8
「智美はいいよねー」
部室でふと、百花が呟いた。
「なにが?」
「あんな親が有名人で金持ちなら、苦労しなさそう。スタート地点が違うんだよ」
「あー。だよねー」
「私なんて国公立にしろとしつこく言われるよ。将来は公務員がいいとか」
「ああ、将来のこと考えたくないよね……」
「智美の場合は多分、明空コンチェルンの社長でしょ。いや、出来る社員を婿養子に構えて社長夫人とか?」
そろそろ我慢が出来なくなって割り込んだ。
「おい、いい加減にしろ」
二人の表情が凍る。
「親が天才だったら子も天才なのか? 親が鬼だったら子も鬼なのか?」
「いえ、その」
「それとも私は、百花とか亜紀子のことを、親がどんな人かで判断すべきなのか?」
「……そ、そうじゃないですけど」
「だったら言うな」
「……はい」
「先輩、怖いです」
百花が不服そうに言う。
「怖くて結構」
私は少し睨み付けた。
百花はちょっと嫌な顔をしてから、小声で言った。
「今日は帰ります」
「気を付けて」
私が言うと、百花はそそくさと出て行った。
「……今日は私も帰るか」
「分かりました、お疲れさまです」
そう言って、亜紀子はぺこりと礼をした。
荷物を手早くまとめて外に出ようとすると、亜紀子がもう一度話しかけて来た。
「でも、ちょっと意外でした」
「……何が?」
「衣乃先輩が、智美を庇うなんて」
……
「そうか?」
自然に聞き返せたと、思う。
「智美みたいなタイプは嫌いなのかなと。普段から練習熱心なわけでもないし」
「馬鹿言え」
私は鼻で笑って、部室から廊下に踏み出す。
「あんな奴は嫌いだ。嫌いな奴でも私の正義に反すれば庇う」
そう言うと、振り返ることもなくドアを閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます