第6話 初めての現場って緊張するよね





車で数十分程走り、少し町から外れた所にある廃屋にたどり着いた。



「ここか、普通の建物だな」


「だなぁ。いかにも何か出てきそうって感じはあんまりしないな」


俺とトシは車から下りると建物を眺める。特にひび割れていたり、ツタが巻き付いていたり、おどろおどろしい感じは見受けられない。


「まあ、「いかにも」って感じの所はそれ用の人が行ってるからね。新人なんだからゆっくり慣れていけば良いよ」


運転手をしていた中猪さんが小さめのスコップをプラプラさせる。あのスコップは武器なんだろうか。


「まずは貴方達がどうするか見たいけど、武器は本当それで良かったの?」


美空が俺とトシの獲物を見て微妙な顔をする。俺は日曜大工に使う様な小さなトンカチを、トシは先に重りを付けた革のベルトを持っていた。


「だって街ん中や部屋ん中とかで刀とか振り回せる技術とか無いし」


「同じく。分かりやすい武器とか持ち歩いてたらヤバい奴じゃね?ついでに言うと、素人でも音速の攻撃が出来るってマンガで言ってた」


俺とトシの態度でジト目になりながらも「行くわよ」と中猪さんと美空ちゃんから建物の中に入って行く。俺たちもそれに続いて建物に侵入した。


「そういや、聞きにくい事かもだけど、陰陽師ってなんで少なくなってるの?国とか関わってるワリに一般人現地登用とか……」


「バッカお前聞くんじゃねぇ!」


トシが慌てて俺の言葉を遮る。それ以上踏み込むのは早いと。たぶん、死んでるかもしれないと思って、自分も"あっ"っとなって謝ろうとする。


「あら、気を遣わなくて良いわよ。私のお父さんとお母さんは異世界に言ってるのよ」


美空ちゃんは頬に手をあてて苦笑いする。


「「は?異世界ってあの異世界?」」


「ええ、今サブカルチャーの界隈で流行ってるみたいよね異世界。」


え?陰陽師ってみんな異世界に行ってるのか?


「ええ、夢追い人とかの遠回しな表現じゃなくて、本物の異世界。あっちも大変みたいだから」




「異世界ってマジにあるのか………」


「まあ、陰陽師が居た位だしあるのか……?」


2人して首を傾げて居ると、美空ちゃんが「こっち側の常識よ?」と言う風に教えてくれる。


「浦島太郎や不思議の国のアリス、ガリバー旅行記とかあるじゃない。あとは、ちょっとマイナーだけど「おむすびころりんすっとんとん」って童謡があるこぶとり爺さんとか」


「ああ、転がったおむすびを追いかけたらネズミの国で、おむすびを差し出したらほっぺたのコブを取って貰えたってアレ?」


「そ、竜宮城もネズミの国も異世界なのよね」


「マジかよ。じゃあなんでまた陰陽師の多くがそっち行ってるんだ?」


「人間の祈りとか願いってね、多少なりともパワーを持ってるのよ。昔から神隠しとかであっちの世界に人が行ってたけど、最近多くなってね。それに、異世界に流れ込む願いや祈りが強くなって向こうの世界のエネルギーのバランスがおかしくなってるのよ。そのバランスを保つ為にとか、いろいろね」


