第4話 陰謀とかは良くないよね
薄暗い部屋では一と幾人かの年寄りが映像を見ていた。
「勝ったのか」
となりで見ていたせむしの老人が苦々しく答える。
「はい。技術も何も無く、ただ勢いで。しかし、精神性はあまり良くないかと」
「然り。これが学生なら特別感や全能感に酔って、などと理由を付けられるが、おそらくは生来の物じゃな」
さらに、屋敷に来た後に尋問していた狐目の男が答える。
「初めは妙に大人しいとは思って居ました。大抵の目撃者や触れてしまった者は説明をすると恐れるか喜ぶかします。ですが彼らは「そういう事もあるかな」ぐらいにしか思って無いようでした。」
「ふむ、冷静にこちらに逆らってもムダだと判断しておきながら、破れかぶれな行いをする。こちらが思わせ振りな態度で大河の試金石にされた事が気に入らなかった、か?」
「いずれにせよ、人が少ないからと目撃者を誰彼構わず引き込もうとしたのが間違いだったんじゃないんですか?アレは集団行動が出来るタイプには見えませんな。いずれ仕事を任せる時にはヤケクソになられたら困る」
「かといってなぁ、大河君、彼にも思う所があるのじゃよ。」
「確かに、増長している部分がありましたからね。「俺の美空をーー!」でしたか?彼が噛みついたのも………どちらが勝ってもそれらしい理屈を付けるつもりだったんでしょうが、」
「そう言うな、奴ももう25、そろそろ人間相手に戦って貰おうと思っての。無くす訳にはいかない人材じゃし、何かの成長のキッカケになればと思ったのじゃ」
その時、突然風が吹き美しい女の声が木霊する。
「ウフフフフ、良いじゃないの。彼、在り方がこっち側だから私は好きよ?」
「か、カナミ様…………」
「基本的には波風立てる気は無いんでしょう。しかし、納得出来ないと暴れる。良いじゃないの。腹芸をして金や権力にしがみつこうとするタイプじゃないのも分かりやすいし、ね?」
「それは確かにそうです。今回の急な模擬戦も「いきなり戦場に放り込まれたらどうなるか」のテストも兼ねて居ました。
これまで、こうしてスカウトした者に対する模擬戦でテストだと察した者も居ましたが、試されている事に逆上するなど………」
「だから、私達に近いんじゃないか、と言ったのよ。岩鬼や驚炎とかと相性良いんじゃない?逆に貴方達みたいなのとは相性良くなさそうだけど」
女の声は楽しそうに笑う。その声に男達は苦笑いをするのであった。
「ホンッ!トーに!ごめんなさい!でも!やり過ぎです!勝つにもやり方ってものがあるんじゃないんですか?!」
目の前の女子大生ぐらいの女性が頭を下げる。それはもう申し訳なさそうに、でも「私は怒ってます!」と言った様子で。
「いや、そういうの良いですから、大河君を見に行ってあげてくれませんか?このままだとさらに怨みを買いそうで……」
俺は今また先ほどの部屋に居る。火傷の治療を施された為だ。幸い、酷かったのは拳ぐらいで身体の方はちょっと赤くなってる程度であった。付け焼き刃だろうが、やはり魔力で強化されてたんだな。と実感する。
「バカやろう、それを言ったら無粋じゃないか。それより、なんとなくなんだが、今日は焼き肉が食べたいなぁ」
トシがニヤニヤとしながら笑う。コイツも後でシバく。
「申し訳ありません。しかし、大旦那様からは「協力者になって貰う以上、急に戦いになる事もある。彼を諌めなかったのは思惑あっての事だ。納得しなさい」と。そしてトシさん。貴方にもこれから模擬戦をして貰います。」
部屋の入り口に居た中居さんが本当に申し訳なさそうに告げる。いや、若干苦笑いしてるな。トシもめちゃくちゃすると思っているのだろうか?
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トシ視点
「よ~し!初めまして!私は墨田澄子!スミちゃんって呼んでね!トシさん」
俺は俊典、クソみたいな友人からはトシと呼ばれている。
つい先ほどそのクソみたいな友人のバーベキュー会場に今度は自分が立って居た。まあ、どうしましょう!
