第7話 カッパの得意技ってスモウだよね



翌日――――――


俺はトシと分かれて別々に訓練を受ける事になった。

屋敷の訓練場には行かず、昨日盛り上がった寿司チェーン店に連れて行かれる。


「ハッハッハ!君がそうか!ヨロシクな!ワシは華破五朗。ゴロさんとでも呼んでくれい!」


寿司屋の駐車場に止まっていた黒いバンからハゲたオッサンが出てくる。

よろしくお願いします。と挨拶を交わすといきなり隣に来てバンバンと背中を叩いてくる。


「なんでも鏡にムキムキの自分が映ったそうじゃないか!なりたてで魔力は少ないみたいだが、居ないよりマシだしな。」


「え~っと、ゴロさん?今日の先生は貴方なんですか?」


「おうともさ!俺ァ誇り高いカッパ一族のモンよ!華が爆破って書いてカッパよ!わかったか!?」


そう言いながらまたバンバンと背中を叩いてくるゴロさん。するとバンの中から不機嫌そうな声が聞こえてくる。


「うっさいジジイ!早く行くんだろ!ウダウダ言ってねぇでさっさと乗せろ!」


「テメェ!マサ!初対面のお客さんにその態度はなんだ!それでも誇りあるカッパ一族の一員か!」


「そのカッパ一族、カッパ一族ってのが鬱陶しいんだよ!」


バンの中の息子らしき人物と言い争いを始めるゴロさん。わざわざ息子さんを連れて来るとは、顔見せとかかな?


「ああ、すまんな。ユウ………だったよな。車に乗ってくれ。今日はもともとここいら一帯を納める水神さまにお祈りを捧げてウチのバカ息子にも力を貸して貰えないかと相談しに行く所でな。そこで刀矢の奴がタイミング良く面白い奴が出てきたってんでついでに連れて行ってやろうと思って来て貰ったんだ。さあ、乗ってくれ」


俺はゴロさんに促されるままに黒いバンに乗り込む。すると目の前には二十の半ばぐらいのイカつい男が乗っていた。


「こんにちは、俺はユウってんだ。よろしく。」


「ユウ?じゃあ勢い任せで大河の野郎をボコボコにして美空ちゃんを奪った奴か?」


「そこなんだよなぁ………いきなり殴ったのはさ、あそこのジジイどもはハッキリ言わなかったけど「お前戦えんのか?」みたいな雰囲気を感じてたし、明らかにこっちの反応を見てたからね。それに「俺の美空ちゃんを!」って言ってた奴の当て馬にされるのはゴメンだったしさ。ついでにいえば、初対面の大学生ぐらいの子に言いよる様なメンタルは持ち合わせてないよ。たぶん、だからそば付きにされたんだろ。」


「ハハッ!笑える。まあ、アイツはああいう奴だからな。許してやってくれ」


「ボコボコにしておいて説得力が無いかもだけど、気にしてないさ。あそこはああでもやって無いとずっと絡んで来そうだったしな。むしろ水神様への挨拶?で屋敷から出られて幸運ってモンだよ」


「アンタ、妙にものわかり良いな。他の奴らはもっとはしゃいだり落ち込んだりするのに、」


「まあな。そういうアンタはどうなんだ?マサって呼ばれてたよな。これから行く所に思う所あるみたいだが………」


するとマサは心底面倒臭そうにボヤく。


「だってよ、水神様………ウチの所のは不労軍(ふろうぐん)様って言ってな、デカいカエルの神様なんだよ。カエルの神様だぜ?カッパってだけでもダサいって思ってるのにカエルに認められて力を貰うとかダサダサじゃん。で、やだやだって言ってたんだけど、ウチの店が襲われてさ。正直、店なんて俺はどうでも良いんだけど、従業員のカッパどもは護らなきゃだろ?で、お前も顔を通しておけ、ってさ。ガキの頃は行きたいっつっても連れてきてくれなかったのに」


「へぇ、正直いわゆる「アレな二代目」みたいな感じだと思ってたから意外。」


「おまっ………初対面でそれ言うか?普通。」



それからしばらくして意外と意気投合した俺たちを乗せた車は山の中の小さな池の前で止まる。



「ヨォし、お前ら!降りろ!不労軍様のお社に着いたぞ!」


俺たち2人は車から降りる。


「ここに水神様が?」


ゴロさんは車のトランクから縄を抱えて池の畔に土俵を作っている。


「おうともさ、ウチの一族は代々ここで不労軍様へ相撲を奉納してな、それで一族に力を貸して貰ってるんだ。アンタを連れて来たのも、上手くアンタが気に入られたら良いなと、な」


「良いんですかそういうの、なんか一族の秘伝みたいなモンなんじゃ………」


「いやいや、昔はみんなここで相撲を取ってたんだよ。だが、平和な世の中になった間に廃れてしまって、今じゃカッパ一族でも本家筋しかやって無いのさ。で、異世界の騒動だろ?困った時の神頼みとか褒められた事じゃないんだが背に腹はかえられぬからな、頭擦り付けてでも力を貸して貰うのさ」





