第28話
二人の旅は順調に進んだ。
途中、魔物にも襲われたが、この辺りの街道に出てくる魔物は二人にとっては大した危険を与えない。
ハンスが状態異常の補助魔法を唱える必要もなく、全てセレナに切り刻まれていった。
しかし、驚くべきはセレナの新しい武器の性能だった。
魔素を吸収し身体能力を以前よりも高めたおかげもある。
それを加味してもセレナが手にした白く輝く一対の短剣の切れ味は異常ともいえた。
現れた魔物たちを、セレナになんの抵抗も感じさせず、切り裂いていくのだ。
更にセレナが不思議に思うのは、その短剣が、まるで自分の手足の延長線上のように感じられることだった。
短剣の握る手に、刃触れる微細な感触まで伝わってくるのだ。
また、どんなに激しく動いても、セレナは自分の手からその短剣が離れる恐れなど感じずにいた。
「それにしても、傍から見てても、その短剣は凄いな。高い買い物だったが、それ以上の価値があると思うよ」
「ええ。私もこれを見た時、どうして欲しくなったのか、自分でも分からないんですが、何故かこの短剣を持って戦うと、安心するんです」
ハンスとセレナは話しながら歩いていると、目線の先に最初の目的地、カルデアの町が見えてきた。
この町は、首都ガバナとこの国有数の産出量を誇るダンジョンを有する冒険都市ティルスの中継地点にある、特に目立った特徴のない町だった。
しかし、まだ亜人排斥令は流布されておらず、ハンスの奴隷でかつ冒険者証を持つセレナが安心して一晩泊まることの出来る。
二人にとって、特にハンスにはありがたい町だった。
ほとんどの生活を冒険者育成施設で過ごしたハンスにとって、一日中歩くことも、野宿をすることも、かなりの負担だ。
「ふぅ。やっと今日は柔らかい敷布の上で寝れるね。セレナもほとんど寝ていないから疲れただろう。町に着いたらゆっくり休むといい」
「はい。ありがとうございます。ハンス様。でも、ハンス様の魔法のおかげで私はまだまだ大丈夫です」
「いつ強敵が現れて、その魔法を別も魔法に変えなくちゃいけなくなるかも分からないんだ。休める時に休むことも重要だぞ」
「はい。分かりました」
そうこうしているうちに二人は町の東門に辿り着いた。
門番に冒険者証を見せると、数度質問を受け、その後はすんなり通してもらった。
念の為、あれ以来セレナの頭部は、フードを被り、一目では亜人だと分からないようにしている。
白銅級の冒険者証には種族などの情報など書いていないから、肩も頭部の耳も隠したセレナは一見すると、ただの少女以外の何者でもなかった。
「まずは宿屋を探そうか。その後は、しばらくここで簡単なクエストを受けながら、少し体力を取り戻そう。クエストなら、次のティルスまで馬車でも三日かかるんだ」
「分かりました。ハンス様」
ハンスの決定にセレナが異を唱えることなどあるはずもない。
ハンスが言った通り、二人は宿で部屋を三日分予約すると、続いて、ギルドへ向かった。
この町のギルドは、ガバナのに比べ、建物も小さく、中も閑散としていた。
「やぁ。俺はハンス、こっちはセレナ。二人でパーティを組んでる白銅級の冒険者なんだが、何かいいクエストはないか?」
「おや? 白銅級の冒険者がこの町でクエストを受けるなんて珍しいな。クエストならガバナかティルスの方がふんだんにあるだろうに」
髪に白が混じった初老の男性が答える。
ハンスの顔をまじまじと見つめた後、手元にクエスト台帳を拡げ、適したクエストがないか調べ始めた。
「ああ。今この辺りで受けられるのは、三つだな。どれも黄銅級のクエストだから、白銅級なら簡単だろう。一つは、この町の地下道に住み着いた、魔物の駆除。次が、ここから北にある山に咲くルチア草の採取。最後が、この町の南の沼に出没する、カルデアトードの鳴き袋の採集だな」
「北にある山と、南の沼ってのは遠いのか?」
「どちらも徒歩で片道一日ってところだな。山の方は山頂の辺りに咲くから、登るのに更に半日は必要だ。まぁ、その分報酬は他のに比べて高いがな」
「それじゃあ、どっちも厳しいな。最初の地下道に出る魔物の種類は分からないのか?」
町を中心に行動し、路銀を稼ぎながら体力も回復させる必要のあるハンスたちにとって、野宿が必要なクエストでは意味がない。
地下道ならば、入り口は町の中にあるから、うってつけ。
「ああ。どうせベアラットの群れか何かだろうが、確認が取れてなくてな。念の為、黄銅級のクエストにしてあるんだ。これまでに家畜が数頭殺られていてな。地下道に何かが居るって言うのは間違いがない」
「分かった。じゃあ、それを受けよう」
そう言うとハンスはクエストを受けるための手続きを済ませ、一旦宿屋をに戻った。
幸い、ベッドが二つある部屋が空いていたので、今日はそれぞれ別々に寝ることが出来る。
ハンスは着衣のままベッドに身体を預けると、腕を頭の上に上げ、伸びをした。
やはり硬い地面の上にほとんど何も敷かず寝るのに比べると、ベッドの上は格別だった。
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