文化の街
「うん、青木くん似合ってるよ。流石は私!」
そして選ばれた服は、ワイシャツに藍色のベストに、同じ色のネクタイとスラックスという正直制服と大差ない服装になった。とはいえ、制服よりかは浮かないだろう。
「鈴村さんも似合ってるんじゃない?」
対する鈴村さんは、緑を基調とした花柄のワンピースだった。そして、また同じ花柄のリボンがつば広帽子を被っている。
「え、そう?ありがとう。女子を素直に褒めれる男はモテるぞ~」
「別に下心があったわけじゃないんだけど」
「知ってるよ。青木くんはそういう人じゃないもん」
正直、僕はガリ勉だという自覚はある。だから、別にモテようとかそんなことは思ったことはない。そもそも、こうやってまともに話せる女子は、後にも先にも鈴村さんが初めてだ。
「お二人ともお似合いです。では、準備もできましたので参りましょう」
バトラーさんが様子を見に来たついでにそう言った。
「それじゃ、いこっか」
僕たちは、繁華街に行くべく王宮の玄関に来た。そして、門番さんたちが、やけに大きな扉を2人がかりで開いてくれた。その先には
「わぁ~~!!綺麗~~!」
「これは………すごいな………」
緑と水で覆われた庭園が、視界一面に広がっていた。そして中央には、石で舗装された道路が門まで続いていた。
「智信様、七海様。あちらに馬車を用意しておりますので、参りましょう」
バトラーさんが手を向けた方を見てみると、荘厳な装飾が施された馬車があった。
「すご~い!私馬車とか乗ったことないんだよね!」
鈴村さんが目を輝かせながら、馬車を眺めている。勿論僕も乗ったことはない。バトラーさんが、馬車のドアを開け、こちらを向いた。
「それでは、お乗りください」
僕たちは言われるがまま、向かい合わせになるように座った。そして、僕の隣には、バトラーさん、鈴村さんの隣にはエリスさんが座った。
「へぇ、中はこうなってるんだ~」
鈴村さんが子供のようなまなざしで車内を見渡している。こう見ると、本当に純粋な人なんだなって思う。
「まもなく出発します」
その言葉とほぼ同時に馬車が動き出した。若干揺れるが気になるほどではない。そして、長い道路から門をくぐり、城の敷地内から出た。そこに広がっていたのは、黄金色の小麦畑だった。日本では見ることのない、非常に西洋的な景色に、流石の僕もテンションが上がった。
「わぁ、綺麗!」
「こちらは、陛下が直営で管理している小麦畑です。陛下は学生時代に農業の研究をしておられましたので、今でもこうして自分で作物を育てておられるのです」
どうやら、あの王はかなり博識らしい。名ばかりの王というわけではないのだ。それにしても、こんな広大な農地を自らが管理するとは、一国のリーダーとして、良い背中を見せられていると思う。
「ええ!王様がこれやってるんですか!?やっぱりすごい人なんだ~」
「陛下は誰かに任せっきりであることを嫌うので、こうして自分にできることを最大限行われているそうです。流石にこのすべてを一人で管理されているわけではありませんが、毎日必ず陛下も作業をされているんですよ」
ゆらゆらと揺れる馬車の中で鈴村さんとバトラーさんの話を聞いていた。他にも、この国の伝統文化や特産品、街の雰囲気などを皆で話していた。それから30分くらい経ったときだった。
「おや、そろそろ到着しますね」
「ええ、街が見えてきましたね」
2人の言葉に、僕たちは窓から進行方向を覗き込んだ。そこには、大きな門があり、そこから大きな城壁のようなもので囲まれていた。その付近では、多くの人々が入場のために行列を作っていた。
「それでは、改めまして。ようこそ、文化の街、メルストへ」
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