第9話 一方その頃って視点いいよね


 俺はトシ。何の因果か陰陽師に見つかってそこで働くことになった男だ。なんでも、俺に向いてるのは使役術らしいんだよな。某忍者漫画で言う口寄せみたいなさ。


「波長の合う子を探せって言ったってなぁ……」


 俺の目の前には邪悪なペットショップがあった。窓からは犬が訓練している様子がうかがえ、傍に生えてる木にはカラスが鈴成りに並んでいる。猫はあちこちでくつろぎ、並んでいるケージの名には多種多様な蛇やトカゲなどの爬虫類。足元の瓶の中には怪しげな蟲がうごめき、カウンターの後ろの水槽には鯉が悠々と泳いでいた。


「いらっしゃいませー!墨田妖獣店にようこそー!お探しの子はどんな感じの子が良いんですかあ?」


「す、スミちゃん?ここって君の店なのか?」


俺の質問に答えるように店の奥から存在感のあるしわがれ声がきこえてきた。


「いずれはそうなるだろうが、今はまだわしの店じゃよ。ようこそ駆け出し道士くん」


現れたババアは服装こそ和風だが、昔話に出てくる魔女のような雰囲気をまとっていた。


「あたしは墨田のり子。よろしく新人さん、ここの子たちのどれかが君の人生の相棒になる子になるんだ。慎重に選ばれるんだよ。」


「選ばれる……まあそうですよね。力づくで従え続けてもいいことないだろうし、こいつなら!って思って貰わないと始まらないと……初めて契約する相棒、パートナーということもありますし」


「「あっ」」


ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!!!!!!

ワウワウニャウナカー!!!!


店中の獣たちが一斉に騒ぎ出す!い、いったい何だってんだ!もしかして初めてのパートナーって言葉に反応した?飢え過ぎじゃない?


「黙りな!最後まで騒いでた奴は晩飯の皿に乗ることになるよ!」


シーン……一転水を打ったような静寂。しかし無数の瞳はこちらを凝視していた。


「すまないね。こいつらも自分だけの主様が欲しいんだよ。いつもはその他大勢のウチの一匹として任務にあたるからね。そりゃあ必死にもなるってもんさね。」


「あの……さっき「選ばれるんだね」ってカッコつけてたのに恥ずかしくないんすか?めちゃくちゃ「俺だ俺だ!」って視線を感じるんですガッッ!!」


腹に鈍い痛みが……見るといつの間にか丸太のような太さの蛇がのり子さんの足元でとぐろを巻いていた。




─────


「でも向き不向きや相性もあるじゃないですか。その辺は何か見分け方あるんです?」


店内を物色しつつ近くにいたスミちゃんにそんなことを聞く。


「こればっかりは運命みたいなものがあるかと……西洋だと使い魔召喚の魔法とかありますけどアレも好し悪しなんですよね……運が悪いと変なのを呼び寄せたり、逆に引きずり込まれたりすることがあるからねえ」


「こわっ……あ、そうだ。昨日の餓鬼みたいなのは居ないんです?」


「ああ、使役って言っても色々あるんでアレはもうちょっと慣れてからですね」


雑談を交えながら見回しているとふと一つのケージに目が留まる。なになに、火鼠の遠縁にあたるネズミ……


俺が覗き込むとネズミの方もこちらをじっと見上げていた。……ティンときた!きみにきめた!


「すんませんのり子さん、この子籠から出してもいいですか?」


「あん?思ったより早いね。もっと悩むと思っていたが。良いよこっちにきな」


丸太のように太い蛇が器用にしっぽの先で籠を持ち上げカウンターに運ぶ。


「やあ、俺は敏則。トシと呼ばれている。お前に何かを感じたんだが、お前はどうだ?」

俺がそう問いかけた瞬間、火の粉が顔に向かって飛んできた!ここで避けたらだめだと思い目を固く閉じ耐える…………あっつ!


幸い、熱いのは一瞬だったが目を開くと子犬ほどの大きさのネズミが俺の目をじっと見上げていた。


「気にいるか気にいらないかはこれからだが、ついてきてくれるんだな?だったら、お前を後悔させないぜ」


ヂュ!とひと鳴きすると俺の指に噛みつき傷口の血をなめる。これで契約完了かな?


「のり子さんこれでいいんですか?なんか登録とか必要なんで?」


「ああ、必要なんだけどホント話が早いなって感心してたところだよ。もうちょっとなんかなかったのかい?だいたいみんな特別な子を探そうとしたり、モフモフだのなんだのうるさかったりするんだがね。」


「愛玩動物と相棒はちがうでしょう?かわいがるのと信頼するのも似て非なることだと思ってますし」


「異質だねえ」

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