第9話
秋の太陽が
私はうんざりとした顔を毛ほども見せずに、きょうの出来事をサユに報告する。彼女のほうから伝えることは何一つないので、私から話題を出すしかなかった。でもあまりに楽しかった出来事や、友達の笑い話などは紹介できない。同じ体験のできない彼女が不機嫌になってしまうからだ。
いつもなら、もう諦めきっているので気にならなかった。サユが求めている私の態度もこの半年間で分かっている。死者の魂である事実を忘れて、まるで今も同じ学校に通う親友のような態度で接すること。そうしていれば彼女は満足でいてくれた。
しかし、きのうの私は普通ではなかった。サユの機嫌を取ることに抵抗感を抱いていた。それは先日の中間テストで期待していた結果が得られなかったせいか。新たに仲良くなった友達との関係がうまく築けていないせいか。部活で
何よりの不満は、この半年間、本の一冊もまともに読めていないことだった。小説や漫画を読むことは、私にとって唯一の、誰にも邪魔されずに没頭できる趣味だった。読めないでいると心が
私はスマートフォンを強く握り締めたまま、荒れる呼吸を
クラスでは女子生徒のために寄せ書きを作ろうとしているが、私はあまり乗り気になれない。正直言って、そこまで親交のなかった人たちから別れの言葉をもらっても嬉しいとは思わないからだ。これまで仲の良かった人たちはそんなことをしなくても交流を持ち続け、そうでもなかった私のような人たちは恐らくもう二度と会うことはないだろう。だから寄せ書きなんて、やりたい人たちだけでやればいい。本人もそのほうが嬉しいに決まっている。私がそう主張するとサユも、そうだよねと笑って
私たちは、これからもずっと一緒だね、リッちゃん。
その瞬間、私は胸の奥で抑え込んでいた感情が破裂するのを感じた。これからもずっと一緒。いつまでもこんな関係が続く。何年も、何十年も、サユの話し相手を続ける毎日。破裂した感情は血が流れるように全身に広がり、強烈な拒否反応を起こして
サユはやや驚いたような顔になると、まるで静止画像に戻ったかのように動きを止めた。多分、私の顔色が変わったことに彼女も気づいたのだろう。しかし理由までは分からない。私の気持ちを理解しているなら、あんな言葉は吐かないはずだ。だから彼女はわずかに赤い唇を動かして、イアフォンにぎりぎり届く声で、どうしたの? と
すっと息を止めると震える人差し指を伸ばして、画面に映るサユの鼻を押し潰すようにタップする。即座に展開したメニューから【削除】の項目を見つけると、ぎゅっと強く目を閉じて再度タップした。私は何も見ていない。スマートフォンに軽く指が触れただけ、そう自分に言い聞かせた。
しかし数秒後に目を開けると、画面上にはまだサユが映っていた。そしてその顔に
パッと強い光が目に刺さり、同時にけたたましい音が耳にこだました。
私は弾かれたように体を震わせて顔を上げた。だが次の瞬間にはもう、今までと変わらない夜の景色が見えていた。なんだ? 今、まるで車道からヘッドライトを点けた車が飛び込んできたような衝撃を感じた。しかし辺りは何も変わらず、すぐ隣の車道でも平然と車が行き交っている。私も怪我をしていない。クラクションを鳴らしながら通り過ぎた車があったのだろうか。何か妙な感覚だった。
スマートフォンに目を落とすと写真フォルダ内の画像が一覧で表示されている。そこにはもうサユの死顔は保存されていなかった。肩の力が抜けるとともに、溜め込んでいたものを吐き出すように大きな息が自然と漏れた。やってしまった。でもこれで全て終わった。これで本当にサユは死んで私の前からいなくなった。
体の芯から温かさが広がり、途切れ途切れの
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