第9話 訪問する人たち(2)

 夜になり、霧島家の玄関前。リュックを背負った中年男性が立っていた。帰宅してきた霧島燈きりしまあかりが男性に声をかける。


「こんばんはー。 おじさん、うちに何か用?」


「こんばんは。 ああ、霧島さんのお家の方ですか?」


「うん。 うちのじいじのお客さんかな? 多分道場にいるから、案内したげるー」


「ああ、助かります。 もう皆さん、お休みになられたのかと思っていました」




 プレハブ小屋のような道場に案内する。中にはあかりの祖父と稽古中の男性が4人ほど居た。


じいじー。 お客さんだよー」 ガラガラと扉を開ける。


「こんばんは。 夜分すみません」


「……あかり、夜の道場に部外者を入れるなと言ったじゃろうが」


「えー、爺じが呼んだんじゃないのお?」



「すみません、本当に。 私は宮城航平みやぎこうへい、『枝打ち』の一人です。 先日襲撃を受けた際にこの手裏剣を拾ったものでして、返しに参りました」


「!?」 燈は来客が襲撃者であった事に気づく。



 躊躇ちゅうちょなく、燈は航平の持つ手裏剣を奪いに行く。燈が手を出した瞬間、航平が先に燈の手を抑える。 手が、へばりつくようにして離れない。

 燈は空いている手で反撃を試みる! だが、航平が先に手首を捻り、肘まで関節がまってしまう。 肩は動かせるはずなのに、人が乗っているかの様に重い! 床に押し潰されてしまう。


「ちょっ! おっもっ!」


 床にうつ伏せにされた燈の上にまたがり、反対の腕も取る。 両腕をひもで後ろ手に縛る。とてつもない早業はやわざだ。

 燈は足をバタバタさせるが、ただ滑稽なだけで抵抗にならなかった。


 航平は立ち上がり、道場を見回す。


「女の子に酷い事はしません。さあ、霧島流の代表者は誰ですか?」


 今やられたのが代表の燈だが、航平は何も知らないようだ。燈は航平の股の下で、恥ずかしそうに頬を膨らませている。



「貴様が知る必要は無い! ここで死ね!」 男達が一斉に襲いかかる。


 男の手には稽古用の短刀が握られている。金属製だが、刃引はびきされて斬れない様にしてある。 しかし、航平にはそんなことは分からない。

 航平はリュックのサイドポケットから双節棍ヌンチャクを取り出す。二本の棒を鎖で繋いだもので持ち運びやすく、暗器あんき(隠し武器)として使われる。


 一人目の男は短刀を腰にえて近づき、間合いに入った瞬間に突き刺してくる。刃引きしていても、突きなら刺さるだろうと判断した。

 しかし、ヌンチャクの一撃が手首にあたり、短刀は吹き飛んでいく。手首の骨が折れている。


 後続の男達は本物の短刀と手裏剣を持ち出してきて、航平に手裏剣を投げる。航平は難なく全て避けきる。

 二人の男が同時に短刀をりながら間合いを詰めてくる。

 航平は道場をすべるように歩いて間合いをはかる。一人の男の手をヌンチャクで撫で斬る。 打つと言うより、斬る様な動きだ。 短刀が宙を舞い、手の平の骨が折れる。


 同時にもう一人が短刀で斬り掛かる!しかし、ヌンチャクが戻る動きで男の手の甲を切る。やはり短刀が吹き飛ぶ。さらに航平は二人の顔面にヌンチャクを打ち込む!


 最後の男が手裏剣を投げながら、航平の足首に飛びつく。手裏剣を避ける航平の着地した足に手を伸ばすが、その手を踏まれ、顔に蹴りをもらい床に押し潰されてしまう。



「さて。 御老人ごろうじん、あなたが霧島流の代表者ですか?」


「…………待て。 貴様、勾玉まがたまが目的ではないな?」


「はい、その通りです。私は強さの証明の為だけに勾玉を集めています。むしろ政府のお仕事に興味はありません」


「ふむ。 ならば、わしらの負けじゃ。霧島うちの代表は最初にやられたそこのあかりじゃ」


 航平は後ろを振り向く。 後ろ手に拘束された燈が不貞腐ふてくされて立っている。


「…………。 それで? それだけではなさそうですね?」


「話が早いのう。そこで交渉じゃ。 貴様は強いが情報収集能力が低い。わしらの持つ全ての情報を貴様にやる代わりに、勾玉は全てわしによこせ」



「ちょっと! じいじ! そんなの……」


「いいですよ」


「いーのかよ!?」


「はい。私は権力に興味はありません。相手が強ければそれで良い」


「このおっさんマジ!? ヤバイって! 戦闘狂バトルマニアじゃん!」


「よしよし。 ならば貴様に燈をやる。 好きに使うが良い」


「はあ!?ちょっと!!」 燈が抗議の声を上げる。


「好きに使えと言われましても……。 あかりさん、あなたは良いのですか?」


「良くねーし!? じいじ! マジふざけんな!」


あかり、お前は今負けたじゃろう? この意味、わかっておるよな?」



「…………くっ。 わ、わかったよ」


 航平が手裏剣で、燈の手首を拘束している紐を切る。


「不服かもしれませんが、燈さん。これからよろしくお願いします」

 航平は握手を求める。


「…………よろしく」


 燈は睨みつけながらも、航平の手を取った。

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