ローファンタジーって良いよね。不思議パワーには憧れるけど、異世界とかちょっと……実際問題として現代日本は離れたくないよね

コトプロス

第1話 ローファンタジーって良いよね



「ローファンタジーって良いよね。」


「不思議パワーには憧れるけど、それはそれとして仮に有るとしても異世界とか行きたくないよ」


「ゲームもスマホも無い、プラモも買えない、集団転移モノじゃなければ家族や気心の知れた友人にも会えなくなるしさ」


友人との漫画やラノベ談義を楽しむ自分はそう答える。


「まあ、それも分かるけどさ。異世界転移や転生の方が良いってヤツも多いだろ。」


「まあ、分かりやすく違う環境に行きたいってのもあるだろうし、全てが未知の世界はワクワクするだろ。それと物語にリアリティーを出すなら………そうだな。幸い俺やお前は家族仲は悪くは無いが、人によっちゃ「もう二度と顔を見たくない」って家族や友人も居るだろうし、治らない難病を持つ奴も居るかもしれない。仮に自分がそういう環境なら異世界に行って心機一転!とは考えそう」


とある寿司チェーン店の一角でくだを巻く、何時もの事だ。


「ラノベも良いけどさ、そういやこないだの木星の魔女見たか?」


「ああ、なんと言うかな、俺たちが子供の頃見てたシェードとは物語の味付けがちょっと違うけどしっかりガノタムしてる感じがして良いよな」


「今はラノベ原作が多いからなぁ。それ自体は良いんだが、異世界が多いからね……」


「ま~た振り出しに戻ったよ」


「だってそうだろ?木星の魔女とかもそうだけどSFモノやロボットモノも大好きなんだよ。ガキの頃に魅せられたストーリーってのは心に染み付いてるからな」


俺はそう言いながら流れてきたサーモンを取る。


「おい、欲しいなら追加で注文するぞ?」


友人は注文用タブレットとにらめっこを始める。


「いや、流れてるので良いよ。」


「で?ロボット系、かそりゃあ俺も好きだし、10年ぶりに出る新作が出る「ACTION conductor」はクッソ楽しみだけどさ、実際問題として、10年かかったったって事はそんだけ公式は出すのに躊躇してたって事じゃない?ビラップやストライド、ギャースを作った谷山監督もロボアニメ作って流行らせて起きながら本人はインタビューとかでは「ロボアニメはもう流行らない」って言ってたみたいやん」


「まあなー、アニメとかにするとなるとロボはやっぱり大変なんだろうなぁ」


「まあそう言いながら異世界モノが一杯出てきてロボアニメやSF作品が相対的に少なく見えてるだけで、ちょくちょく名作は出てるんだよな。ツイッパーではあまり話題になってないだけでさ」


「まあ、今だって木星の他にギガトン級タケシやってるし、去年の今頃にしてた電源少女とか神だったよな。」


「そうなんだよ!それに電源少女とか現実を下敷きにしてるしオタク文化が物語のキーだったからめっちゃ共感したなぁ」


「ちょっとすまん、醤油取って」


「あい」


「ロボアニメ意外にもさ、まんまハクヒとかキャナとか、とはあるとかの世代ドンピシャだからな。SFとかローファンタジー系ももっと欲しいんだよ」


「現代にダンジョンが出来る系とか超能力者モノ、現代魔術師や、現代陰陽師系もなってみようやカクヨムじゃ見掛けるけど書籍化、ましてやアニメ化まで行ってるのあんまり見掛けないからなぁ」


「ジャンブ系なら祝術とかノコギリマンとか、それこそ社会現象の鬼烈とか一杯あるやん」


「ヤメだヤメ、食べよ」


「あっテメェ!旗色悪くなったからって俺の〆鯖取んなよ!」


それからしばらくは話題が尽きて寿司を食っていた俺たちだが、不意に厨房が騒がしくなった。


「なんだ?バイトか誰かがケンカでも始めたのか?」


「どうだろ……あんまり良い気しないしもう出ようや」


「せやな、お勘定ボタンポチー」










「………来ないな」


「え?マジで何かあった?」


「かもしれん。厨房を覗きに行く?」


「野次馬かよ?止めとけ止めとけ」


次の瞬間、電気が消えて寿司を運ぶレーンが止まる。他に居た客たちもにわかに騒ぎだす。


「トラブってんなぁ。地震なら飛び出すんだが揺れてないしな」


「ホントどうしたんだろ」


「これでトラブルの原因がカッパだったりしてローファンタジーな世界に片足突っ込んだりして」


「お前それ………中学生がクラスにテロリストが来たら~とか妄想するのと同レベ「そこの人、カッパって言った?情報共有して貰える?」


暗くなった通路を向こうから歩いて来た女が焦った様子で詰めよって来る。


「こっちの貴方も、無用心よ。いくら冗談のように自然体で話してるとしてもテロリストなんて言葉は出すべきじゃないわ」


「いや、すんません(オイトシ!やべー奴が来た。顔は可愛いけど、何かやべーって!)」



「ははは、聞こえてました?(いや初対面でめっちゃ真面目な顔で、カッパやらテロリストやらの話に乗っかられても)」


「まあ良いわ、そっちの貴方は?」


「俺はタイチ、そっちのがトシだ」


「ユウ!テメェふざけんなよ。あ、俺はケンって呼ばれてます。」


「そう、初対面で名乗らない相手には名乗る積もりは無いのね。基本は出来てるんじゃない。全部偽名かしら?でも今は本当に余裕が無いの、私は「美空」よ。貴方達現地の協力者よね?話は聞いてるだろうけどもう一度確認の為におさらいするわ」


