第13話 戦いのサーカス(2)

※この話には危険な行為があります。決して再現しませんように、お願い致します。

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 武命たけるの元へ向かった霧島篝きりしまかがりに、姉のあかりが立ちふさがる。


「カガリン! あのおっさん、マジヤバだからカガリンは行っちゃダメだよ!」


「お、お姉ちゃん……。 どいてください! 私は武命さんを助けます!」


 かがりが短刀と棒手裏剣を手に持って構える。

 対してあかりはカランビットナイフを構える。 カランビットナイフは農具発祥のナイフで、現在は軍隊格闘技などで使われている。


「カガリン、まだそんな古い武器使ってるの? 武術だって進化しているんだよ?」


「お、お姉ちゃん、ごめんなさい!!」


 かがりは棒手裏剣を投げつける! あかりはまるでキャッチボールのように手裏剣を受け取る。 棒手裏剣は回転しながら飛んで対象に刺さる。 逆に言えば、回転を見切る事ができれば受け取る事ができる。 とはいえ、とんでもない達人技だ。


「手裏剣ありがとう、カガリン! これはお返しね」


 燈がワイヤーすいを放つ。篝が反射的に短刀でワイヤーを斬ろうとするが、鋼線のワイヤーは切れずに篝の短刀に巻きつき、燈に奪われてしまう。


霧島家おうちに帰ろう? カガリンに実戦はまだ早かったんだよ。 私が勾玉を集めて、じいじにお願いしてあげるからさ?」


「わ、私は武命さんのところへ行きます! お姉ちゃんはどいて下さい!」


「……そんなに、たけるんが好きなの? だったらさ、戦いが終わったら会いに行けばいいじゃん」 (その時は病室の中かもしれないけど)


「…………もらったんです」


「え?」


「武命さんに教えてもらったんです。何かを手に入れる為には覚悟が必要だって!」



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 航平こうへいは肘関節を極められながらも、腕にぶら下がるアビーを地面に叩きつける!

 しかし、それはアビーの予想通りだった。自分より体格のいい人間に飛びつき技を仕掛けるのだから、床や壁に叩きつけられる事は分かっていた。


 アビーは腕は使えないものの、腹筋を使い体を丸め受け身を試みる。

 ドンッ!! 背中を芝生に叩きつけられるが、関節技は外れない!


「勝った!!」 アビーが勝利を確信した。 ……その瞬間だった。


 航平の親指による一本貫手いっぽんぬきてがアビーの喉に突き刺さった。他の指がアビーの首を鷲掴みにする。


 地面に叩きつける瞬間、受け身をとったアビーの頭は航平の手に近づくことになった。

 その瞬間、鍛えられた航平の親指はアビーの喉の奥、輪状軟骨りんじょうなんこつを突き刺した。

 輪状軟骨りんじょうなんこつは気管を取り巻く軟骨である。損傷すると呼吸ができなくなり、窒息および脳死の可能性まである。


 アビーは命の危険を感じ、技を解いて航平の腕を掴み抵抗する。

 しかし、航平の手は離れない。それどころか両手でアビーの首を絞め始める。


「手を離しなさい!」 アリスが航平に杖を突きつける。


 ゴキッ! 交渉の余地がある事を期待していたアリスは、冷淡に拒絶される。

 アビーの喉の軟骨が脱臼する音が鳴る。アリスには聞こえなかったが、アビーの様子でそれが分かる。


「ガアッ! がはっ!!」


 アビーは地面に落とされると、口をパクパクとさせている。しかしろくに息が出来ていないのが素人目にも分かる。



「…………」 アリスは怒れば怒るほど冷静になる。冷静に、杖による突きを航平の腹に打ち込む!


 航平は当たり前のように突きを捌き、両手で杖を掴む。アリスが合気あいきじゅつを用いると、杖の質量が全く無くなった様な感覚になる。

 しかし、航平の掴みも全く力みが無い。 水滴すいてきが杖をめるように、アリスへ向かって航平の手が滑ってくる。

 打撃が来ることを予見したアリスは杖に回転を加えて、杖を握る航平の手を捻り落とそうとする。

 その瞬間、航平はアリスが回転させた杖をさらに回転させる。「合気」という文字の如く、タイミングが完璧に合う。 全くの脱力状態からの化勁かけい勝負は航平に旗が上がる。


 アリスの手は一瞬で捻られ、肘関節が伸び、肩まで固まってしまう。棒のように固まってしまった腕に、航平は体当たりを入れる!


