Let's勉強

 えげつない朝食を終えたところで、僕はまた読書に戻った。そういえば、この本には料理に関する話は特になかった。まぁ文化面の、それもそこそこ専門的な分野なのでそれはそれで専門書がありそうだ。


 ともあれ、改めて今日やることを振り返る。まずは、基礎の勉強、続いて王の知り合いの『賢者』に会いに行く。とにかく今は叩き込める知識は全て叩き込むべきだ。


 一時間後、ドアをノックする音が聞こえた。


「どうぞ」

「失礼します」


 ドアを開けたのは、バトラーさんだった。


「おはようございます。ホルスト様がお呼びです。応接室までご案内いたします」


 ついに僕の新たな学問ライフ(?)が始まるのだ。


「分かりました。ありがとうございます」


 僕は期待に胸を躍らせ、バトラーさんについて行った。




「おお、来たか。おはよう」

「おはようございます」


 応接室につくと、ホルスト王が長机の前に座っていた。応接室は昨日とは打って変わってとても事務的な造りになっていた。個人的にはこちらの方がとても落ち着く。バトラーさんは一つお辞儀をして、ホルスト王の後ろに立った。僕も案内された席に座った。あ、そういえば


「鈴村さんはまだきてないんですか?」

「うむ。エリスが迎えに行ったのだが、まだ来ていなくてな」

「あ、そうですか」


 鈴村さんは僕に引けを取らないほどに学校にくるのが速かった。そんな彼女が遅れるなんてことがあるだろうか。そんなことを考えていると、後ろのドアが開いた。


「おはようございまーす」

「うむ。おはよう」


 鈴村さんが特に気にかけた様子もなくスーッと入ってきて、僕の隣に座った。


「おはよう、青木くん」

「おはよう」

「えーそれだけー?」


 たかが挨拶にこれ以上何を期待しているのだろうか。


「いや何もないよ」

「えー私見て何も思わないの?」

「思わな……ああ」


 鈴村さんをよく見てみると、昨日と服装が違う。昨日の華やかな服装に比べて、今日は学校の制服のような服装だった。ただそれでも、この国特有の意匠が所々にあるのが分かった。鈴村さんも僕の意図がなんとなく分かったようで、ニヤニヤしながら訊いてきた。


「ね、どう?」

「どうって……いいんじゃない?」

「えー、昨日は素直に似合ってるって言ってくれたのにー」

「はいはい、似合ってるよ」

「むー、なんか釈然としないなぁ」


 毎度のことだがめんどくさい。女心というのは分からないものである。まぁ単に僕が分かろうとしていないだけだが。


「ほっほっほ、仲がいいのは良いことだ」

「別に良くは……」

「そう見えてるならよかったでーす!」


 調子狂うな。


「さて、皆そろったことだし、今日の予定についてしよう。バトラーよ、頼むぞ」

「承知しました」


 バトラーさんがどこからともなくメモ帳を取り出して説明を始めた。


「まず午前中は、魔法学の基礎を学んでいただきます。教鞭は私バトラーがとらせていただきます。そして、昼食を終えた後は、特に予定を入れていないのでご自由な時間をお過ごしくださいませ。そして、3時からは、七海様はメルスト大聖堂の大聖女様との対談、智信様は北の森の賢者様との対談が予定されています」


 バトラーさんがスラスラと僕たちの予定を言った後、パタンとメモ帳を閉じた。


「ありがとうバトラー」

「当然のことをしたまでです」

「2人も何か質問があればよいぞ」

「大丈夫です!」

「特には」


 北の森、というのが若干引っかかるが現時点では何もわからないため、下手に質問するのはやめた方がいいだろう。


「うむ。では教室へ案内するとしよう」

「え?教室まであるんですか?」

「うむ。実は私の娘が幼いころ、体が弱くてな。この王宮から出るのも大きな負担だったために、ここで勉学も済ませてしまおうと思った次第だ」

「はぇ~。大変だったんですねぇ~」


 娘さん、ないしは王女がいたというのは初耳だ。


「そんなわけで、教室まであるわけだ。さて、バトラーよ。案内を」

「承知しました」


 バトラーさんは、素早くドアの前まで向かい、ドアを開けて待機し始めた。


「お二人とも、こちらへ」

「それでは、頑張っておくれ」


 そして僕たちはバトラーの案内で、教室まで案内された。少し歩いて先で、バトラーさんがドアの前で止まり、ドアを開けた。


「こちらが教室になります」


 そこには、見慣れたような、そうでないような教室の風景が広がっていた。細部に文化的な違いはあるものの、ぱっと見で教室だと分かる。大きな違和感があるとすれば机が二つだけという点だが、それは生徒が二人しかいないのだから当たり前だろう。


「うわー、想像以上に教室だぁ」

「……人が考え付く教室は古今東西一緒ってことじゃない?」


 ところで、一体鈴村さんが何を想像していたのかは分からないが、その発言はちょっと失礼ではないだろうか。


「それでは、席にお着きください」

「じゃあ私こっちー」


 バトラーさんがそういうや否や鈴村さんがササっと入ってすぐの席に座った。必然的に僕は奥の席になるのだが、別に張り合うほどのことでもないため、普通に席に着いた。そしてバトラーさんは教卓の前に立ち、こう言った。


「それでは、魔法学基礎を始めます」


 なんか大学の講義みたいな名前だな。

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