「神隠し?こっちで行方不明になった人間が異世界で見つかるのか?」


「ええ、全員とは言えないけど、結構見付かってるらしいわ。帰ろうとしない人もいて大変みたいだけど」


「おい、トシ」


「ああ、ユウ」


「「ちょっと本気で行くわ」」





ーーーーーーーーーーーーーー





「えっ………彼らって本当に昨日まで何も知らなかった素人なの?」


「さあ…………やっぱり精神鑑定とか受けさせた方が良いのかも……」





俺たちは2人で建物内を周り、何か邪悪そうな黒い影で出来た獣を殺して回っていた。


「そういやトシ、お前は霊力的なのが見える様なアレって何かしたのか?俺は何か木片食らったからみたいだけど」


「ああ、霊石握って力をぐるぐるさせてたからそれじゃない?」


「なるほど……」


俺は金槌で黒い影の犬や猫を殴り、トシは器用にカメの様な影をベルトでひっくり返してお腹側に重りを振り下ろしていた。


「………妙に手慣れてません?」


「だってコイツら本物の犬猫じゃないんだろ?」


「良いじゃない美空ちゃん。異世界があるって知って調子乗ってるのよ。普段の行いでコレだとわかったら私が処理するわ」


「こわっ」


いや、残当だろ、とトシから突っ込みが入る。まあ、多少なりとも生き物に武器を振り下ろせるメンタルは下地があるからね。仕方ないね。



「もうそろそろ片付いたか?」


妖怪が溜まってた部屋はだいぶスッキリし、窓から爽やかな風が吹いていた。


「いいえ、ここに来たのは妖怪退治じゃなく、超能力者の確保よ。忘れたの?」


「でも人影は見えなかったじゃないか。何故ここに居ると?逃げたんじゃね?」


「逃げる、ね。まああながち間違ってないわね。でもまだここに居ると思うわ」


「で?目星は?」


「おそらく地下ね。妖怪が集まってたこの部屋の真下にあると思うわ」


部屋中を探すと地下への入り口は本棚の裏にあった。


やたら火の玉やトゲが出てくる通路を少しずつ突破していく。

霊力で身体を強化すると火の玉を金槌で打ち返して罠を破壊していく。


「やったぞトシ!アメコミのヒーローみたいな事が出来る!」


「はしゃぐなよ、ガキみてぇじゃねぇか」


そう言いながらもトシの顔はニヤけている。






ーーーーーーーーーー







先程の部屋の真下であろう空間に降り立つと火の玉が飛んできた!


「あっつ!」


「お、お前ら陰陽師だな!俺の異世界転生を邪魔しやがって!」


部屋の奥にはそう言って周囲に火の玉をめちゃくちゃに振り撒きながら喚くガリガリに痩せた男が居た。



「アンタは火の玉を出せるのね。なら、本物の火の玉ってのを見せてあげるわ!」


半狂乱になっている男の目の前に火の玉を作る美空ちゃん。


「観念しなさい!むやみにあっちに行くのは許されないわ。」


男の火の玉は美空ちゃんの火の玉に掻き消され消えてしまう。


「こ、こっちに来るな!もう少しで準備が終わるんだ!もうちょっとなんだ!」


男は床に書かれた魔方陣と、その上に置かれたお供え物の上に立つとナイフを取り出す。


「トシ君!」


「あいよッ!」


トシの重り付きベルトがナイフを弾き飛ばす。ナイフは甲高い音を立てて部屋のスミに転がって行った。俺は咄嗟に男を押さえ込む。


「なんで!なんで!なんで!なんでいつもこうなんだ!何にも良いこと無いのに!好きにさせてくれて良いじゃないか!」


押さえ込まれた男は癇癪をおこした様に叫ぶ。


「何も特別じゃなかったボクがやっと特別になれる世界に行けるってのに!何で邪魔するんだ!誰にも迷惑かけて無いじゃないか!」



男がよだれと涙と鼻水にまみれて叫ぶ。

それに対して中猪さんが冷えきった様な目で男に告げる。


「本当に迷惑がかからないクリーンな行いなら誰も止めに来たりしないわよ。さあ、誰に教えて貰ったの?答えなさい?」


霊力を解放して凄む中猪さん。ここで俺たち2人がさらに後ろから声をかける。


「何があったかは知らないけどさ、アンタが何かしてたおかげで妖怪が集まってたの。それが人を襲ったらいけないでしょ」


「うう………なんでだよぉ……」


男は聞こえてない様子で絶望している。

中猪さんが手早く手錠をして立たせた。


「事情は留置所で聞かせて貰うわ。付いてきなさい」






ーーーーーーーーーー





手配した車に男を乗せた後に俺たちは帰路に付く。


「いやぁ~初任務、良かった良かった。無事終えられたね!どうせなら回転寿司行かない?」


ハンドルを握る中猪さんは上機嫌に言う。

この間の店に顔を出したいそうだ。


そう言えば、あの店にはカッパが居たらしいけど俺は見てないんだよなぁ


「お?ユウはカッパが気になる感じか?」


「まあ、多少はな。」


「よし!乃白さん!お寿司屋さん行きましょう!」



店に着くと店員さんに裏に通されて、さらに地下に下りていく。


「はぁ……チェーン店の寿司屋にこんな所が……」


「ここの社長は人間側の協力者だからね。何かと融通効かせてくれるの。他人に聞かせられない話もあるしね。」


通された小さな座敷に4人で座る。


「お客さん、こないだは当店を助けていただいてありがとうございます。しかし、美空のお嬢さんの勘違いで巻き込まれたそうじゃないですか。大丈夫でしたか?」


「あ、はい。なんとかやって行けそうです。思ったより凄いんですね。」


「そりゃあ良かった。カッパも戦える奴はあちこち引っ張りだこでしてね。どうしても手薄になる時があるんですよ」


「そんなに増えてるんですか?ここを襲った奴らみたいな事件。今日も一人しょっぴきましたけど」


「ああ、例のテロリストはね。異世界の騒動が起きた時にこれ幸いと活動を活発化しててね。手に負えないみたいなんだ。」


「ま、猫の手も借りたいみたいですからね!子猫二匹程度ですが、役に立ってみせますよ!」



そして寿司を食ってその日は寝た。

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