side 公爵令嬢 フェリシラ

私はフェリシラ。


王国東部最大の貴族、スターコイド公爵家の三女として産まれました。


幼少から貴族として生き方を学び、一生、貴族として生きていく……そう運命づけられていましたわ。


周りには子飼いの貴族たちが寄越してきた子どもたちがいつもいました。


その者たちと他愛のない話をして、いつも嘘の笑い顔を振りまいていました。


時々、街に出ると庶民の子供が両親と笑っている姿をお見かけしていました。


それがとても羨ましくて……。


私の相手をしてくれるのはお兄様だけ。


それだって、数日に一度、顔を合わせる程度。


そんな生活が本当に嫌で、貴族になんか産まれなければ良かったと何度も思いました。


そんな時でした。


私が8歳の頃でしょうか?


一人の少年がやってきたのです。


名前は……当時は覚える気もありませんでした。


いつもの取り巻きが一人増えた。


それぐらいの感覚でした。


でも、その少年は全く予想外の行動をしたのです。


彼の仕事は私の面倒を見たり、屋敷を掃除したり……のはずだったのに、彼は一切しなかった。


そればかりか、ずっと同じ場所にいたんです。


それが屋敷内にあった鍛冶工房。


その時は隣国との小競り合いがあったせいで、屋敷内にも鍛冶工房が作られたのです。


そこには大勢の鍛冶師が集められ、日夜、武具が作られていました。


そんな工房に彼はずっと、いたのです。


離れもせず、じっと職人たちの動きを見て……。


取り巻きの他愛もない話をずっと聞いているよりも、彼を見ている方がすっと楽しかった。


彼は何を考えているんだろう?


どうして、取り巻きのように私におべっかを使わないのだろう?


どうして……。


私は意を決して、彼に聞いたのです。


「どうして、私に挨拶に来ないのかしら?」


こんな事を言うつもりはありませんでした。


だけど、気持ちが高鳴ると、いつもこういう話し方になってしまう。


「……」


無視されるのは初めての体験でした。


「ちょっと! 私を誰だと思っているの? こっちを向きなさい」

「……」


まったく、一体何を見ているのかしら?


気になって、見ると……ただの鍛冶仕事ね。


何が面白いのかしら?


ふと、横を見ると少年の顔がありました。


私としたことが……こんなに殿方に近づくなんて……


でも、彼はじっと輝いた目でその詰まらないと思った鍛冶仕事に食いついていたのです。


「ちょっと!」

「凄いと思わないかい?」


「えっ?」

「ただの鉄の塊がああやって、剣になるんだよ。ほら、あれは……なんだろう? あれ? もしかして、君も興味があるの?」


彼は夢中で私に鍛冶の話をしてきました。


初めて聞く話……。


鍛冶に興味が湧くことはなかった。


だけど、その時から彼に興味を持ってしまった。


後日、彼は私の前で頭を下げていました。


「申し訳ありませんでした。お嬢様と知らずに失礼なことをいたしました」


その時、知ったのです。


彼は私を公爵令嬢としてではなく、ただの女の子と思って話しかけていた、と。


それはとても新鮮でした。


もう一度……感じてみたい。


貴族ではない女の子として接してほしかった。


「ふん! 謝るんだったら、最初から話しかけないでちょうだい!!」


どうして、こんな事を言ってしまうんだろう。


彼の前だから?


「ごめんなさい」


行ってしまう。


取り巻きがいないのは今しかないのに……


「ねぇ! 私、鍛冶にちょっと興味があるの……エスコートしてくれるかしら?」


言えた!


私、すごい!!


「本当? じゃあ、行こうよ」

「えっ!? 今すぐ!?」


彼は私と知っても、態度を何も変えなかった。


それがとても心地よかった。


「ねぇ、どうして、そんなに鍛冶が好きなの?」

「決まっているじゃないか! 僕の家は鍛冶師なんだ」


それは理由になっているのかしら?


貴方の気持ちは?


貴族だから好きって変じゃない?


「僕は名工になるんだ。父上よりももっともっと上の……。そして、僕は家を継ぐんだ」


私は貴族として産まれて、ずっと目を背けていた。


だけど、気になる彼は貴族であることに誇りを持ち、たゆまぬ努力を続けていた。


今の私は彼の横に立つに相応しくない。


私は公爵の娘。


貴族として生き、貴族として生を全うする。


それが宿命。


そして、いつか彼の横に立つために。


「貴方の名前を教えて」

「僕はウォーカー家次男、ライル=ウォーカーだよ。君は……言うまでもないか」


「いいえ。名乗るわ。スターコイド公爵家三女、フェリシラ=スターコイドよ」


私達の出会いはそれっきりだった。


そして、数年後……。


ライルから噴水の前に来てほしいと言われた。


久しぶりに彼の声を聞けて、嬉しかった。


それと同時に寂しさもあった。


彼は今日でこの屋敷を去ってしまう。


奉公が終わってしまった。


きっと、その別れを告げるために……。


取り巻きは相変わらず、おべっかと他愛の話で盛り上がっていた。


だけど、私は変わった。


貴族として生きようと決意した時から……。


「なにかしら? 貴方の話に時間を割きたくはないのだけど」


この癖は一体、いつ直るのかしら?


「申し訳ありません。ただ、一度……一生に一度。僕はフェリシラ様に伝えたいことがあります」


私はドキドキしていました。


彼の目がとてもキレイで、数年前の気持ちを思い出すようで。


「早くして下さらない? この後、お稽古があるので」


……もうイヤ。


「僕はフェリシラ様が好きです。それだけを伝えたくて……時間を無駄に使わせて、ごめんなさい!!」


私は飛び上がりたいほど嬉しかった。


ライルも私と同じ気持ちだった。


「私も……」


「おい、男爵の次男の分際でフェリシラ様に何、調子に乗ってんのよ!!」

「身の程をわきまえろよ! 下民」

「フェリシラ様、お時間です。このような者に構うと碌な事がありません」


私は叫びたかった。


あなた達のほうがよっぽど、時間の無駄だと。


話しても、詰まらないってことも。


だけど、私は口を閉ざした。


彼らの言うことは貴族としては正しい。


私は公爵……彼は男爵。


身分が違いすぎる。


私は何も言わずにその場を離れた。


そして、お父様に告げたのです。


「私は第二王子様の婚約者になることを決めました。そして、春から王都に向かいます!!」


忘れよう……。


彼との思い出はずっと心の奥深くに埋めて……。


私は貴族として生きますわ。


―――――――――――――――――


【★あとがき★】

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