダメだ……。


このままだと、俺の貴族としての人生が……。


そんな時に俺の耳に変な噂が聞こえてきた。


領内の武具屋に冒険者が殺到しているって話だ。


「なんだよ、この人だかりは」


いつもは閑散としているくせに、やけに人が多いな。


「おう!! 儲かっているみたいだな」

「ベイドか。何しに来た」


相変わらず、口数のすくねぇ野郎だ。


「剣が売れているみたいだな? どんな剣か見せてみろよ」


ここの武具はすべてウォーカー家製だ。


一応、知っておけばコンテストで有利になるかもしれなぇ。


「全部、売り切れだ。ライルの坊主がいればなぁ」

「どういうことだ?」


「冒険者が全部、買っていきやがったんだよ。たく……」


そうじゃねぇ。


「どうして、あの役立たず……ライルの名前が出てくるんだよ」

「売れたのは全部、ライルの坊主に手入れしてもらったからに決まっているだろ」



……やっぱり、そうだったのか。


あいつ……何か、秘密を持ってやがるな。


だが、簡単なことを思いついちまった。


だって、そうだろ?


あいつだって、腐ってもウォーカー家の一員。


俺のために奉公して、俺のために人生を捧げる。


それが役立たずの最高の生き方ってもんだぜ。


……あいつの剣をちょいっと拝借すりゃあ、いいんじゃねぇか。


「おい、ライルはどこにいるか、知ってるのか?」

「公爵様のとこに向かうって言ってたぞ」


……領都アグウェルか。


待っていろよ。


役立たずのライル。


――――――――――――――――――


【★あとがき★】

いかがですか? コンテスト失敗、即廃嫡の危機!? ベイドの運命は……


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