日記その1
僕は気を落ち着かせて寝る準備を済ませた後、改めて今日のことを日記として記していた。万が一何かあった時に僕の経験が誰かの助けになってくれることを信じて書くことにした。それに何か分からないことがあった時に見返すことができるようにしておくというのも理由の一つだ。
まず訳も分からぬまま鈴村さんと共に異世界のジル大陸の一国ハラルに転移された。どうやらそこの国王のホルスト王に勇者として呼び出されたそうだ。
そしてこの世界の人には皆ある属性とスキルの鑑定というものをした。僕は光と闇の2属性でスキルが「賢者」、鈴村さんは火、水、土、風の4属性で「聖女」だった。どちらもこの世界では規格外のスペックらしく、かなり運が良かったといえる。
僕の「賢者」というスキルは魔法を生成できるらしく、無限の可能性を秘めているといえる。つまり何でもできる、ということである。これだけで僕の憂いは吹き飛んだ。
その後、この国で一番の文化の街と言われる「メルスト」の街並みを観光しながら巡った。とても興味深い物ばかりでまた行きたいと思っている。
こんなかんじで文章をまとめた。その下に箇条書きで今日の疑問点をまとめることにしよう。その方が、生活において目的ができて楽しい。
・なぜ僕らが転移されたのか
・言葉が分かるのはなぜか
・この世界の情勢と歴史が分からない
・魔法とは何なのか
・町で見たあの人たちはどういう経緯で連れられているのか
・元の世界には戻れるのだろうか
こんなところだろうか。この世界のことについて知らないことが多すぎる。それについてはこれから猛勉強して定着させていくとして、どうやらこの世界にも裏社会というのがあるのは分かった。それについても明日それとなく聞いてみよう。
続いて、今日会った人たちについても記しておこう。今のところは悪い人はいなさそうだった。
・ホルスト王
僕たちを呼びだした張本人。僕たちの質問や要望にも快諾してくれた上に、今後の予定や心身のケアなども自らしてくれた。バトラーさん曰く学生時代は農業の勉強をしていたらしく、城内の大農園も自ら手入れしているらしい。
・バトラーさん
王国直属の執事。とても聡明で気遣いがものすごい。コーヒーは苦手そう。
・エリスさん
王国直属のメイド。とても穏やかで人当たりも良い。
こんなところだろうか……いや違う。完全に忘れていたが王の隣にいたあの女性は誰なんだ。普通に考えたら姫と考えるのが妥当だろうが、実際はどうなのだろうか。
もしかしたらまた会えるかもしれないからその時に聞こう。
思い当たるものは書き終えたので、僕は本を閉じてやたら大きなベッドに横たわった。色々不安なことはあるが、それ以上に未知であふれるこの世界での発見が楽しかった。明日はどんなものが待っているのかとても楽しみだ。
そしてこの時の僕はまだ、この裏で大きな黒いものが動いているなんて、想像だにしていなかった。
そして、まもなく起きるこの事件こそが、僕の命運を分け、僕の野望の始まりとなる出来事であった。
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