「あ、ああ。よろしくお願いします。藤田俊典です。コレはアレですか?戦える人間かどうか見る感じの?」
「そうそう。明らかにヤンチャなだけな人もダメだけど、震えて立てないのもダメだからね!スカウト組、ああ君たちみたいなタイプの人間も戦えるなら戦って欲しいからやるだけ試してるらしいの。正直私は逆効果だと思ってるんだけどね~。昭和とかまでなら正義感から振るう暴力もあったろうけど今はね~」
澄子さんは苦笑いしながら答える。正義感があって暴力が振るえる人間なんて確かに絶滅危惧種じゃない?光のヤンキーとか人情ヤクザみたいな奴が欲しいの?ムリゲーだろ(*´・ω・)
「まあ、格闘技経験者とかもキツく言われるでしょうし、当然かと。でも長く話してて良いんですか?いちおう戦わせてみたいんですよね?」
「お!意外とやる気ですね~でも私は暴力反対!代わりの子と戦って貰います!う~ん、この子にしよう。いでよ!ゴブちゃん!」
スミちゃんのおっぱ………懐から紙が出てくる。テンプレだと式神だよな?どんなんだろ
するとポンッ!と言う音と共に小鬼みたいなのが現れた。え?こん棒持ってるやんけ!
「さあ~この子と手合わせ願います~」
「えちょ」
「初め~」
「ギッ!」
初めの声と共に小鬼が突進してくる。しまった!バーベキュー野郎みたいに相手が動き出す前にやれば良かった!
後悔してももう遅く、こん棒で殴られる。
「うぐっ……」
流石に痛い。上着に穴が空いたら嫌だから脱ぐか
(あれ~おかしいですね?普通の人なら逃げて、闘争心の高い人は応戦するんですが、上着を脱ぎ初めましたね?)
澄子は疑問を、浮かべる。しかし次の瞬間、彼がゴブちゃんのこん棒に上着を巻き付ける事に成功していて感心する。
(へぇ~器用ですね~)
しかし、それは狙った訳ではなく偶然だった。
「うわっ!テメェ!俺の一張羅に穴空けんじゃないぞ!」
「ギッ!ギギッ!」
こん棒に上着を巻き付けて綱引きの様に両者が引っ張り会いを初める。
「ぐっ!このっ!武器とか卑怯だろ!は、な、せぇーーー!」
「ギヒャッ!」
こん棒と上着は共に訓練場の端まで飛んで行く。ゴブちゃんは素早くこん棒の元へダッシュした。しかし、黒い紐にしたたかに打ち付けられてトシの方へと身構える。
「行かせるかよ!さっきまで一方的に武器で殴って来たんだ!今度はこっちの番だぜッ!」
黒い紐、そうベルトを抜いてムチの要領でゴブちゃんに叩きつける!
「何かの映画でやってた奴だけど、案外イケるな!難点はズボンがズリ落ちる事か………邪魔だ、いっそ脱ぐ」
俺はパンツ1丁になりベルトでゴブちゃんをシバく。気づくとゴブちゃんはうずくまって居た。
「あ~澄子さん?もう良いんじゃないですか?」
俺が澄子さんの方へよそ見した瞬間、バネ仕込みの様な勢いで跳ね上がったゴブちゃんが俺の首に捕まり一気に締め上げてきた。
「油断大敵!ですよ~追い詰められたらヤケクソになるのは貴方のご友人で良く分かってるんじゃないんですか~?」
俺は咄嗟に持っていたベルトを捨て、ゴブちゃんの首を締める。締める、締め…る……締……め………ブハッ!
「ハッ………ハッ………ハアァ………まったくもう、嫌な感覚を感じさせないで貰えます」
だらんとしたゴブちゃんだったモノ、がボフン!と消える。
「ごめんなさいね~仕事だから~。でもゴブちゃんに締め落とされた方が良かったかもよ~」
「あぁ、それは無いですね。ユウのお守りは必要でしょう?」
「まあ!私はそういうのも好きですよ~」
ふと、目の前の女から腐臭が………
「か、勘弁してくれ!俺は女の子が好きなんだ!」
俺は学生時代のトラウマが脳内をよぎり冷や汗をかく
「まあ!まあまあまあ!必死にごまかすなんて!気になるじゃないですか!」
俺はまた変なのが…………と思いながら訓練場を後にした。
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