架空の世界に息づく架空の文化をリアルに感じてほしい
- ★★★ Excellent!!!
この物語は架空の民族である「トウム・ウル・ネイ」の文化を描いた短編です。
架空の世界が舞台になっているものの、その文化や言語にはリアリティがあり、まるで地球のどこかで慎ましく暮らしているとある民族の日常を覗き見ているよう。見たことはないし、今後も実際に目にすることはないのだけど、彼らの作る「オール・アキィト」や「ツェッツェ(花)」がまるで本当に見ているかのような実感を伴って私達の前に現れます。
トウム・ウル・ネイの少女である「わたし」は旅人の夫婦を見て自らの結婚に思いを馳せます。夫となる少年は無口でムスッとしていて、そんなよく知らない人と夫婦になるのはどういうことなのかまだ「わたし」はわかっていません。
けれど彼が「わたし」に向けるその眼差しには確かな愛情がありました。
言葉や文化は私達の知っているものとはまるで違いますが、誰かを愛おしく想い、愛する気持ちはどの民族であっても共通のもの。
特にラストの場面は温かい愛に満ちていて、読み進めるに連れて読者も幸せな気持ちになりました。
架空の世界であるにも関わらず、彼らの息遣いや草木の匂いまで感じられるこの世界を、ぜひ多くの人に知ってもらいたいと思います。