聖女

「それでは、準備ができましたので、始めていきますね」


 僕たちの前には、手の型がついた石板だった。大きさはかなりのもので、僕が両手を広げても持てないくらいのものだった。石板の下の方に手の型があり、その上には、文字がぎっしり掘られている。というか、僕が全く知らない言語なのに読める。もっといえば、この世界の人たちとも普通に話せているのが、ずっと疑問だったのだが、考えるだけ野暮だと思うのでやめておくことにした。


「ここに型がありますので、ここに手をあててください。すると、上のスキル名のどれかが光りますので、それがご自身のスキルになります。それでは、七海様からどうぞ」

「はい!」


 まぁ正直、属性の時点で僕も鈴村さんも当たりを引いているので、何を引いても問題ないだろう。そして、鈴村さんが手をあてると、本当に文字が光った。


「まあ!『聖女』じゃないですか!」

「聖女?」

「はい!スキル名が二つ名のスキルは、能力がかなり高いんです!それも『聖女』は、女の子の憧れなんですよ!」

「本当ですか!?やったぁ!青木くん!私なんかすごいらしいよ!」

「はいはい」


 鈴村さんが無邪気にはしゃいでいる。どうやら鈴村さんはまた当たりを引いたらしい。流石は、学校でも人気者の鈴村さん。徳を積んでいる。


「スキルの詳細は後で説明しますね。続いては智信様、こちらへ」

「はい」


 僕は石板の方へ向かった。二つ名のスキルは能力が高いらしいので、ねらい目はそこだろう。まぁそうじゃなくても使えるならいいけど。


「それでは、型に手をあててください」


 僕は言われた通りにした。すると、やはり石板の文字が光った。


「まあ!『賢者』です!おめでとうございます!」

「賢者………」

「わあ!なんかかっこいい!」


 うん、僕にピッタリのスキルだ。頭を使うことなら得意だから、こういうスキルは聞いただけで相性がいいだろうというのが分かる。響きもいい。


「お二人とも、おめでとうございます。まさか二つ名スキルがどちらも出るとは驚きです」

「ありがとうございます!私たち、すごく運がいいね!」

「そうだね。僕もびっくりだよ」


 属性もスキルもかなりいいものがもらえたようで、ひとまずは安心だ。あとは、スキルの内容だ。


「それでは、お二人のスキルについて紹介させていただきます。まず、七海様の『聖女』ですが、基本的には後方支援型のスキルです」

「よかったぁ。そんなに危ない役回りじゃなさそう」

「はい。用例だと、味方の攻撃力や防御力、機動力、魔力などの上昇サポートや、治癒などがあります。ですが、これは、一部スキルでもできることなんです」

「え?それじゃあ、『聖女』って他のスキルでも代用できるってことですか?」


 鈴村さんが、ショックを受けたような顔でハンナさんに訴えた。確かにこのままではせっかくの貴重な二つ名スキルが宝の持ち腐れになってしまう。


「いえ、『聖女』には、先程のサポートすべてに『聖女の加護』というバフが付与されるんです」

「バフ………青木くん、バフって何?」

「追加でもらえるいいことみたいに思っておけばいいよ」

「なるほど」


 まぁバフなんてアニメとかゲームでしか出てこなさそうな言葉だから仕方ないか。


「この『聖女の加護』ですが、かけられた人はしばらくの間、『聖女』が持っている属性を持つことができるんです。さらに、七海様は四属性なので、そのすべてを付与することができます」

「わあ………なんかすごそう」


 なんだそのチートみたいな能力は。鈴村さんがいれば、実質全員四属性の激つよ軍団の完成というじゃないか。


「さらに『聖女』は普通の人よりも、魔力の絶対量がかなり多いので、魔法攻撃も強いんです。さらに四属性ともなれば………想像するだけで興奮します!!」

「「は、はあ………」」


 どうやらハンナさんはかなりの魔法オタクらしい。まあ、だとしたらこの仕事は天職なのかもしれない。


「こういった、攻めにも守りにも支援にも回れる、かなり需要のあるスキルが『聖女』なんです!」

「へぇ、上手く使いこなせるかなぁ………」

「鈴村さんは器用だし、大丈夫だと思うよ」

「え、そう?ありがとう!青木くんに褒められるなんて、これは貴重な体験だね!」


 僕だって普通に人は褒める。そんな天涯孤独の人みたいに思われていたのか僕は。


「次は、智信様の『賢者』についてです」


 ついに僕のスキルの『賢者』の説明だ。聞いた限りでは、そこまで戦闘向けではなさそうだが、一体どんなスキルなのだろうか。


「『賢者』はステータスだけを見ると、魔力が他のスキルより少し高いくらいの、そこまで強いようには見えないスキルです」


 あれ、終わった?って思うかもしれないが、この後にそれを覆すほどのすごい情報があるのが僕にはわかる。


「ですが、『賢者』のすごいところは、その能力にあります」


 ほらきた。


「『賢者』の能力、それは………」


 僕は生唾を飲み込む。この緊張感は、高校受験した時と同じような緊張感だ。そして、ハンナさんの口からその言葉が放たれる。




「『魔法生成』です!」

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