すると池からデカいちょん髷を結った蛙が現れる。


「まあ本当にその通りじゃのう。他のカッパが来たらどつき回しておる所じゃわい。しかし、お前さんの所はずっとウチを大事にしてくれてたからの、相撲次第で力を貸してやらんでもない」


まるでバネ仕掛けの様に2人が飛び上がった後に地面に跪く。俺も一緒に跪いた。


「よい、面をあげい。今はお主らだけであろう。まあ、客人が居るようだが」


「ハッ!畏れ多くも水神不労軍様!この度世に混乱の兆しあれば、不精この私の息子めに、一族を護るだけの加護をいただけないでしょうか!」


「貴様の倅に力を貸すのは簡単だ。しかし、その力で成す事が、我を蔑ろにした一族の守護とは、片腹痛い。」


「重々承知しております!その事については申し開きございません。しかし、我々だけでは、このままではいずれきたるオオゴトに対処しきれるか分からないのです!どうか息子と相撲を取って頂けませんか!」


「ふむ………おい、そっちの、お前は何だ?」


デカいちょん髷ガエルがこちらを指す。俺は跪いたままそれに答える。


「ハハッ!自分は平野遊と言います!この間まで一般人でしたが、たまたまこっちの世界のコトに巻き込まれて、今じゃ陰陽師見習いしてます!力の方向性が身体強化だからちょうど良いと連れてこられました!」


「うむ、ワシが直接相撲を取る事を断った時の為の対戦相手か?いや、それならお主自身が取れば良いか。何故ほとんどカタギの人間を連れて来た?それならカッパの者を引き摺ってでも連れて来れば良かろうに」


不労軍様がゴロさんを威圧している。

ゴロさんはものすごい冷や汗をかいてプルプルしていたが、決心を決めた様に顔を上げるとそれに答えた。


「今のカッパの若いのは人間と混じってほとんどカタギになりやした。平和な世で育ったアイツらにいきなり戦えと言うのは酷ってモンです。そしてこのユウは魔術師をシラフで羽交い締めにして捉え、陰陽師と戦わせてもいきなり殴りに行ける人間です。そして本人もこれから戦って行くつもりがあるからここに居るのです!」


「なるほど………ユウと言ったか、それはまことか?」


「はい。ちょっと異世界がどうとかってゴタゴタしているのに興味があるんです。不労軍様、神隠しにあった人間は異世界に行ってるってのは本当なんですか?」


「おお、本当だとも。なんだ?異世界に興味があるのか?」


「いいえ、でもそれを聞けて良かったです。」


「なるほど。納得した。では貴様ら2人で相撲を取って貰おう。ワシは相撲でぶつかり合ってるのを見るのが好きでな。はよう始めい!」


マサと土俵を挟んで向かい合う。まわりにはいつの間にか観客席みたいなのが出来ており、大小様々な人影が浮かび上がっている。

そのまん中で不労軍様がどっかりと座り寿司と酒を煽っている。


いつの間にか柴犬サイズのカエルが行司をしていた。


「みあってみあって……………」


俺たちは互いに線の前で向かい合う。


「はっけよい……………」


覚えたばかりの身体強化を巡らせる。


「のこった!」


瞬間、トラックに轢かれた様な衝撃が走り、気づいたら土俵から2メートルは離れた所に転がっていた。


「おぉ~派手に飛んだのぉ~!まあ、昨日今日力を使いだしたなら当然かの。カッパの血を濃く受け継ぐ奴にはなかなか勝てまいて。」


俺はフラつきながらも立ち上がる。


「カッパってのは昔話にある通り強いなぁ!しかし、手加減無しかよ」


マサは若干申し訳なさそうにしながらも、これは神前試合であり、大河君の時の前科があるから先手必勝を取らせて貰ったと言う。


まあ、………そりゃそうだよな。


「ヨォし!もういっちょ!手加減なんてこっちから願い下げだ!行ける所まで行ってやろうじゃねぇか!」


ズドン!



……………「もういっちょ!」


ズドン!



…………………………「もういっちょ!」


ズドン!



…………「ふんぬらば!」



ズドン!



…………「おどれゴラァ!」



ズドン!



まだ!


ズドン!



ズドン!



ズドン!


……


ズドン!



ズドン!


ズドン!

ズドン!

ズドン!

……………………



ズザザザザザッ!



「おい、アンタ………もう立つなよ………こっちがやりにくいぜ……親父と変わって貰えよ………神様も怒ったりしないだろうぜ」


土俵際で俺を押さえ込みながらマサが話し掛けてくる。ここだ!


俺はパワーでもスピードでもコイツには敵わない。だが、体格は同じぐらいだし、本職の相撲取りみたいな巨漢というワケではないという所に勝機を見出す。


おりゃあ!と密着していたマサをお米の袋を肩に担ぐ様に担ぎあげる。空中なら地面を蹴って勢いをつけてぶつかって来れないだろ?


そしてマサを肩に担いだまま土俵際で仰向けに倒れる。


必殺!D D T!だ!


そして俺は意識を失った………




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