エピローグ

 枝打ちから一年後の年末。香取家の道場にシートが敷かれ、宴の準備をしている。タツトラの弟分、太助たすけがエプロンをしてやってくる。


「アビー。 おい、アビゲイル! お前も料理手伝えよ。 なんで、俺とおばさんだけ料理してるんだ?」


「えー、面倒くさい……じゃなくて、リーナちゃんとファッションの勉強してるのよ。決して遊んでる訳じゃないわ!」

 ラフなファッションのアビーは、海外のファッション誌をリイナと見ている。


「タスケさん。 アビーちゃん取っちゃって、ごめんなさい」

 ジャージ姿のリイナが太助を見つめる。


「う。 い、いや、料理は嫌いじゃないから平気だよ」太助は愛想笑いで誤魔化す。



「こんちゃー。 食材買ってきたよー。 私を褒めたたえろー」

 相変わらず、見た目が完全にギャルの霧島燈きりしまあかりが荷物をいっぱい持ってくる。


「あ、あかりさん! こんちゃー!」 リイナが駆け寄って、荷物を受け取る。


「おー。リーナ、ありがとう! リーナにお土産持ってきたよー! ほい、これ」


「うわー、ありがとう!」 プレゼントを受け取って、リイナは自室へ行った。


「燈さん、リーナの面倒見てくれてありがとう」 武命たけるが出迎える。


「燈、だってー! 水臭いな! 燈でいいよ! たけるん、年上だろー!」

 武命の肩に手を回して抱き寄せる。 なれなれしいオッサンみたいだ。



 リイナが居なくなって、アビーが暇になる。 太助と目があう。

「…………」 「…………」 (アビー、暇そうだな?)太助が目で訴える。


「あー、はいはい。てあげますよー。 アハハ、ナイスジョーク!」

 アビーが変な事を言いながら、太助に連れて行かれる。



「たけるん、カガリンはどこカナ?」


かがりは、自分の部屋でなんかやってたな。掃除かな?」


「あー、私の寝具を用意してくれてるのね! できる妹だわー」

 燈は話しながら、置いてあった缶ビールのプルタブを開ける。


「え!? 燈、うちに泊まっていくのか!?」


「何よ、たけるん! 将来のお義姉ねえちゃんに冷たいんじゃない? あんな田舎に日帰りなんて無理よーん。 じいじもうるさいし、私もこの家のになっちゃおーかなー」


 武命は、ただでさえ女性率が高い香取家に、更に濃いキャラが増える可能性に戦慄せんりつする。



「たけるん、最近どう? やっぱ忙しい?」


「ああ、おかげさまで。 でも、仕事自体は皆に手伝ってもらっているから大丈夫」


 香取家は公安の武術監督に指定され、仕事が一気に増えた。武命一人でやるのは無理がある事と、武命本人の希望で、「枝打ち」に参加した人たちにも仕事を手伝ってもらう事にした。

 仕事も順調に回り、お互いの技術向上にもなった。

 若者の意見も導入され、SNSで動画配信なども始め、マニアックな人気がある。


「一番嬉しいのは、こうやってみんなと仲良くなれた事かな」


「おおう、急にエモいこと言いだすじゃん? 皆もいいけど、カガリンの事はないがしろにすんなよお?」


「も、もちろん。 わかってるって」 武命は照れながら答える。



「燈さーん! プレゼントありがとー! どう?見てみて」 リイナが走ってくる。


 リイナは体のラインが浮き出るようなデザインの、大きめのセーターを着てくる。そこまでは良いが、問題は下に何も履いていない。セーターが大きいので下着は見えないがちょっと動いたらチラ見えするのは明白だった。


「こら! リーナ、お客さんの前ではしたないぞ。 下に何か履いてきなさい!」


 リイナが不機嫌になる。 反抗期かな?


「ぷぷー、たけるん。 これはそういうデザインのミニワンピよ?」


「え!?」


「ワンピよ、ワンピース! つまり、こうやって脚を出すデザインなの!」


「はあ!? これじゃパンツが見えちゃうじゃないか! リーナにはまだ早いよ!」


「おにい、キモい! そんな目で見ないで!」


「そ、そんな! リーナ! 父ちゃん、俺はどうすれば……」 燈は爆笑していた。



 _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _



 料理が出揃ってかがりもやってくる。武術家たちの忘年会が始まる。


 タツトラとアリスも遅れてやってきた。

「ボス! アリスとのデートは堪能できたかい?」 アビーが、からかう。


「るっせ! そんなんじゃねーよ。 今日も稽古があったんだよ」

 タツトラのグラスに太助が酒を注ぐ。


「早めに切り上げてきたけどね〜」 アリスにも酒を注ぐ。



人数が増えて賑やかになった頃に玄関から男が入ってくる。


「こんばんはー。 お久しぶりです」

 見ると宮城航平みやぎこうへいが手荷物を持ってやってきた。沖縄在住の航平も年に一回指導に来て、カルトな人気がある。


「ヒッ! ドーモ、ミヤギサン!」

 アビーがカタコトになる。外れたアビーののど整復しはめて治したのもまた航平だった。麻酔も無しに、喉に人差し指と親指を突き刺して整復しはめた。 アビーはその時、死を覚悟した。 それくらい痛かった。

 アビーとアリスは航平に対して、潜在的な恐怖心が植え付けられていた。

 しかし、当の航平は「女性に優しく」がモットーなので普通に接してくるのがまた怖かった。



 武術家たちに酒が入ると、お互いの技自慢が始まる。ちょっとした持ちネタみたいな技が見れて面白いのだが、熱が入りすぎて暑苦しくなってくる。

 武命は一人、涼む為に外へ出た。吐く息が白く、今年ももうすぐ終わる事を実感して少し寂しくなる。


「武命さん、ここにいたんですか」


 篝が武命の隣へやってくる。宴の喧騒けんそうが遠くに感じる。


「今年は楽しかったな、友達が一気に増えた」

「はい。 私もです。 生まれてきて今が一番楽しいです」 


「不思議だよな、元々は死ぬ覚悟で戦ったあいだなのに」

「今ではもう、親戚みたいな付き合いですよね」


 篝が武命の顔を覗き見る。顔が赤い。


「酔っちゃいました? お酒ってそんなに美味しいんですか?」

「来年になったら、篝も呑めるよ。 そしたら一緒に呑もうな」


 武命が篝の手を握る。


「来年も、再来年も、その次の年も、またその次の年も、一緒にいてくれるか?」


 篝はその手を握り返す。


「はい! ずっと一緒です!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

たたかいのサーカス〜スパイ武術強化大作戦! どらぱん @dorapang

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