たたかいのサーカス〜スパイ武術強化大作戦!

どらぱん

第1話 忍者と武士道

「きりしまー。 霧島ー! …………おい、霧島篝きりしまかがり!!」


 放課後の学校の教室に4人組の男女と、一人の少女がいた。4人のうち制服を着崩した派手な髪の色の女生徒が、篝と呼ばれた女生徒に日誌を突き出して言った。

 かがりは対照的に長い黒髪で前髪が目を隠している、おとなしい印象の生徒だ。


「霧島、悪いけど日誌をうちの担任に渡しに行ってくんねー?」


「え、え。 で、でも……今日は私、日直じゃ無いけど……」


「うっせーよ、霧島。 あの担任おっさん話なげーから、ウチらが遊びに行くのが遅くなっちゃうじゃん」


女生徒は篝に日誌を無理やり押し付けて、連れの3人と教室から出て行く。


「えっ? ええっ? ええええぇっ?」


 篝は仕方なく職員室に日誌を渡しにいった。理不尽だ。

 篝は担任に「なぜ、日直が来ないのだ」と怒られた。理不尽だ。

 しかし、篝はペコペコと謝ってやっと帰路へついた。



 夕日が眩しい帰り道、工事中のビルから男性が出てきて篝の進む道を塞ぐ。不思議に思いながらも篝は男を避けて歩き出すが、やはり男は自分の前に回り込んでくる。


「え?……え? あ、あのぅ……?」


 男は短髪でシングルの革ジャンに、動きやすそうなイージーパンツ姿で20代前半くらいの爽やかな体育会系といった佇まいだ。


 篝は自分の知人かと考えたが知らない男だ。なんと言って良いかわからない。



「君が霧島篝きりしまかがりちゃん?イメージと違うけど合ってるかな?」


「え、え、ええぇ??」


「あれ?違ったかな。『勾玉まがたま』を持ってるのは君で良いんだよね?」


「あ!?」 篝は明らかに動揺している。


「俺は香取武命かとりたける。君も『枝打ち』の一人だよね?」


「は、はわわっ! ひとっ、人違いですっ!」


「いやいや、明らかに狼狽うろたえてんじゃん。ちょっとこっち来なよ」

武命は篝を工事現場内へ引き入れる。


「いやっ、いゃいゃ〜!」 篝は、はわはわ言いながらろくに抵抗できない。




 工事現場内に人はいない。 工事は中止だろうか? 夕日が差し込み中は明るい。


「篝ちゃん、とぼけてるのかな? 公安調査庁のお偉いさんが家に来て、戦闘可能な調査官を育成する新組織を作るとか言ってなかった?

 そのために選ばれた流派にお互い戦いあわせて、勾玉を6つ集めた流派をその指導役に迎えるとか、そんな話してたでしょ?」


「な、なんのことでしょう……? ひ、人違いじゃないですか?」


「はあ……。まさか本当に人違いかな? ……ちょっと試させてもらうよ」


武命は隠し持っていた拳大の石を投げつける!


「きゃー!!」 悲鳴を上げながらも篝は通学カバンで石を受ける。


(防いだ! だったら!!)二人の距離は約3m半。武命は一息に間合いを詰める!


「きゃー!きゃー!」 篝は持っていた通学カバンを武命の顔に投げつける。


「うぉ!」一瞬迷ったが、屈んで避けてさらに加速する。


!?


一瞬視界を奪ったカバンの向こうに、同じく屈んだ篝がパンチを放ってくる!


