第7話 タツトラと合気柔術(2)



 アリスは杖を持って、左前半身になる。タツトラは剣のように棒を持っている。

 タツトラの棒の長さは木刀くらい、アリスの杖はもっと長い。普通に棒を振ったらアリスの杖の方が先に届いてしまう。


 タツトラは回り込みながら踏み込んで、アリスの手首を狙って打とうとする。アリスはそのタツトラの打ち込む「起こり」を杖で跳ね上げて、タツトラの手首を打つ。


 パッ!パァン! 跳ね上げる打ち込みと、小手打ちの音が連続で響く。


「いってえ!」


 アリスは踏み込んでいなかった為、打撲で済んだが肉の薄いところを打たれたら手首が折れていたかもしれない。


 力では勝ってるはず。タツトラはアリスの杖を棒で払い、続けて手首を狙う。


 カァン!! 棒で杖を払うとアリスは手の内を変え、回り込むような体捌きをする。タツトラの小手打ちを躱しながらアリスが小手打ちを返す。


 タツトラは棒で防ぐがアリスは突きで追撃してくる。タツトラは相打ち覚悟でアリスの手首を狙うが、先にアリスの突きが胸に刺さり、棒はそらされてしまう。


「くっそ!ちまちまと痛え!」 一の動作に一の反撃が来る。射程距離を完全に制圧されている。致命傷は受けてないが、大技を狙ったら大技で返されそうだ。



「アビー!!これ持っててくれ!」 


 タツトラが仲間の女性に棒を投げて渡す。アビーは器用に空中で受け取る。


「あらあら。 武器を捨ててしまって良いの?」


「強い力で攻めると、強い力が返って来る感じなんでな。ここからは、柔らかく行かせてもらうぜ!」


「ふーん」 アリスはニマニマ笑っている。



 しかし、素手で武器を相手するのは難しい。タツトラはじわじわと近づいていく。間合いに入った瞬間、アリスは胸の高さに上げた杖で突いて来る。


 「ここだ!」 最小限の動きで躱し、杖を両手で抑える!腕力勝負なら負けない!


 杖をつかんだ瞬間、杖の質量が一瞬で消滅したような感覚になる。自分の押さえ込もうとする力が空回りして、前方に転びそうになる。

 転ぶまいと足で踏ん張った瞬間、杖が急激に回転する!杖を強く握っていたせいで、タツトラは前方にすっ転ぶ。


「あっはっは!」側から見るとタツトラが勝手に転んだように見え、アビーが笑う。



 タツトラが起き上がると目の前に杖の先端が迫っている。身の危険を感じ、杖に掴み掛かる。

 掴もうとすると杖は動く。追って杖を掴むと、今度は急に杖が重くなる。かかとに重心がかかり、尻餅をつきそうになる。体制を整えようと足を上げる瞬間、また杖が急回転する。

 今度は足を滑らせて後ろに転んだように見える。



「あっはっは! ヘイ、ボス! それは何かのジョークかい?」アビーがツボる。


いてえ……。 マジかよ……。 こんなの武術じゃない。 手品だ……」


「あら。 それ良いわね、今度から風間流手品道場にしましょうか!」


「ざけんな!」 まっすぐアリスへ向かって走る。


 アリスは振り子の要領で突きを放つ。タツトラは腕で突きを受け流しながら躱し、アリスに掴み掛かる。

 アリスは杖で防御する。タツトラは杖を両手で掴む。アリスが杖を180度回転させると、タツトラは両手首の関節を極められてしまう!


「いてててててててて!!」 冗談みたいに痛がる。


 手を離せば良いものを、杖への執着のせいでまた派手にすっ転ぶ。


「ボス! もしかして風間流に弟子入りしてたの? アハハハハッ!」




「ちっ、悔しいが力任せじゃダメそうだ……冷静になれ。 心機しんき応じて発勝はっしょうする!」


 深く深呼吸する。アリスは待ってくれている。



 タツトラは当たり前のように、アリスに向かって歩いて近づいて行く。


「??」 アリスはタツトラの「起こり」が見えない。


 間合いに入り、アリスが突きを放つ。タツトラは腕で払いながら躱し、更に歩く。


 アリスは下がりながら持ち手を変え、遠心力を得た横面打よこめんうちを放つ。

 タツトラは低いウェービングの要領で躱し、起き上がりながら更に踏み込み裏拳を放つ!


 アリスは杖で裏拳を受ける。


 バキッ!!  杖はアリスの手を離れて吹き飛んでいった。



「どうだ! さあ、こっからは徒手空拳ステゴロだ!」


「まいった!」



「……はあ?」


「まいった。 私の負け〜。 殴り合いなんてしたくないもの〜」


 はい! と、滑石かっせき勾玉まがたまを大事そうに手渡しする。


「ちょっと待てよ! こんなの納得できるか!」


「でも、私スパイとか興味ないし〜……」



 アリスはタツトラの頭をなでなでしながら言った。


「私、君のことが気に入っちゃったし!」


「あ!? ああぁぁ!?」


ヒューッ! アビーが口笛を吹き。同僚の青年はため息をついた。

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