こんな作品読んだことない

こんな作品は読んだことがない。

異世界転移ものといえば主人公は若者ばかり。
だがこの作品の主人公はバツイチの三十路。
それでいて生徒から好かれる大らかさと、人の感情の機微を読み取る豊かな感性をもち、なおかつ頭がキレる。
しかもそれを鼻にかけるところがないから話のメインの語り手として読む側もすっと感情移入できる。

この作品の特異性として次に挙げるべきは転移者の数と素性。
クラスの生徒まるごと異世界転移する作品はたまに見かけるがこの作品で転移するのは教職員。
もし職員室が職員会議中にまるっと異世界に転移してしまったら…。
転移者の数は職員だけではなくたまたま居合わせた生徒、卒業生、親御さんなども含めて23名。
特筆すべきはその23名に豊かな個性と役割が与えられていること。
開幕早々23名もの人物が登場したというのに、読み進めれば読み進めるほど彼らが無駄なく配材され構成された23名であることがわかり「多すぎる」と感じることがない。

さらにこの作品の特筆すべき点はストーリーにリアリティがあるところ。
異世界転移もので「そうはならんやろ」という展開をよく見かけるが、この大人を中心とした23名は生き残り元の世界に戻るために冷静に会議を開き、班を構成し、協力し合いながら状況を改善することを目指す。
おそらく自分が異世界転移などしてしまおうものなら同じように立ち回るのではないかと思えるくらい違和感もなければ破綻もない。

そんなサバイバルを軸とした展開が最初は続くが、そのうち異世界に関わる謎、恋愛、登場人物たちの過去などが少しずつ描出されていき、読者をじわりじわりと惹き付ける。

文体は軽妙な一人称を軸とするが、主客が変わるたびに文章の雰囲気も変わり、登場人物の個性を巧みに描き分けている。
また、一人称の軽妙な文体の中に見え隠れする筆者の豊富な語彙力と表現力には感服する。
さらに三人称の文体も操り、読み手に客観的な視座や状況のシリアスさを巧みに伝える。

また、教職や植生や天体、空手や音楽に関する精緻な描写があり、いかに著者が博学か、あるいは丹念な取材を行ったかが窺える点にも感服する。

ストーリーは彼らの日常と内面の機微を丹念に描きながらもテンポ良く進んでいく。
私はまだ第一部までしか読んでいないが、衝撃的な展開と多くの謎を孕んだストーリーにぐいぐい惹き付けられているところだ。

読者が気付かぬうちに張られた伏線は余すところなく回収されていき、プロットや設定がいかに緻密に作り込まれているかが窺える。

特に第一部の第七章は圧巻。
ぜひこのレビューを読んで興味をもたれた方は第七章まで読了していただきたい。
話数は多いが一話あたりは決して長くないため、さほど時間はかからない。
あなたをこのオリジナリティに富み緻密に練り上げられた異世界サバイバルに引き込むことを約束する。

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