第3話 巻き込まれるのって良………くは無いけど、悪い気はしないよね




「はぁ~~で?トシさんや、俺たちが陰陽師とやらの協力者とか言う勘違いは解けたのか?」


「聞くなよ。うすうすは分かってんだろ。勘違いではない"という事になってる"だろうよ」


「せやろなぁ。で、どうするよこれから」


「なるようにしかならないんじゃないか?「なんでだよ!」って叫んで食ってかかっても状況は良くならないだろうし」


「何か夢の中で謎の声が力にギリギリ目覚めた的な事言ってたんだよな」


「まあ、何かあの娘のお付きにされたみたいだし、事情は説明されるんじゃない?」


「ヨシ!向こうから説明があるまで寝てよ。さっきの奴みたいなのにまた因縁付けられても困る」


そんな風に愚痴ってると今度は部屋に旅館の中居さんみたいな感じの女性が訪れる。


「そろそろよろしいでしょうか?」


「あ、ハイ。お世話になってます」


「我が家の主人がお呼びです。こちらにお越し下さい」


「「わかりました」」


しばらく長い廊下を3人で歩く。中居さんは何も話さない。事情はご主人が話してくれるんだろう。


かなり歩き、大きな扉の前にたどり着く。威圧感を放つ扉を潜り、俺たちは陰陽師の偉い人であろう中央に座る貫禄のある老人の前に突き出される。


「良く来てくれた。ワシはこの辺りの陰陽師の一族の纏め役をしている鬼城一と言う。まずは本来なら一般人である君たちを我々の事情に巻き込んでしまった事、すまないと思って居る。だが、我々は君たちをそのまま解放する訳にもいかんのだ。そこは分かって欲しい」


貫禄のある老人から謝罪の言葉が延べられる。ふと辺りを見ると茜原美空と名乗った彼女が青い顔をして震えていた。


「はい、それはまあ、分かります。むやみに広げるべきでは無い話だと言う事も。それに、ここに運び込まれる時に夢の中で「お前らは助けた彼女の付き人になるんだ」と言われましたし、それが自分に都合の良い妄想の類いでは無いと、なんと言うか肌で感じましたから」


「ほう、あの方に直接」


「おい!待てよ!夢の中で付き人になる?たまたま勘違いで俺たちの力を見てのぼせ上がってるんじゃないか!解放部隊のスパイの可能性だってあるんじゃないのか!」


一さんとのやり取りの最中に、いかにも「俺様系」という感じの髪を逆立てた男が声を上げる。


「ハッ!図星を突かれて何も言えねぇか?気安く俺の美空に近寄りやがって!どうせ助けたのだって信用される為の自作自演なんじゃないか?オイ!そういうのは俺には通用しねぇ!さあテメェのアジトを教えな!」


俺の横まで歩いてきて挑発的な顔で噛みついてくる男。それには苦笑いするしかなかった。


「あの目が細い人の報告って共有されて無いんですか?」


すると一さんは僅かに驚いた後にニヤリと笑う。


「まあ、ちょうど良いと思ってな。それに君は力を使った攻撃を受けて少しだけ力に目覚めたと聞いている。あ、そうだ、そこの彼と模擬戦等はどうじゃ?成り行き上そうなったとは言え、外部の人間がこちら側に来る事は少なくてな。まあ無い訳では無いんじゃが、今はゴタゴタしておってのう。みんなピリピリしているんじゃよ」


「模擬戦!ジジイも分かってるじゃないか!身の程をコイツに分からせてやるぜ!」


「いや、何を言ってるんですか、自分が力に目覚めたとか、さすがに夢見る中学生じゃあるまいし、そんなこと言われても舞い上がったりその気になったり出来ませんよ。第一、仮に使えるとしてどうやって使えば良いんですか?」


俺はあくまで話し相手は一さんであるように俺様系の男を一切見ないようにして反論する。


「じゃからこれから自覚して貰う。そして大河君、下がりなさい。大丈夫、模擬戦は明日に組んでやる。」


「今日の所の顔見せは以上じゃ。皆、解散」


一さんが手を叩くと部屋から出ていく。それに倣うようにして部屋に居た数人がゾロゾロと退出する。大河君と呼ばれていた俺様系はニヤニヤしながら、美空ちゃんはプルプル震えながら、それに続いて行く。