(しゃがみパンチ!?そんな技あるか!!)嫌な予感がして横に転がって避ける。


 身体を起こして篝を見ると拳に刃物が握られている。棒手裏剣ぼうしゅりけんを握ったままパンチをしたのか。 ギリギリで避けたら危なかったな。


 ハッとして首筋を触る。 出血していた。 殺す気満々じゃないか。

 ……しまった。手裏剣といえば毒薬が塗られているのが普通だ。


「……篝ちゃん、解毒剤って持ってる?」


「も、もちろん……です。 も、もう戦うのやめますか? 本当に人違いなんです」


「いや。持ってるならそれで良い。 が……仕方ない。君を倒して解毒剤と勾玉の二つとも頂くとするよ」


 ピタリと篝の震えが止まる。髪で目が見えないが雰囲気が変わるのを感じる。


 篝が当たり前のような動きでスカートの中に手を入れる。


 (??行動が読めない??)


 篝は躊躇ちゅうちょなくパンツを下ろしてスカートの中が見えないように足を抜く。


 (!?何をしているんだ!?)

 急に篝のスカートがそのキャラに似合わないくらい短い事が気になってくる。


 篝は脱いだパンツを目の前でくるくると回してスカートのポケットにしまう。


「な、なんのつもりだ!? なんの意味があって……??」


 武命は動揺している。対して篝は余裕の表情になっている。目は髪で隠れて良く分からないが、口元には微笑が見える。

 武命はその行動の真意を見抜くために観察を試みるがその短いスカートひらひらが気になってしまう。

 (なんだ?俺はそんな助平すけべだったか? 命がかかっているというのに、こんな策に惑わされて!)


 うろたえる武命に篝が語りかける。


一眼二足三胆四力いちがんにそくさんたんしりきって知ってますか?」


「え?ああ当然。……って、眼を狂わせたのか」 小癪こしゃくな。と呻く。


 簡単に言って、眼の働きは1番目に重要だという事。

 篝は前髪で目の働きは読めない。そして武命が篝を「女扱いしている」事を言葉から読み取り、短くしてあったスカートに意識を向けさせるためにパンツを脱ぐという奇行にでた。


 もちろん見ないようにすれば見ないこともできるが、そのこと自体が眼の働きを狂わせることに成功していると言える。一度気になって仕舞えば感覚は狂ったままだ。


 「小癪だが、面白いじゃねーか」


 篝は回り込むように動いている。武命は間合いを測ろうと動き出して、足に違和感を感じる。 見れば武命の太ももに棒手裏剣が刺さっている!遅れて痛みを感じる。 回り込む動きの中、夕日と暗がりを利用して手裏剣を投げていたのだ。

 目付めつけを狂わされている上に「手裏剣を投げる」という慣れないアクションの予備動作が読めない。手裏剣を抜いて捨てる。


 「うまいな! だが、勝つのは俺だよ!」


 武命は篝が捨てた通学カバンを拾って首を守りながら一気に距離を詰める。篝は棒手裏剣を握り直して接近戦に備える。

 武命は通学カバンを篝に投げつける。篝は最小限の動きで躱し、次に来るであろう武器奪取技くみつきに対するカウンターを狙う。


 しかし、武命は低空タックルに入ってきた。


「えっ!? なんで!??」


 お互いの実力を考えれば自殺行為だった。棒手裏剣といえど、頸動脈けいどうみゃくを刈られれば致命傷だし、脇腹や背中でも大ダメージだ。

 だが、関節技かんせつわざを警戒していた篝にそのチャンスはなかった。まさかそんな捨て身技にくるとは思ってもいなかった。 わざわざ視線誘導した下半身は警戒して攻めて来ないだろうと思ってもいた。


 篝は慌てて、腋窩動脈わきのしたか肋骨の隙間から肺への攻撃を試みた。


 しかし、もう遅い。武命はその腕を掴み、股の下をもう片方の腕で掴んで担ぎ上げる!

 柔道でいう肩車、レスリングなら飛行機投げだが、背中から落とすのが目的ではない。わざと高く持ち上げて右肩から落ちるように床に叩きつける!


 ダァン!! わざと受け身が取れないようにしてやった。

まあ、篝は手練れだ。死にやしないだろう。



「どうだ篝!これが我が家の家訓。『武士道というは、死ぬことと見つけたり』ってやつだ!」

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