「今あちこちの寿司チェーン店で働くカッパ達を開放しろと妖異解放集団「幸明」の木っ端構成員が乗り込んで来てるわ。化けたカッパが店員にまぎれてると一般人に知られるのはマズい、速やかに処理する必要があるのだけど、同時多発的に行動を起こされてこの店に派遣された陰陽師は私一人。協力者が2人居ると聞いてるわ、貴方達は何が出来るの?」


「ッスゥーーーーネトゲ………ッスかねぇーー(やべーってトシ!この女なんかやってるよ!)」


「あーーーー爆死ガチャとか………得意ッスわーーー(テメェの望んでたローファンタジーのお出ましだぞ!)」


「正直に言うなとは言ったが符丁は相手が分かる様にして初めて意味があるのよ?まあ良いわ、着いてきなさい」


美空と名乗る女はズカズカとバックヤードに向かって歩いて行く。その隙に俺たちは2000円を皿の下に挟ませてから店の外にダッシュした。


「何だよあの女!やべーよ!」


「ローファンタジー陰陽師やったー!とか思ってんじゃない?」


「あくまで物語の中だから「良いなー」なんて言ってられんだよ!真面目な顔して陰陽師がどうとか言ってる奴には近寄りたくないだろ!」


「陰陽師!彼らを知ってる?だがアイツらみたいな雰囲気を感じない……同志か!私に2人も協力者付けてくれるとは、「アキラ様」ありがとうございます!さあ、貴方達、3人でこちらから先んじて店内の彼女を制圧しましょう!そしてカッパの事を明るみに出します!化けた妖怪が現代日本に馴染んでるなんてフザけた常識をひっくり返せる日は近いですよ!」


店から出て駐車場に居るとモノクロのパーカーを着てフードを目深に被った怪しげな男が俺たちに割り込んで来て、うっとりとした様子で語りかけてきた。


「ソウデスネ、センパイ(おいおいおいおい!さっきのやべー女の話マジだったのかよ!)」


「センパイナラ、マチガイナイッス(もうコイツのがヤバそうだし、あの女の子可愛かったからコイツをあの女の子に付きだそうぜ)」


奇妙な男が揚々と裏口のドアから寿司店のバックヤードに入って行く。俺たちは何が何だかよく分かっては居なかったが、さっきの美空と名乗った女の子とこの奇妙な男が万が一戦い始めたらどうなるのか、興味本位で着いていく事にした。


「クサい、クサいカッパの臭いがしますよ。人間様の食べ物の店でカッパが働けると思って居るのですかね?いくら経営者が認めても私達は認めませんよ!」


バックヤードの道具を蹴散らしながら家捜しをする男。すると向かい側の扉から先程の女の子が出てきた。


「アンタ達!何し………そういう事、」


美空はポケットから小さい御守りのキーホルダーを出すと何かを念じた。するとゴルフボール程の火球がキーホルダーを握りしめた拳の周囲に五つ程浮かぶ。


「今です!」


俺は咄嗟にトシと2人がかりでに奇妙な男を羽交い締めにした。余計な事を言わない様に念を入れて服の裾を伸ばして奇妙な男の口も押さえる。よだれが付くからやだなぁ……


「大事な陰陽師さんに万が一があっちゃいけないから上手いこと仲間のフリしてました!」


「俺たちに当たんない様に腹にお願いします!コイツアホだから生かしてシバいたら何か吐くかも!」


一瞬険しい顔をしていた彼女は一転してニンマリとした笑顔を浮かべた。


「アンタ達……陰陽師じゃないのに妖怪テロリスト相手に……私の為に……」


「え!何ボソボソ言ってんの早くダウンさせて!」


「何か不思議パワー出されたら面倒だからはよ!」


腕の中の男は物凄い顔をして目の前の女の子を睨み付けていた。


「ブグッ!グッ!グゥゥゥ!」


そうこうしているうちに、ゴルフボールサイズの火球が男の腹部に五つ突き刺さる。脱力した男を見て気絶していると判断し解放した。


「アンタ達やったじゃない!着いてきてなかったからてっきり逃げたかと思ってたわ!「幸明」の構成員の後ろに居た時は一瞬疑ってしまってごめんなさい。貴方達は勇気ある協力者よ!」


女の子は上機嫌で何処かに連絡を初める。そして向こうに振り向いた瞬間!気絶していたはずの男がポケットから何かを取り出すのを見て女の子と男の間に飛び込む!


「ぐあっ………」


「チッ………妖怪か……陰陽師に……ブチ……こ……」


手の空いていたトシが男の背中に追撃し、ようやく男は沈黙した。


「ちょっ……アンタ!大丈夫?!」


「大丈夫大丈夫……何か投げつけられただけ……だから……」


2人に覗き込まれながら俺は気を失った。

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