無限の可能性

 かつて、この国は幾度となく戦乱の時代を経験した。そのたびに、国は荒び、人々は喘ぎ苦しんだ。多くの犠牲を払った先に合ったものは、所詮は一時の安寧だった。

 ある時、この国は戦争により国力は困窮、さらには戦況も、国が落とされる寸前まで追い詰められたことがあった。人々は絶望し、もはや頼れるのは神のみとなってしまった。

 そこで、当時の国王が、最後の手段として、当時は禁術であった転移魔術によって異界からの勇者を呼び出すことにした。そして召喚された数名の勇者と共に、戦乱の世を戦い抜いた。結果は、勇者が来てから、戦況は一転、見る見るうちに、敵軍を押し返した。


「………そして今、かつてないほどの戦いが始まろうとしている。何といっても、相手は、あの魔王軍。こちらの勝機は薄い。そのため、この時点で召喚したのだ」

「「はあ」」


 事情は分かった。まあ前もって予防線を張っておくことはいいことだ。


「で、でも私たちそういう戦いみたいなことしたことないんですけど……」


 それはごもっとも。というか一番の懸念点だ。僕らが仮に武器を持って敵陣に突っ込んでも、待っているのはただの地獄だろう。


「心配する必要はない。そもそもお主たちの基礎能力は、この世界の人間よりはるかに上だ」

「その証拠は?」

「かつて勇者を召喚した時の古文書に記してあったのだが……まぁ実際に体験した方が分かりやすいだろう」


 王が手をパンパンと叩くと、召使いの人たちが、僕たちの前に大きな岩を荷台に乗せて運んできた。その大きさは学校の机くらいの、なかなかの大きさだ。


「試しにその岩に素手で攻撃してみよ。それですべてが分かる」

「「は?」」


 なんという無理難題を。そんなことしたら、手が粉微塵になるのだが。


「いいからやってみなさい」

「「は、はあ……」」


 流石に女子の鈴村さんにさせるわけにもいかないから、僕がやることにしよう。まあけがをしないように、なるべく弱めにしよう。


「鈴村さん、ここは僕がやるよ」

「え、う、うん、気を付けてね」

「分かってる」


 そして僕はその岩の前に立った。できるだけ慎重にいこう。覚悟を決めた僕はその岩に向かって思い切り拳を振り下ろした。すると


 バッコーーン!!


 ものすごい勢いで岩が壊れた。いや破裂した。


「「は?」」

「「「「おお!」」」」


 僕と鈴村さんはあっけにとられ、王とその召使いの人たちは感動の声を漏らしていた。一体、何が起きたんだ?


「青木くん!怪我とかない?」

「う、うん。なんとも」


 実際、痛みすら感じなかった。まるで、段ボールを殴っているような、そんな感じだった。


「どうだ。本当だっただろう?」

「は、はい」

「いや、私も実際にこの目で見るのは初めてだったもので、少し不安だったが、どうやら先人の言い伝えは正しかったようだ」


 たしかに、これなら、勇者が一騎当千の戦力だったと言われても納得せざるを得ない。岩でこれなのだ。これがもし生き物だったら………いや、考えるのはやめよう。ともかく力の証明はできた。だが、まだ一つ懸念点がある。


「基礎能力の話は信じます。ですが、魔族は魔法を使うんですよね?流石に、力だけじゃどうしようもない気がするのですが」

「それについても問題ない。この世界の人間には、それぞれスキルと属性がある」

「スキルと属性ですか?」

「うむ、まずスキルというのは………」


 この世界では、生まれた時からある情報を持っている。それは、スキルと属性だ。スキルは、一人一人に合った魔法の使い方、体の動かし方を自然とできるようになっている。そして、それに適した魔法や能力が勝手に身につくようになっている。

 属性は大きく分けて火、水、風、土、光、闇の6つに分けられる。そして、その属性を掛け合わせることで、また新たな独自の属性を作ることも可能だ。これは、自分の体に宿る属性力の割合によって変わる。その割合が、100%一つの属性の人もいれば、複数ある人もいる。4つ以上あると、かなり珍しい。

 そして、その人のスキルと属性の組み合わせは、その人にしかできない。本当の意味で、同じ人はいないのである。


「……なるほど、とても奥深いですね」

「うむ、このスキルと属性の可能性は青天井に広がっている。それゆえ、学会ではしょっちゅう新しい研究やら論文が発表されている」


 これはすばらしい。どこまで行っても未知の世界が広がっている。研究しても研究しても、さらに新たな課題が出てくるということだ。そんなこと、絶対に楽しいに決まっている。


「それでだ、お主たちのスキルと属性も、古文書によれば、この世界に召喚された時点で付与されている。ということで、お主たちのスキルと属性を確認したいのだが、よろしいか?」

「もちろんです。ものすごく気になります」

「うわ、青木くんの目がかつてないほどにキラキラしてる。あ、私もお願いします」

「よし、では、鑑定士をこちらへ」


 王が召使いにそう指示した。一体僕のスキルと属性は何なのだろうか。

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