第8話 気に入られるのは良いよね



「うっ………」


俺は池の近くで目を覚ます。隣には俺と戦っていた時よりはるかにボロボロなマサが倒れていた。


「おお、気がついたか。しかし、貴様弱いのぉ~まあまだ力を覚えたてだから仕方無いのじゃが。なんであれほど立ち上がり続けたのじゃ?」


不労軍…………もういいや、カエル神様がこちらを見ながら話し掛けてくる。その目は面白いモノを見つけた様に歪んでいる。………コレは……イケたか?


「いやまあ、正直に言うと、マトモにやっても勝てないだろうけど、それでも自分にもちょっぴりで良いので力を分けて貰えないかなって下心が少し……ありまして………」


「グワハハハハ!正直な奴だな!」


「そりゃあフロッグ様そういうのが好きそうですもん。自分は霊力もこないだ知ってギリギリ陰陽師レベル。成長期は過ぎてるから今から伸ばすのも難しい。ならあるところから借りれないかなって………それにはガッツを見せようと踏ん張った次第です」


「良いなオヌシ!すごく分かりやすいな!しかも程よく俗っぽいな!腹の中で何か考えてる奴よりよっぽど面白い!」


「で、なんでコイツはこんなにボロボロなんですか?確か俺の方がボロボロにされてた気がするんですが……」


俺は隣で昏睡しているマサを見る。身体全体に渡って張り手の痕があり、肉が手の形に裂けている箇所も見受けられた。着ている服も擦り切れており、元の色が分からない程に泥にまみれていた。


「ああ、コイツはエンタメというのを一切分かってなかったからな。親父どのにボコボコにして貰ったのよ。実力に開きがある事が分かっていながら、相手の攻撃を受けるという事をしなかった。そのクセ油断して放り投げられるからな。」


カエル神様は何事もなかった様に言う。ボコボコにするのをエンタメか………まあ、興行プロレスと考えたらそうだし、死ななきゃ安いしそれもそうか。しかし、それについては悪い事したなぁ。たぶん速攻で仕留めにかかったのは先日の大河君との一件を知ってたからだろうに………




「う………く」


お、マサも目覚めたか

大丈夫だろうか、めっちゃボコボコだけど


「倅も目覚めたか、ヨシ!これより戦って見せてくれた2人に力を授ける!」


「えっ」


俺は思わず声が出る。このカエル神様、2人って言ったか?まさか、自分にも力を?


「まずは貴様だ。正嗣。もう意識は取り戻しておろう。ああ、立ち上がらなくともそのままで良い。おい、尻子玉を持て」


カエル神様の後ろに控えていた巫女カエルが水の張った桶に浮かんでいた丸い玉をお盆に載せて運んでくる。いや、あれは油か?ひょっとしてガマの油?そこから上げられた玉はつるりとして怪しく輝いていた。


「ハッ…………ありがたく…………頂戴します……これで一族を……」


巫女カエルが玉を持ち上げると寝ているマサの口にねじ込んだ!すると全身の生傷がみるみるうちに治癒し、立ち上がるマサ。そしてカエル神様へ跪きお礼を述べる。


「不労軍様、この力は必ずや貴方様と我ら河童一族の為に役立てます。ありがたく」


「ウム。苦しゅうない。して、そっちのユウとやら、貴様にも力を分けてやろう。陰陽師の奴らは面倒臭いがお前は面白そうだからの。」


するとマサの隣に居た巫女カエルがこちらに来て尻子玉と呼ばれていた怪しげな玉を手渡してくる。


「尻子玉と言っても、実際に尻から出たものでは無い。まあ、我らに伝わる秘薬というか、霊力の結晶みたいなモンじゃて。ほれ、一息にいかんか」


俺は意を決して手渡された玉を飲み込む。見た目も食感もまんま玉こんにゃくでちょっと拍子抜けしたな


「んぐ………ふう。ありがとうございます、不労軍様。これで霊力の強化が出来たんですね。」


「いや、確かに霊力も大きくなるがな。メインは河童の因子が強くなるのよ」


「え゛っ!!!」


いやそんなん聞いてないんだが?!なんや河童の因子って


「ハハハハ!聞かされておらなんだか!そりゃあ奴らは知らぬのはムリもなかろう!当然であろうな陰陽師ども。我ら水神が尻子玉をくれてやるのは我らに近い性質のモノがほとんどじゃからの」


愉快痛快と言ったようにゲラゲラと笑うカエル神。コイツ邪神の類いでは?


