第3話 地元の有力者

 場所が変わって、とある地方都市の繁華街。酒に酔った男たちが揉め事を起こしている。地元の青年達と、都会から来た不良達が喧嘩になったようだ。


「おまえらか、最近うちの地元で好き勝手やってるのは!」


「おお! 田舎者ども! これからは俺らがここらを仕切らせてもらうから!よろしくなあっ!」


 いかにもストリート系といった格好の不良達は5人。地元の青年達は3人、その連れの女の子が2人。不良達が女の子に絡んで青年達ともめたのが始まりらしい。

 飲み屋の軒先、道路の真ん中で騒ぎになっている。


「勝手に仕切るんじゃねえよ!」 青年の一人が殴り掛かり、そのまま他のメンバー達も取っ組み合いになる。


 人数で不利な上に、不良達はかなり喧嘩慣れしている。不良達のあまった二人は女の子達に抱き着いたりしてやりたい放題だ。


 パッパーッ!!

 

 車のクラクションが鳴る。 黒塗りの高級車が道を開けろと主張する。


「うるせえー! ここは通行止めだよ! 通りたきゃ金を払え!」

うひゃはははは!!と不良達は一斉に笑っている。


 ガチャリ。 車の後部ドアが開いて、全身黒ずくめの男が下りてくる。

男は黒ずくめのスーツ姿にネクタイだけが血のように真っ赤だ。金髪の肩まで伸びたロングヘアーが鮮やかに目立つ。木製の棒を肩に抱えている。


「あいつは……タツトラだ! タツトラが来た!!」

青年たちが恐れるような安堵したような複雑な表情になる。




「よーう、お前ら。なんか楽しそうな事やってんじゃねえか?俺も混ぜてくれよ?」


「なんだ、お前? 通行料払いに来たのか? それとも、こいつらの仲間か?」

不良達のリーダーがタツトラに詰め寄っていく。


「いいや? こいつらの事は知らない。 金も払わない」


「じゃあ何しに来たんだよ!? 絡んでくるんじゃねえよ!」


「この土地の男は皆、俺の子分だ。子分がいじめられてたら親分が出てくるんだよ」

知らなかった? とタツトラが笑う。


「だったら、おまえも一緒に相手してやるよ!!」



 不良の男は体重を乗せたパンチを放つ。タツトラは棒を盾にしつつサイドステップでかわして左掌底ひだりしょうていで反撃する。

 男は顎を引いて打撃に備えている。脳震盪のうしんとう対策になる。


 だが、タツトラの掌底は男の「耳」にヒットした。


 パンッ! という音がして、男は不思議そうな顔をする。 その直後、顔が痛みにゆがむ。


「あ!? いってぇ!」

 空気が耳の穴に急激に入り、鼓膜こまくが破られていた。強い痛みと同時に殴られた側の音が聞こえない。平衡感覚も怪しい。男は混乱しながらも闘争心に従い、さらにタツトラに殴り掛かる。


 しかし、はたから見たらフラフラだ。タツトラは余裕でバックステップで躱し、棒をバットのように持って男の側頭部に叩き込む。 男は手で防ごうと思ったようだが流石に無理だった。

 脛、肩と続けざま、棒で男をぶっ叩いていく。


 一方的な展開に、女の子に絡んでいた不良二人が助太刀すけだちに来る。 一人がタツトラに飛び蹴りを放つ。


「飛ぶとか、馬鹿なのか?」 タツトラは最小限の動きで躱し、着地の足に足払いをかける。受け身も取れずに背中から落ちる。


 後続の男が殴り掛かってくる。その男に対して棒による突きを放つ。男はすれすれで躱し、棒を両手でつかむ。力が強い。

 タツトラは素早く棒から手を離して裏拳を男の眉間に打ち込む。男は棒に執着していたせいで、ノーガードだった。

 続けて奥襟おくえりをとって小外掛こそとがけの要領で背中から地面にたたきつける。男が棒から手を離したので返してもらう。


 青年達と取っ組み合いしていた不良達も状況の変化に気が付いたようだ。見るとタツトラは倒れた三人を棒を使って器用に追い打ちをかけている。

 自分たちは気が付けば二人で青年3人と取っ組み合いになっている。不良の一人が根を上げて言う。


「ま、まて! わかった! 俺たちが悪かった! あんたら、あのヤクザの仲間だったのか。 俺たちは知らなかったんだ! 謝るから今日は見逃してくれ!」


「ヤクザぁ?」 タツトラがこっちを見る。 目がわっている。


「俺はヤクザじゃねえ! この土地の地主で、道場主だ!」


 タツトラが棒で、上段からの袈裟切けさぎりを叩き込む。


 ボグッ! 独特な音が鳴る。 鎖骨が折れたのか男の腕がだらりとおちる。さらに追い打ちをかけようとする。


「兄貴! 流石にやりすぎですよ!」

 車から出てきたスーツの青年がタツトラを止める。


「ああ。 悪い。 つい楽しくなっちまった。」


 タツトラは一番ダメージの少ない不良の男ののどに棒を押し付けて言う。


「お前ら、この土地で好き勝手やったら次はこんなに優しくないよ? 理解できたら今夜はおとなしくお帰り。 お家に帰る前にちゃんと特産品おみやげも買って帰れよ?」


「わ、わかった。 理解した。 だから……」


「おう! 理解できたら帰れ帰れ!」


不良達は手早く去っていった。



「タツトラさん! 助かりました。ありがとうございました!」

 青年が車へ戻るタツトラに話しかけてきた。


「お? 俺の事知っててくれてんのか。そっちのお姉さんたちも俺の事知ってる?」


「え?……ええ。 はい」 嘘だ。これは知らない反応だ。


「いいって、いいって。 俺は鞍馬龍虎くらまたつとら。 また何かあったら俺を呼んでくれ!」


「兄貴……」 スーツの青年が頭を抱えながら龍虎に声をかける。


「あ、そうだったな! 悪い、俺は今から地元を出るんだ! また地元で何かあったら、その時は俺の親父に相談しな。助けになるぜ」


「ええ!? あの鞍馬一家に? さすがに恐れ多いですよ」


「だから、うちはヤクザじゃねえってんだよ! まったく、どいつもこいつも」


 龍虎とスーツの青年は車に乗り込む。


「まあ、達者でな!」 車が走り出す。


「タツトラが地元ここを離れるなんて……。 一体、何があるんだろう?」

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