最後に残った俺たちは最初に案内してくれた中居さんに促され大部屋から出た。


「えっと、すみません。力を自覚して貰うって、具体的に何をさせられるので?」


「陰陽術にもいろいろありますが、まずは基本の身体能力の強化ですね。美空さんの肉盾として貴方達は雇われたので」


「肉盾かーまあ、明らかに彼女は魔法使いタイプだったもんな」


「あー火の玉を出してる間は棒立ちだったもんな」


「おや?肉盾などと言われてっきり怒ると思ってましたが、案外冷静ですね」


「冷静ってよりも開き直ってる感じですね。ここで「なんだと!」って逆上して騒いでも何にもならないと、それぐらいはわかります」


「よろしい、ではこちらへ」


裏庭のいかにも訓練場といった所に、通された俺たちは指南役であろうおじさんを見つける。


「君たちか、美空ちゃんが勘違いして連れてしまった一般人というのは、私は剣岳刀矢という。ここで剣術の指南役をしている。」


「平野遊君と藤田俊典君だね。明日には彼と模擬戦なんだ。自己紹介もすんだしサッサと本題に入ろう」


「まず、力は誰しも持っている。だが、ほとんどの人間は自覚していない。そしてこの力の存在は公にはしない様に取り決めがされている。ここまでは分かるね?」


「「ハイ」」


「で、だ。この力、まあ、魔力やら妖力やらチャクラやら気やらオーラやらいろいろ言い方があるけど、基本的に同じモノだと思ってくれて構わない。呼び方が違うだけだ。」


「成る程、引き出し方がいろいろある感じですか?」


「おお、鋭いじゃないか。力を電気に例えると、だなモーターを回す、ランプを付ける、暖める、冷やす、赤外線を飛ばす、回路を動かす、いろいろあるだろう。それと同じよ」


「で、今回の模擬戦までに使える様にする身体能力の強化だが、正直に言って焼け石に水だ。何故模擬戦を引き受けた?」


「まあ、それは成り行き上………というか、断る選択肢ほとんどなかったですよね。仮に断っても針の筵だし、どうせしんどい目に会うなら早めに慣れておいた方が良いかなと」


「ハハハハハ!面白いじゃないか。だが少しなげやりじゃないか?」


「自分でもそう思いますけど、まあ、理不尽なのは世の常じゃないですか」


「確かに、違いない。さて、ふたりとも並べ。そして手を前に出せ」


俺たちは並んで手を伸ばすと、刀矢さんが片手ずつそれぞれの手で俺たち2人と手を繋ぐ。


「促成で行くぞ、力を流す。そしてその感覚を掴め」


「「グッ………アッ………!」」


掴んだ手から何かが流れ込んで来て立ってられなくなり崩れ落ちる。


「今日は日が暮れるまでやるぞ。後はこの霊石を握りしめて感覚を掴め。素人に毛が生えた程度にはなれるだろう。すまないが、耐えてくれ」


「りょう………かい」


「うっ…………す」


「よろしい」





…………………………



翌朝、


「あ゛ーー」


「ヴぉーー」


「おはようございま………えっ!大丈夫ですか?」


「あ゛、昨日の中居さん。いや大丈夫ですよ。ちょっと力の流れを感じる為の霊石とか言うのを一晩中抱えてただけなんで」


「そろそろいっそ砕いて飲もうかと思ってた所です。」


「意外と元気そうで何よりです。朝食をご用意しました。どうぞこちらへ」


「「お世話になります」」



通された和室にはいかにも旅館の朝食が並んでいた。


「マジで頂いて良いんです?すごい旨そうですね!」


「ありがとうございます」


「この焼き魚とかめちゃくちゃ旨いッスね!」


「ユウ!この海苔とか明らかに俺の知ってる海苔じゃないぞ!昨日の回転寿司の海苔とはダンチだ!」


「この味噌汁とか毎日飲みたいね!」


「そんな…………私たち昨日会ったばかりで………ですが、よろしくお願いします」


「口説き文句じゃない!何言ってんですか!」


「でも、今後次第では本当によろしくお願いしたくなるかもしれません。今日の模擬戦、頑張って下さいね?」


可愛らしく微笑む中居さん


「まあ、ほどほどに頑張ってみます。」


「がんばれよーユウ!」








そして模擬戦の時間が来た。

場所は昨日の訓練場、何人かのギャラリーがつまらなそうにこちらを見ている。


「ハッ!逃げずに良く来たな美空を助けたそうだが、そんなのは関係無い!身の程を分からせてやる!」


「まあ、どうせ逃げようとしてもダメだろうしやるだけやってみようかなって。それにボスの一さんも思うところありそうだし」


「では、よろしいですね?」


「初め」


合図と共に昨日感じた力を意識しながら霊石を握りしめた拳を突き出す。


「ぶげっ」


拳がクリーンヒットして大河君が倒れる。だがまだ決着は付いていない、反撃を許さない様に馬乗りになってさらに撲る!


「勝機があるとしたらッ!何かされる前に黙らせるッ!」


「ぶグッ!がぼッ!ぐううぅ!」


だが、いきなり大河君が燃え上がる!


「ガアアア!舐めてんじゃねぇぞ!」


「こっちのセリフじゃあボケぇ!何が陰陽師じゃクソァ!秘密を知ったから来て貰うってさぁ!拒否権が無い事ぐらいは一般人してても知ってんだよ!」


「このっ!燃えぶっ!ふざけガッ!」


「熱い!クソッ!八つ当たり!かも!しれないがっ!」


「何で!テメェの!当て馬に!されなきゃ!いかんのじゃ!ボケェ!」


燃えながらも、ここでマウントを解いたら勝ちの芽は無くなると感じ殴り続ける。


「カアアア!」


大河君が口にエネルギーを貯めて火を吹いた!


「なんの!霊石パンチッ!!」


俺は開いている奴の口に握りしめた霊石をフタ代わりにねじ込む!

すると、奴の体から出ている炎が消え失せる。おそらく気絶したものと確認してマウントを解く


「あっつ………これで良いですか?」


まばらに居たギャラリーはドン引きしていた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る