エラー
王宮にて
「どうだったか?我が国随一の繫華街は」
「すっごい楽しかったです!」
「まぁ、はい」
王の質問に鈴村さんはニッコニコで答えた。博物館、行きたかったな……
「それはよかった。この国のことを少しでも気に入ってくれて何よりだ。バトラーとエリスもご苦労だった」
「いえ、当然のことをしたまでです」
「もったいないお言葉ですわ」
王の言葉に二人は各々の敬意を示しながら礼をした。それにしても、さっきから引っ掛かることがある。あの奴隷のことである。この厳格そうで、誰に対しても礼節を忘れない王が奴隷制など推奨するだろうか。それか、裏社会の闇なのか。
「智信殿はどうであったか」
「え、あ、興味深いものであふれていました。とても勉強になりました」
「もう、まーた勉強?」
鈴村さんがジト目で口をはさんできた。うるさい。
「そうか。その年で勤勉なのは良いことだ。さて、改めて今後のことについて話そうか。早速で申し訳ないが、明日から訓練に励んでもらうことになる。とはいえ、そこまで過酷なものではない。どちらも魔法に重点を置いたスキルであるから、魔法学についての基礎から学んでもらう」
何事においても基礎は大切だ。基礎が盤石でなければ応用なんてできるわけがない。流石だ。学問を分かっている。
「その後、実技や応用、スキル専門の勉強をしてもらう。何か質問はあるか?」
「特にはありません」
「私もないです」
「うむ、それではこの話は以上だ。今日はいろいろあって疲労も溜まっているだろう。ゆっくり休むといい。バトラー、エリス、案内を」
「「承知しました」」
2人はお辞儀をした後、僕たちの案内を始めた。
「それでは、こちらへ」
バトラーさんが先導している先は、やけに長い回廊があった。壁にはいくつもの絵画が飾られている。
「うわぁ、ザ・西洋って感じだねぇ」
「多分だけどその中でもイギリス寄りの造りだと思うよ」
「あ、はい、解説ありがとうございます」
鈴村さんが若干ひきながらそう言った。何か変なことでも行ってしまったのだろうか。
「こちらになります」
回廊を歩き始めて2分くらいしたところでバトラーさんが止まった。そこには客室と思われるドアが先にも無数に続いていた。でかすぎだろ。
「左の部屋が七海様、右の部屋が智信様になります。何かありましたら、部屋の中の呼び鈴を押してください」
またしてもよくわからないギミックが登場して今すぐにでも質問したいが、その欲を押し殺して説明を聞いた。
「それでは、ゆっくりお休みください」
バトラーさんは軽く礼をし、奥の方へと歩いて行った。僕たちもそれぞれの部屋に入ろうとドアへと向かった。
「それじゃ、青木くんおやすみ!」
「ああ、おやすみ」
そして、ドアノブをひねった時だった。
「あ!覗きに来ちゃダメだからね!」
「やかましい」
本当にしょうもない。僕がそんな低俗なことをする輩に見えるのだろうか。
「冗談だよ。おやすみ!」
「はいはい」
そしてお互いの部屋に入っていった。そして僕の目の前に広がっていたのは
「嘘だろ……」
そこにはホテルのスイートルームなんてものではない、恐ろしいくらいに荘厳な佇まいの部屋が広がっていた。一人で使うにはあまりにも大きすぎる。さらに至る所に細かな装飾が施されており、もはや出迎えているのか圧をかけているのかわからない光景に一旦足を止めてしまった。
そんな静寂を打ち破ったのは、僕の後ろのドアで鳴り響く乱暴なノック音だった。
ドンドンドン!!
こんなことをするのはこの世界では一人しかいない。僕は大きなため息を一つつきながら、呆れ気味にドアを開けた。そして開けた瞬間これである。
「ねえねえねえねえ青木くん!!すごくない!?」
「ハイハイスゴイスゴイ」
「だってすっごい大きいしベッドとかもおとぎ話とかでしか見たことないやつだったよ!?あとさあとさ!」
ダメだ。完全にストッパーが外れている。そこまでして僕に喜びを共有したいのか。ずっと僕の目の前で興奮しながらペラペラ話しているので、
「鈴村さん、落ち着いて」
と言いながら鈴村さんの両肩に手を置いた。これで落ち着いてくれるだろうと思った。が、その反応は全く予想していないものだった。
「ぁぇぅ……」
「……?」
なんと顔を真っ赤にして変な声を出しながら目を見開いていた。
あれ、おかしいぞ?僕の予想では「落ち着いてなんかいられないよ!」って僕の腕を振り払って無理やり僕の部屋に入ってきて僕が「自分はのぞくのか」っていうところまでは確実だと思っていたのだが。結果としてはその斜め上を行った。
「あ、えと、その」
「……」
女性経験なんて微塵もない僕である。その場で固まってしどろもどろするしかなかった。対する鈴村さんもそのままぽかんとしていた。そんな気まずい時間が続き、その空間から解放されようと動いたのは鈴村さんの方だった。
「あ、いや、ご、ごめんね!変な反応しちゃって」
「あ、え、あ……こ、こちらこそ、急にごめん」
僕は慌てて手を離し、一歩分の距離をとった。
「……も、もう寝よっか!おやすみ!」
鈴村さんはそう言うや否や、ものすごい勢いでドアを開けて、これまたものすごい勢いでドアをバーンと閉めた。
「な、なんだったんだ……」
僕は部屋を吟味していたことも忘れてその場でしばらく固まっていた。
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