第10話 襲撃(1)

 武命たけるが家を空けている、とある日の夜。 武命の妹、寝巻き姿の香取理依奈かとりりいなは居間でくつろいでいた。 ガラガラッ。 玄関の扉が開く音がする。 


「お母さん?午後の稽古終わったの?」母親が帰ってきたのかと思い、声をかける。


 しかし、入ってきたのは二人のチンピラだった。


「おお!若い女発見!」 「よっしゃ!連れて行くぞ!」


 リイナは異常を察知して自分の部屋まで走って逃げる。男達は土足のまま追いかけてくる。

リイナの部屋に閉じ籠り、携帯電話を武命にかける。男達がドアを蹴破ろうとしている。


「バカ兄貴!早く出て! どうしてこんな時に限って繋がんないの!?」


 今にもドアが破られそうだ。電話をかけながら窓から脱出を試みる。裸足だが仕方ない。急いで窓を開ける。

 外に出ようとして窓に足をかける。しかし、窓の外にも男が待ち構えていた。




 香取流の道場。武命の母は武器を持った10人の男達に囲まれていた。

 そこへ拘束されたリイナが連れて来られる。


「リーナ! あんたら!娘に触るんじゃない!」


「それはお前の息子次第だな。武命はいつ帰ってくるんだ?どこかに隠れてるんじゃ無いか?」


「さあね? 武命は今日、帰って来ないかもしれないよ? あんたらも今日は帰ったらどうだい?」


「そんときゃ、お前の娘をさらっていく。武命が来るまで俺たちで楽しませてもらう」


「か、母さん……」 リイナはガタガタ震えている。


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 道場の天井裏、かがりは聞き耳を立てていた。

 外の異変をいち早く察知した篝は、リイナをおとりに逃げ出した。……訳ではなく、反撃のチャンスを伺って天井裏に潜んでいた。


「ど、どうしよう。リーナちゃんが乱暴されちゃう。 て、敵の数は? 十? 十一? 十二?」


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「あ、アニキ。 待ってんのも退屈っすよぉ。 この女、輪姦まわしてもいいっスかぁ?」


「ひいっ!」 リイナが怯える。


「待て。 壊しちまったら人質としての価値が下がるだろ? おあずけだ」


「母親だけでも十分じゃないっスかあ〜?」



「うーん」 チンピラの頭目とうもくは仲間の士気と、人質リイナの価値を天秤にかけた。


「そうだな、このガキは壊しちまっていいぞ。 良い見せしめになるな」


「「いえーい!!」」 男達がリイナの寝巻きを脱がしにかかる。


「やっ! やめてぇ!!」 リイナが抵抗するがなす術もない。



 男達がリイナに襲いかかった瞬間、集団に消化器の消火剤が吹きかけられる!

 篝が道場に侵入し、備え付けの消化器を吹きかけている。さらに集団に向けて消化器を投げつける。


「リーナ!逃げるよ!」

 リイナと母親はそのタイミングで道場の外へ駆け出した。篝がその先に出る。


「二人とも、ついてきて下さい! 私が逃げ道を作ります!」



 だが、道場の外にも敵が3人、待ち伏せていた。


「十三? 十四? 十五!? 15人!!」


 一家族ひとかぞくを襲撃するには多すぎる人数、チンピラ達にとっては娯楽でもあるのだ。


「ヒーハー! 女が増えたぜぇ!!」 先頭の男が掴みかかってくる。


 篝は先制攻撃で前蹴りを当てるが重さが足りない。男は怯まず篝の服に掴みかかる!


「!?いてててててて!!」


 かがりに組みついた男が痛みを訴え、地面に伏せる。篝は男の背中に棒手裏剣ぼうしゅりけんを突き刺している。背中に刺さる刃から逃れるために、男は自ら床へと潰れていく。

 見ると男は腕からも出血している。一瞬で腕を斬り、背中を突き刺したのだ。


 次は二人同時に篝に襲いかかる。一人に手裏剣を投げ、太ももに刺さる。一人は怯み、時間ができる。 前衛の男の腕に、隠し持っていた短刀で切り付ける!

 男の腕から大量の血がボタボタと流れ出る。男達は篝の武器を見てギョッとする。約30cmの刀身とうしん。どう見ても銃刀法を違反した刃物だ。

 男は自らの出血を見て血の気が引いていく。


(敵が怯んだ!ここを突破できれば二人を逃すことができる!)


 篝が希望を見出したと同時に、後ろから悲鳴が聞こえる。

 振り返るとリイナが道場から追ってきた男達に捕まっている。


「よーし、ナイフ女。 武器を捨ててこっちに来い。 お前も可愛がってやる」




 篝は歩いて道場の中へ戻り、短刀を鞘に納めて床に置く。


「おい、ナイフ女。抵抗したらこのガキの顔を切り刻むぞ」 敵の頭目とうもくはナイフをリイナの顔に押し付ける。


「わかった。私の事は好きにするといいよ。 だから、女の子には手を出さないで」


「ヒャッハー!!」 男達はかがりの服を引き剥がしにかかる。篝は男達に揉みくちゃにされる。


「あ!? ってえ!」

 男の一人が手から血を流して篝から離れる。


「おい! 抵抗する気か!? このガキがどーなっても良いのか!?」


「……私は何もしてないよ」


 見ると、篝の服のそでえりに刃が仕込まれている。柔術対策に、つかんだ指が切れるように細工されているのだ。今や篝の服は返り血だらけだ。


「ちっ。 おい、ナイフ女。 自分で服を脱げ。 ここでストリップしろ」


「…………」 


 頭目がリイナにナイフを突きつけると、篝が服を脱ぎ始める。脱いだ服を床に置くと「ガチャリ」という異質な音がする。


 篝は完全な下着姿になる。キャラに合わずスタイルが良い。男達が騒ぎ立てる。

 流石にもう武器はないだろうと男の一人が飛びかかる。篝は簡単に押し倒されるが、膝でガードポジションをとる。 男の自由にはさせない。

 だが、他の男に腕を押さえられ下着も剥ぎ取られようとしている。


「篝ちゃん! やめて! 誰か助けて!」



 ガラガラガラッ。 突如、道場の扉が開き、黒ずくめの男達が入ってくる。

 黒いスーツにネクタイだけが真っ赤な金髪の男と、スーツ姿の男女、若奥様みたいな女性もついてきた。 タツトラ達とアリスだ。 見た目からして変な集団だった。

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