「おっと、そう心配するでない。なにも河童に変身して人ではなくなると言ったワケでは無いからの。河童の要素を身につけられたというだけじゃ」


「なるほど、分かりました。ありがとうございます。これで側付きとか言うのもちょっとはこなせそうだ……」


「なんじゃと?」


カエル神が反応する。


「オヌシは最近こっちを目撃して入って来た在野の人間であろう。それが側付きとな?主は誰ぞ?」


「あっ、茜原美空と言ってました。あと、自分が妖怪テロリストの攻撃を受けて寝込んでる時に夢の中で女の神様が語りかけて来て、「お前は彼女の側付きだ」と言われたんです」


俺は雰囲気が一変したカエル神さまに事情を話す。するとめちゃくちゃ同情した目を向けて来た。なんだよこの目つき……カエル神様「コイツ面倒事に利用されてる哀れな子羊」とか思ってそう。


「ああ、思っておるぞ………憐れな………陰陽師はなぁ、偉い奴らはドロドロしてていけねぇ………そうだお前、ちょっと近う寄れ」


カエル神様がこちらへ手招きしている。なんだろう、追加で武器とかくれるんだろうか


俺が無防備に近寄ると体をガシッ!と捕まれ油に浸した玉こんにゃくを取り出して口にねじ込んで来た!さらに玉こんにゃくを浮かべてた桶に俺をブチ込んだ!げえっ!こりゃあ油まみれじゃないか


「良いじゃないか。西洋風に言えば洗礼を浴びせてやったのじゃ。ハッキリ言えばいけ好かない陰陽師どもへの当てつけかの、自分のコマとして用意した、ドロドロした所を歩かせる為の男が自分の想定より活躍したらさぞかし面白かろうて!」


ゲハハハハ!と笑うカエル野郎。つまりなんだ?俺があいつらの思ってる以上に強かったらあいつらが困って、その様子をこのカエルは楽しむ為に俺を強化したと?


「そうじゃと言っておろう。様づけさえなくなるとは嘆かわしい。試しにホレ、その太めの木を全力で殴ってみろ。きっと楽しいぞ!」


ニヤニヤしているカエル………神様の言う事もシャクだが、試してみよう。

俺は覚えたばかりの身体強化を全力で発動する。………あれ?こんな青いオーラ出てたか?まあ全力でッ!


ドパアアアアアン!


殴った所から木が爆発した。音を立てながら倒れて行く木を見て自分の拳が自分のモノじゃないかの様な感覚を味わっていた。


「おお!なかなかやるではないか!四股名は「油鬼霊守」でどうじゃ?西洋に居たろ、川に浸けられてめっちゃ強くなった半神が!オヌシはガマの油に浸けられて、尻子玉を複数宿し、スネが弱点というワケでもない。完璧じゃな!」


あのカエル神はご満悦と言った様子だ。

素直に喜べないけど、なっちまったモンは仕方無い。


「こんなに急に、しかも簡単に強くなるのは気が引けるし、真っ当に強くなろうとしてる奴らはあんまり良い気がしないんじゃないですか。それになんか副作用もあるんじゃないスか?」


「まあ、お前らの流行りの異世界モノで言う"チート"って奴じゃな。特に副作用は無いぞ。あの騎士王も剣を拾っただけで元はただの羊飼いじゃしな」


「神様もサブカルにふれるんですね。」


「そりゃ今の世界の霊力が乱れた原因じゃからの。探りを入れて調べるぐらいはするぞい」


その後もマサの親父さんといくつか話をして、その日はカエル神の居た池をあとにした。


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