異世界召喚されて賢者になった僕、奴隷になり下がったので魔王軍に寝返ります。

割箸の爪楊枝

運勢最悪

 異世界召喚、こんなの小説の中の絵空事だと思ってた。でも実際に起こってしまったからにはもうそんなことは言えない。


 チート能力、無双、ハーレム、小説の中の主人公はみんなそんな感じのかっこいい立ち振る舞いをする。でも僕の場合それは違った。


 散々僕を使っておいて、都合が悪くなったらゴミのように捨てられる。そんな始末。人間なんてその場その場の一方的な考えで動く生き物だとその時思い知った。


 その一方で、こんなことわざもある。『禍福は糾える縄の如し』。幸と不幸は交互にやってくるという意味だ。まぁそれに一喜一憂するなっていう意味もあるけど。その時の僕の幸は、僕を陥れたやつらを全員地獄に落とすことだった。成績学年トップだったの僕から出たとは思えない考えだったよ。




 とにかく、僕から言えることは一つ。




 異世界なんてロクなもんじゃない。








 朝六時、僕の一日は始まる。目覚まし時計を1コールで止めて、二度寝もせずにすぐに起きる。洗面所で顔を洗い、トイレで用を足し、リビングに向かう。


「あら、智くんおはよう」

「おはよう」


 母さんがキッチンから顔を出して、挨拶をしてきた。僕も特段考えずに挨拶を返す。ダイニングテーブルに行くと、父さんがお茶を飲みながら、朝の読書をしていた。


「おお、智信、おはよう」

「おはよう、父さん」


 父さんのテーブルの前には紙の資料が広げられていた。父さんは大学教授であり、そのための準備だと思う。今日はやけに紙が多いが。


「父さん、今日はやけに多いね」

「ああ、今日は近所の高校で大学の体験授業の特別講師に呼ばれたんだ。もしかしたら智信の高校にも行くかもな」

「勘弁してよ」


 父さんとそんな話をしながら、僕は朝ごはんの準備をする。炊飯器からご飯をよそい、母さんが作ってくれた料理をテーブルに持っていく。そして椅子に座り、手を合わせる。


「いただきます」


 朝ごはんを食べ終えたら、自室に戻って制服に着替える。そして、学校の準備をした後、歯を磨く。身だしなみを整えた後、荷物を持ってリビングに行く。時計は6時45分を指している。僕の登校時間は7時、まだ時間はある。特にすることもないので、ニュースを見ながら時間を潰すことにした。


「智くん、今日もテストよね。頑張って!」

「うん、ここまでは順当に進んでるから、そんなに悪い点数は取らないと思う。手ごたえもあるし」

「まあ!智くんがそういうなら間違いないわね。お母さん、楽しみにしてるわね!」


 毎度思うことだが、母さんは17歳の息子がいるとは思えないほど若々しい。特にいまのように笑った時の若々しさは僕の同級生に負けずとも劣らない。世の中はたまに不条理だ。


『本日の占いコーナーです。一位は……』


 テレビのニュースでは占いコーナーがやっていた。無論、僕は信じたことは一度もない。


『残念ながら今日の一番運勢の悪い人は、さそり座のあなたです。』


 僕の誕生日は11月4日。さそり座だ。どうやら占い上では今日の僕の運勢は最悪らしい。


「あら、智くん、今日は災難ね。まぁそういう日もあるわ」

「大丈夫。占いとか信じてないから」


 そしてまもなく7時を回ろうとしていた。僕は鞄を持ち、玄関に向かう。そして母さんも見送りにとついてくる。


「忘れ物はない?」

「うん。大丈夫。」


 靴を履き、ドアノブに手をかける。


「いってきます」

「いってらっしゃい」








 自転車で走ること15分、僕の通う高校についた。この時間では流石に来ている生徒は朝練のある部活の生徒くらいで、グラウンドからは野球部が練習している声が聞こえる。僕は靴箱に向かい、上履きに履き替えて、僕のクラスの2-2の教室に向かう。恐らく教室のカギはかかっていないだろう。なぜならもう教室には


「あ、おはよう、青木くん」


 うちのクラスの学級委員長の鈴村さんがいるからだ。


「おはよう」

「今日も勉強?」

「うん」

「こんな朝早くから偉いなぁ。私朝は勉強する気にはなれないや」

「別に、好きでやってるだけだから」


 鈴村さんも学年屈指の成績優秀者で、みんなから慕われている。とはいえ、学年トップの座は僕が譲らないが。


「鈴村さん、別に僕に合わせて早く来なくてもいいのに」

「えー、だって私、クラスで一番最初に教室にくるのが好きだったのに。2年になったら私よりも先に教室にいる人がいるんだもん。そりゃあ燃えるよ!」

「こんなことで別に闘志燃やされても困るんだけど」

「もー青木くんは冷たいなー。冷たい男は嫌われるぞー」


 僕はそんな痴話話をしながら自分の席に着き、参考書とノートを広げる。そしてさも当たり前のように鈴村さんが隣に椅子を持ってきて座った。


 僕には夢がある。父さんのような大学教授になることだ。小さいころから、父さんの仕事姿を見てきた。研究内容を聞くのが好きだった。自分の知らないことが次から次へと僕の耳へ舞い込み、とてつもない好奇心に駆られた。


 そして僕も父さんのような、未知の学びの世界に飛び込みたい。幼いながら僕はそう思っていた。その思いは今も僕の原動力になっている。


「今日は何の勉強?」

「………英語」

「うええ、私が数学の次に苦手なやつだぁ」

「そんなこと言っといて、前回僕を抜いて一番だったのはどこの誰だっけ」

「あれはたまたま運がよかっただけ。知識量じゃ青木くんに負けるよ」

「嫌味かな。というか今日のテストは英語でしょ。本当に勉強しなくていいの?」

「どうせ頭に入ってこないからやりませーん」


 前回のテストは鈴村さんに一問差で負けた。これは僕が高校生になって一番の不覚だ。


「ほら、集中したいから離れて」

「はーい」


 鈴村さんは嫌々僕の隣から離れた。その瞬間だった。僕の机を中心に光の柱が立ち上った。


「な、なんだ!?」

「なにこれ!?」


 僕たちに考える隙も与えず、周りが光に包まれていく。そして、視界も真っ白になっていき、意識も持っていかれた。








「ん、んん」


 目が覚める。確か、教室で勉強中に変な光に包まれたのはなんとなく覚えているけど……


「青木くん!大丈夫!?怪我とかない?」


 起き上がると、横に鈴村さんがいた。


「す、鈴村さん。これ、どういうこと?」

「それがね……」


 鈴村さんは気まずそうに、右を向く。僕も鈴村さんの視線の先を見てみると、


「おや、起きたようだな」

「へ?」


 そこには、中世の西洋の国にいそうな土手っ腹の貴族みたいな男性と、僕たちと同い年くらいの白いローブを纏った女性が立っていた。


「は?」

「お主が戸惑うのも分かる。状況についてはまた後で話そう。単刀直入に言おう」


 拝啓、母さんへ


「お主たちには、世界を救ってもらいたい」


 占いは時には信じるべきだと思いました。

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