 ゴキリッ! アビーが聞いた音より大きい音を、アリスは聞く事になった。

 アリスの肩は外れ、肩と肘の靭帯じんたいが同時に切れた。普通はこんな簡単に人の体は壊れたりしない。 嫌な話だが、達人のなせる技だ。


(このひと! 人間を壊し慣れている!!)

 アリスはこれ以上戦うのは無謀むぼうと察し、アビーをどうやって病院へ運ぶか計算を始める。とにかく逃げなければならない。

 航平は腕が上がらなくなったアリスにとどめを刺す為に首へと手を伸ばす!


「死ねやおっさん!! ドォラアァ!!」 タツトラがその手に棒を打ち込む!


 航平は手を引き、あっさり避ける。杖は弾き飛ばされる。


「大丈夫か、アリス!?」 「大丈夫じゃないけど、助かったよ! ありがとう」


 アリスはアビーの元へ駆け寄る。 タツトラは航平を威嚇する。



「君が、鞍馬龍虎くらまたつとら君ですね。 正直、君が一番弱いですよね?」


「んンだと!? テメエ!!」 タツトラが棒で正面から打ち込む!


バチィッ!! 棒は航平のヌンチャクを「つないでいる鎖」に止められていた。


「んなっ!?」 タツトラは見るからに動揺している。


「ほら、太刀筋たちすじに感情が乗りすぎている」 航平は棒を鎖で滑らせながら、間合いを詰める。


 航平はタツトラの棒を両手で掴む。ズシリと重さがタツトラに伝わる。


「タツトラ君、この棒は『仕込しこづえ』でしょう? 残念ながら隠せていませんよ?」


「!?」 タツトラが驚く。実際にタツトラの「棒」は内部にかたなやいばを仕込んだ「仕込み杖」であった。 見抜かれていることに肝を冷やす。


「残念ですが、君はここで退場です」

 航平がタツトラの両手を握る。 手首の急所を攻められて、関節が悲鳴をあげる。



「へっ! 残念なのはテメーだよ。 ……心機発勝しんきはっしょう!」 タツトラは笑っている。


 水平に押さえ込まれた腕ごと、仕込み杖を航平に押し付ける。 同時に、鞘から刃を抜く!

 航平が抑えている筈なのに、まるで抵抗なく、当たり前のように刃が抜かれる。 そして抜く動作そのものが攻撃でもある。 一の動作で全てが完成する。

 タツトラの一番の得意技は「抜刀術ばっとうじゅつ」だったのだ。


 ズバァッ!! 一瞬で本物の刃が航平の体表を走る!

 タツトラは自分が遂に、人を斬り殺してしまった感傷にふけっていた。 流石に無罪はありえない、だが後悔は無い。 今回の旅で自分を含め、人死が出る事は覚悟してきた。




「素晴らしい!」 航平が歓喜の声を上げる。


「何っ!?」 タツトラは急に現実に戻される。慌てて、抜いた刃で斬ろうとする。


 瞬時に航平はタツトラの手首に手刀を打ち込む! 打った手が滑らかにタツトラの関節を極め、仕込み杖を奪い取り地面に突き刺す。


「な、なんで!?」 タツトラが見ると、航平のブルゾンとシャツはスッパリ斬れていた。 しかし、インナーのシャツは斬れていない。


防刃繊維ぼうじんせんいで作られたインナーです。現代の技術はここまで進化しているらしいですよ。これが無かったら僕の内臓は、この地面にこぼれ落ちていたでしょう。 いや、素晴らしい」


「ば、バカな!? 無傷なのか?」 タツトラはさやを落とす。


「打撃力はなかったはずですが、肋骨が1、2本折れたみたいです。 タツトラ君は僕の予想以上の勁力ちからでした。 僕の擒拿チンナ術を抜刀術で破るとは」


 プレゼントでも貰ったかのように嬉しそうな航平の腕が、タツトラの首へ伸びる。


「でも、これで本当に退場ですね」

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