7
「先輩」
その日は何故か他の部員がいなくて、私と智美の二人きりだった。
智美は片隅の給湯器でお茶を淹れている。もしかするとこの紅茶って、屋敷にあった高級そうな茶葉だったりするんだろうか。いつも水ばかり飲んでいたが、一度飲ませてもらおうか。
「私が明空グループの一人娘だと知ったら、私への見方は変わりますか?」
呟くように智美が言った。
私はどう答えたらいいものかと考える。
ああ、よく知ってるよ。ここで答えるべき言葉はこうだ。誰の娘だろうと、どんな金持ちだろうと、明空智美は明空智美だ、とか。
だけどそんな歯の浮くような言葉を口に出す気にはならない。
「変わらない方が無理だろ」
殊更に冷たく、私は言った。
「自分は自分とか言っても、育ってきた環境で人間は変わるものだし、全く同じように見ろ、という方が無理だろ」
「そうなんでしょうか」
悲しそうな口調。
「だったら私は、普通に友達同士にはなれないんでしょうか」
「どういうことだ?」
「友達だと思っても、私がお金持ちだと聞いた途端、特別扱いされるんです」
少し考えてから、私は言った。
「……そこから頑張って見たことはあるか?」
「というと?」
「一度特別扱いされたら終わりなのか?」
「私は普通に友達になりたいだけなんです」
「だったらさ、例えば車椅子の子が入学してきたとするとどうする? 智美はそれを全く考えずに最初からやっていくことが出来るか?」
「……難しいですね」
「でも、だったら最終的に普通の友達になれないと思う?」
「……違います。たぶん」
「そういうことだよ。最初がどうだろうと最終的に普通の友達にはなれると思う」
そう言ってから、クスッと笑う。
「まぁ、家柄が何だろうと一つだけ言えることがある」
「なんですか?」
「智美は甘ちゃんの後輩であるってこと」
「ひどいです……」
頬を膨らませる智美。
やっぱりこの子ハムスターっぽいよな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます