第8話 訪問する人たち(1)

「こ、ここがスタバ! 女子高生みたいです!」


「確かかがりは現役女子高生だよね?」


 武命たけるは情報収集の為、かがりと二人で霧島家かがりのいえの付近にまでやってきた。

 前回は篝を武命の家に置いて行った。 その時は篝がねてしまったので、今回は連れてくる事にした。

 今は篝が行ってみたいという喫茶店で休憩中だ。



「篝、スタバ来た事なかったのか」


「ひ、一人で入るのは勇気がいるんです。 ぼっちには、ハードルが高すぎます!」


「そうか。 やっぱり篝って、友達いないんだな」 しみじみと言う。


「む。 ち、違います。 忍者は友達を作ってはいけないのです!一族の掟です! 武命さん、知らなかったでしょう?」


「知らなかった。過酷な掟だな」


「そうなんです。過酷なんです」



「いらっしゃませ。ご注文はお決まりでしょうか?」


「ほ、ホットコーヒーを、ほ、ほっとで!」


 店員さんはニコニコしている。


「サイズはいかがいたしますか?」


「ふ、普通で! お願いします」


「トールでよろしいでしょうか?」


「と、通る? ど、どこへ??」


「トールで、二つください」 武命が二人分のお金を払う。


 コーヒーを受け取って、席に着く。


「はあぁ……。 武命さん、大人です!」 篝の目が輝いている。


「スタバだよ? 篝、ほんとに女子高生? ほんとに忍者?」





「あれ!? カガリちゃん!? カガリちゃんじゃない!?」


 突如、篝に女性の声がかかる。 声がデカい。


 見ると、いかにも「ギャル!」と言う感じのギャルが篝に話かけてくる。友達と一緒のようで、その友達に「ごめん、先に言ってて」なんて話している。友達と別れて、ツカツカと武命達の席に歩いてくる。


 ピンク色の派手な色をした髪は、左右のおさげが肩の辺りまで伸びている。白いニットのミニワンピースに、水色の派手なスニーカーで、脚は太ももが大きく露出している。 ギャルは武命達のテーブルに手をく。



「カガリちゃん! 今までどこにいってたの? 家出ってどう言う事!?」


「あ、あのっ。 そのぅ……」 篝は口をパクパクさせている。


「なんだ、かがり。 友達、いるじゃん」


「んん? カガリちゃん、このヒトだあれ?」


「あ、た、武命たけるさん、て言うの」


「篝、その紹介はどうなの?」


「ふーん、そうなんだ。 たけるん、よろしくね!」


「たけるん!? よ、よろしく」



「しかし、友達はずいぶん篝と印象が違うんだね」


「ん? 私は友達じゃないよ? 私は、カガリンのお姉ちゃん!」


「ああ、お姉さん。 篝とは全然、性格が違うんだね」


 言った後、武命は硬直して遅れて反応する。


「え? えええ!? じゃあ、霧島燈きりしまあかり!?」


「はーい。 霧島きりしまあかりでーす! ぴすぴす。 ……なんでフルネーム?」


(まずい! コーヒーに毒を盛られたかも!?) 武命はカップを確認する。


「……たけるん、何してんの?」


「え!? あ、いや……」 一瞬、言うかどうか迷う。



「燈、俺は香取武命かとりたける。実は『枝打ち』の参加者なんだ』


「え!?」


 燈は流石に驚いたようだ。武命と篝に緊張が走る。


「……それは、カガリンがたけるんに負けちゃったって事?」


 うんうん。と二人が頷く。


「……と、と言うことは……カガリンは今、たけるんの家に一緒に住んでいる?」


 う? うんうん。と二人が頷く。



「やーーーん!!エローい!! やっっば!!」


「ええ!!そこ!?  ち、違う! 誤解だ!」


「カガリンを倒して、霧島家から奪って行ったんでしょ!?」


「ま、まあ。 それはそう」


「そして、家に連れ込んで、カガリちゃんにエロい事を……」


「してない!それは無い!」


「え!? 何も? 何もされてないの?」


 燈が篝を見る。 篝は顔を真っ赤にしている。


「は、はだかにされましたあ……」


「おいテメー! たけるん! 表に出ろやぁ!」



______________________________________



 3人はスタバ近くの公園へとやってきた。篝だけ一人、遠くに座っている。


「たけるんは、カガリちゃんの事どう思ってるの?」


「どうって……。 俺のせいで家から追い出されちゃったから、また家に戻れるようにしてあげたいと思ってるよ」


「もう!それはさっき聞いたよ! たけるんが!今!どう思ってるか聞いてるの!」


「俺と篝が勾玉を6つ集めたら、あの爺さんだって篝の実力を認めるだろ? そしたら篝は胸を張って霧島家に帰れるじゃないか。 俺はそうしてあげたいんだ」


「はあ〜!? じゃあ、カガリンを家に帰すために戦ってるの!?」


「まあ、そう言うことになるのかな?」


「……そう。じゃあ、私が今日、カガリンを連れて帰ってあげる」


「え?」



 燈が何かを投げる。(しまった、手裏剣か!?)武命は反射的に腕でガードする。革ジャンを来ているので、皮膚まで刺さらなければ毒は貰わないだろうと判断した。


実際は違った。鋼線ワイヤーの先におもしをつけた捕縛武器だった。分銅鎖ふんどうくさりとか流星錘りゅうせいすいの現代版と行ったところか。

 ワイヤーすいは武命の両腕に巻きつき、ガードしたままの両腕が離せなくなってしまう。

 燈は素早く踏み込んでくる。 両腕の自由が効かない武命は反射的に前蹴りを放って距離を稼ごうとする。


 当然、読まれているためスレスレで躱され、燈が組み付いてくる。

 武命の奥えりを掴む。燈は片脚で武命の膝裏を、もう片脚で腹部を挟み込み、後方へ押し倒す。「蟹挟かにばさみ」と言う柔道では禁止にされている危険な技だ。


受け身が取れないため衝撃をもろに受ける。倒れた武命の上に燈がまたがっている。 遠くで篝が心配そうにみている。



「カガリちゃんの事、好きじゃないの?」


「お、俺は……」


「いらないなら、カガリちゃんは持って帰っちゃうよ?」


「い、嫌だ……」


「ん?」


「俺には篝が必要だ。 お、俺は……篝のことが、


「ストップ!」 燈が言葉を遮る。


「え?」


 燈が満面の笑みを見せて言った。


「オッケー!! じゃあ、私は友達待たせてるから行くわ! たけるん、カガリンをよろしくね!」

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