勉強<遊び

 属性とスキルが鑑定し終わった後、僕たちは王と今後の方針について相談していた。


「2人とも、ご苦労だった。まさかかなりの逸材であったとは、嬉しい誤算だ。さて、とはいえ、使い方が分からなければ、意味がない。というわけで、お主たちには、王宮直属の教師に魔法やら教養やらを教わってもらう。良いか?」

「もちろんです。こちらの世界の学問がどんなものか気になりますし」

「青木くん、ほんっとにガリ勉なんだね。流石に真似できないや………」


 なんか鈴村さんに引かれているが、関係ない。周りの目を気にしていては、勉強は身につかない。


「まず、智信殿には、先程言ったように、私の友人の『賢者』に会ってもらう。彼から、話を聞くといい。何せ、かなり専門的なスキルだ。難しいと思うが頑張ってくれ」

「大丈夫です」


 正直専門的なものの方が興味ある。


「そして、七海殿には、大聖堂に行き、そこの大聖女から指導を受けるように」

「大聖女?」

「彼女は、この国の安寧のため、長きにわたり、国の平和を願ってきた『聖女』だ。私も昔、世話になった。きっといいようにしてくれるだろう」

「へ~、そんなすごい『聖女』様もいるんですね」


 確かに、聖女というと、シスターさんみたいなイメージがある。この世界でも、扱いはそういった感じらしい。


「とはいえ、いきなり召喚されていきなり勉強というのも酷なものだ。というわけで、今日はこの国の雰囲気でも体感してもらうべく、繁華街で羽を伸ばしてもらおう」

「いえ、別に勉強は全然大変じゃry」

「やったー!青木くん!今日は全力で遊ぶよー!」

「あの、だから僕は」

「あーおーきーくーん?」

「ハイ」


 鈴村さんがものすごい形相で迫ってきた。流石に、反射で返事をしてしまった。


「うむ。では、バトラー、エリス、こちらへ」

「「失礼いたします」」


 王がそういうと、どこからともなく執事さんとメイドさんが僕たちの前に現れた。忍者か何かなのか。


「お主たちの警護と案内を兼ねてこの2人を同行させる。何かあったらこの者達に聞くといい」

「バトラーと申します。御用があれば、なんなりとお申し付けください」

「エリスと申します。お二方が楽しめるように、全力でサポートしますね」


 バトラーさんは、長い銀髪の髪を後ろに纏めている、眼鏡をかけた長身の男性だ。目はキリッと鋭く、ちょっと怖い。エリスさんは、薄桃色の髪をボブにしている、可愛らしいメイドさんだ。歳はそう離れていなさそうだった。


「バトラーさん、エリスさん、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします!」

「うむ、それでは、十二分に楽しんでくるといい」

「はい!」


 僕は勉強でもよかったんだけどな………


「あ、あの、ちょっといいですか?」

「む、どうした、七海殿」


 唐突に鈴村さんが王に質問をした。急にどうしたんだろう。何か不安なことでもあるのだろうか。


「今の私たちって制服じゃないですか。だから、外出た時に浮かないかなって思ったんですけど」

「ふむ、その通りだな。気遣いが及ばなくすまなかった。今すぐ用意させよう」


 すると、またどこからともなく召使いさんが現れた。一体どういう訓練をしているんだ。


「七海様、智信様、こちらへどうぞ」


 僕たちは、召使いさんに案内され、とある部屋に来た。そこにはものすごい数の衣服が、ハンガーにかけられていた。よく見ると、そのすべてが高価なものであることが分かる。


「うぅわ」

「すごーい!これいくつあるのかなー?」


 鈴村さんはまたはしゃいでいるが、対する僕はその圧倒的な物量に思わずドン引きしてしまった。


「好きなものをお選びくださいませ」

「え、この数から?」

「さようでございます」

「え」


 ちょっと何言ってるか分からなかった。縦長の回廊みたいな部屋の両側に2段構造で、服が数百単位でかけられている。ここから選ぶなど正気の沙汰ではない。


「ど~れ~に~し~よ~う~か~な~」


 鈴村さんはノリノリで選んでいる。流石は女子、ファッションにはこだわりがあるようである。


「うーん、出かけるなら多少は動きやすい方がいいよね。でも、せっかくならおしゃれしたいし………」


 正直、鈴村さんは学校でもかなり人気の美人だからどれ着ても絵になるだろうと思ったが、それを言うのは野暮だというのは流石に分かる。


「智信様?いかがいたしました?もしかしてお気に召さなかったのでしょうか………」

「あ、いや、あの、どれにすればいいかわからないというかなんというか」


 あまりにぼっ立ちだった僕を心配したのか、召使いさんが声をかけてきた。思わず僕は本音を口にしてしまった。しかし、召使いさんは、嫌な顔一つせずに


「それでは、私が智信様にお似合いになるようにお繕いしましょうか」


 と言ってくれた。それは非常に助かる。何せ僕は、そういったファッションのセンスが欠片もない。そのため、私服はいつもシャツばかりだ。


「え、なになに?青木くんの服選んでいいの?」

「なんで?」


 唐突に鈴村さんが乱入してきた。僕は本当に意味が分からなかった。


「だって私のやつ選び終わったし、青木くんのはまだ選んでないんでしょ?じゃあ私も選ぶ!」

「僕を着せ替え人形かなんかと勘違いしてる?」

「大丈夫!私センスには自信あるから!」

「そういう問題じゃなくてね?」


 結局そんなこんなで、僕は鈴村さんと召使いさんに完全に任せる形となるのだった。

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