第31話

「こいつが地下道に居た。恐らく、家畜を襲ったのはこいつだな」


 ギルドに戻ったハンス達はクエスト達成の報告をするために受付に持ち帰ったスライムの核を置く。

 それを見た受付の男は、驚きながら両手にそれぞれスライムの核を持ち、切断面を付けたり離したりしている。


「なんだと? こいつはスライムの核じゃないか。しかもかなりでかいな。こいつが地下道に居たって? 本当か?」

「ああ。確かに地下道に居た。残念ながら家畜をそいつが食ってるところは見れなかったが、それ以外に魔物は見つかっていない。恐らくそいつだろう」

「なんと……こいつは黄銅級のクエスト対象じゃないな……お前さん達が受けてくれたのが幸いだった。危うく、パーティの一つを壊滅に追い込むところだったよ」

「ああ。かなりでかかったからな。あいつを倒すのは中々ことだろうぜ。ひとまず達成でいいか? それとその核を二つとも買い取って欲しい」


 ハンスの言葉に、受付の男は困った表情を見せながら答える。


「達成で問題ない。お前さんたちを信じよう。これが報酬だ。すまんが、討伐対象が想定外でも報酬は上げられん決まりでな。成果に合ってないかもしれんが許してくれ。それと、こっちはうちじゃ買い取れんな。でかすぎる。こんなの買うほどの予算はうちには無いよ」

「そうか。それは残念だ。ティルスに行ってから売るとするよ」

「待ってくれ。お前さんたち、明日もクエストを受けるつもりか? これだけ実力のあるお前さん達なら任せたいクエストがあるんだが……」

「悪いな。明日は一日休むことにしたんだ」


 そう言うと、ハンスはギルドを後にし、宿屋へと戻った。

 ハンスはまだ早いが、寝支度を済ませるとベッドに横になる。


「それで、セレナ。明日はどんな事がしたい? 町に出かけてもいいし、宿屋でゆっくり過ごしてもいい」

「私が決めていいんですか? ハンス様がしたい事で構いませんが……」

「うーん。魔法以外になにかする事を決めるのが苦手でね。俺に任せたら明日は一日中、ベッドの上で過ごすことになってしまうぞ。それでもいいのか?」


 セレナは少しの間、考えを巡らせた後、決心したように言葉を発した。


「私のお金はまだ残っているんですよね? それなら、色々とお店を見て回りたいです。費用は全部私が持ちますから!」

「ああ。そういえば、好きに使っていいなんて言っておきながら、中々出かける暇を作らなかったね。いいよ。明日は思う存分好きな物を見て、気に入ったものがあったら買うといいさ」

「ありがとうございます! ハンス様!」

「じゃあ、俺は少し早いけど、寝るよ。まだ野宿の疲れが取れなくてね。おやすみ、セレナ」

「おやすみなさい。ハンス様」


 セレナは明日の事に思いを巡らせ、ウキウキが止まらなかった。

 早く明日にならないか。

 セレナは逸る気持ちを誤魔化すように、今日もまた、ハンスが寝たことを確認すると、静かに部屋に外へ出ていき、訓練を続けた。


 翌朝。起きたハンスは一度大きく伸びをして、セレナが寝ているはずの隣のベッドに目を向けた。

 どうやらセレナはもう起き出しているらしい。


 昨日もハンスが起きた時には、既にセレナは身支度も済ませている状態だった。

 ガバナにいた時は、ハンスがセレナより早く起きることも多かったが、ハンスは気にも止めず、ベッドから抜け出し、着替えをする。


 と、目線の先の部屋の隅にうずくまるセレナの姿があるのに気付いた。

 セレナはハンスが起きたことに気付いたのか、顔を上げ、挨拶をしてくる。


「おはようございます。ハンス様。今日も良い一日ですね」


 そう言葉を発するセレナの声は、いつもの張りもなく、明らかに疲れを滲ませていた。

 見ると、目の下にはクマが出来ており、顔色も心無しか悪いようだ。


「どうしたんだ? セレナ。大丈夫かい?」

「実は……」


 セレナはハンスに、最近ハンスが寝た後、一人徹夜で訓練をしていることを伝えた。

 これまではハンスに補助魔法の効果により、有り余る体力を持っていたため、問題なかったが、昨日は敏捷増加クイックをかけられた状態で行ったため、寝不足になったのだ。


「なんとも、まぁ……言ってくれたら補助魔法をかけ直したのに……」

「すいません……私もうっかり忘れてしまっていて……でも、この魔法をかけられた状態でのいい訓練にはなりました……」

「まぁ、それは良かったけど。どうする? 今日の買い物はやめるかい?」

「いえ! それはだめです! あ……いえ……行かせてください。お願いします」

「分かったよ。じゃあ、今からでも体力甚大タフネスをかけよう。今後は訓練する前に俺に言うんだよ?」

「はい……すいません……」


 ハンスに補助魔法をかけられたセレナは元気を取り戻し、朝食を宿屋の食堂で済ませた後、二人は外へ出かけて行った。


「それで。どんなものが見たいんだ?」

「色々です! あ、まずは服なんか見たいです!」

「分かったよ。俺もこの町のことは知らないから、歩きながら店を探そう。そんなに大きくない町だ。すぐ見つかるだろう」

「はい! 楽しみです!」


 先程の疲れ切った顔など微塵も消えた、満面の笑みを浮かべたセレナは、スキップでも始めそうなほど陽気な声を上げ、まだ人通りもまばらな町並みの中を歩いていった。

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