第12話
「聞いたところ、貴方達は最近冒険者登録をして、パーティを組んだばかりだとか。確かにここにあるのはランクの低い魔物の素材ばかりですが、それにしても駆け出しの冒険者が手に入れられるとは到底」
「俺らが何処からか盗んできたって言いたいのか?」
ハンスは自分に嫌疑をかけられていることを理解し、憮然とした表情をリーザに返す。
その返答とばかりに、リーザはかけている眼鏡をクイッと右手で上げると、首を横に振りながら答えた。
「いえ。それは無いでしょう。どれも鮮度がいい。恐らく討伐して採取したのは遅くても昨日。私は今日採取された物だと思っています」
「じゃあ、他の冒険者を襲って奪ったとでも?」
「それをするのは……これらを採取するより難しいと思います」
「ふむ。疑惑はもともと晴れてたって訳だ。だとしたらわざわざこんな所に読んだ理由はなんだ?」
「お二人がどうやってこの様な採取を成し遂げたか興味があったのです。特にロックビートルの甲殻の状態の良さは異常です。ほぼそのままの形で取り出されています。見たところ、お二人共力自慢では無さそうですが……どのように討伐を?」
「なるほどな。悪いが企業秘密だとだけ言っておこう。どうせ詳しく話しても理解されないのが落ちだろうからね。まぁ、もうすぐすれば、どっかの面の皮の厚い魔術師が発表してくれるだろう」
セレナは二人の会話が理解出来ず、ただ、その場に流れる不穏な雰囲気に戸惑い、おろおろとハンスとリーザの顔を交互に見ていた。
「それで。結局、この素材は買い取ってくれるのか? くれないのか? ああ。ロックビートルはクエストの方だからな、買い取ってくれないとなると、クエスト失敗になるのかな?」
「もちろん全て買い取らせていただきます。状態は良好。ここのある素材の買取と、クエストの達成報酬を合わせて、これ程で。よろしければここにサインをしてください」
リーザが提示した額は、通常の買取価格の二倍に相当する額だった。
全て合わせて、銀貨5枚と銅貨4枚。およそ二人の一ヶ月分の生活費に相当した。
ハンスはサインをすると、リーザから代金を受け取り、中身を確認した後、そこから銀貨1枚と銅貨2枚を選び取り、セレナに手渡した。
突然の出来事にセレナの目線は、自分の手の中とハンスの顔を行きつ戻りつしている。
「ハンス様……あの、これ……」
「セレナの取り分だ。悪いが、今回はセレナの武具なんかの先行投資に使った分は差し引かせてくれ。今後はきちんと等分するから」
セレナは驚き、慌てて手の中のものをハンスに差し出すと、受け取れないという態度を示した。
ハンスは困った顔をして、セレナの手を押し戻すとはっきりとした口調で言った。
「言っただろう。君は仲間だと。二人で稼いだ金なんだ。等分が当たり前だろう。それとも何かい? また俺の指示に逆らうってつもりなのか?」
「いえ! そんなことは全然! あ! でもやっぱり困ります! 私、今まで、お金なんか持った経験なくて! 何に使えば良いか分からないし、無くしちゃうかも!」
セレナは慌てて大声を出しながら、まくし立てるように話す。
それを見たハンスは声に出して笑いながら、分かったとばかりにセレナの手の中の硬貨を拾い上げる。
「はっはっは。分かったよ。じゃあ、こうしよう。二人で稼いだ金は等分にする。いいね? そして、セレナの分も金の管理は俺がしよう。セレナが欲しい物があったら都度、俺に金額を言えばいい。自分の金だ。好きに使っていいんだぞ」
「でもそれでは、あまりにも……ハンス様は多額の借金がおありだって仰ってましたし……」
「あまりにも、なんだい? いいんだ。借金は俺の問題。セレナには関係ない。それにこれは命令だ」
「分かりました。あの……ありがとうございます」
二人のやり取りを見ていたリーザは、思わず声に出して笑った。
ハンスはリーザの存在を思い出し、恥ずかしそうに硬貨を全て懐にしまった。
「すいません。別に覗くつもりも無かったのですが、目の前で行われた以上、見ない、というのもなかなか難しく」
「いや。いい。気にしないでくれ。それで、要件は終わりだな?」
「ええ。所で、ハンスさんはお金を稼ぐ必要があるんですか? それなら、ぜひお勧めしたい素材があるのですが」
どうやらリーザからハンスたちへの値踏みは済んだようだ。
一見、入ってきた時と同じ真面目な顔付きだが、薄い唇の端はわずかに上がっている。
「今回と同じ状態で採取出来るなら、相当高値で買い取らせていただけるかなと。ただ、まだ受領可能ランクに達していないので、そこに到達いただいてからにはなりますが」
「お勧めの素材? こんな初心者に珍しい相談だな? 対象はなんだ?」
「ロックビートルの上位種。ジュエルビートルの甲殻です。ジュエルビートル自体はロックビートルと同じでほぼ無害なのですが、生息する地域が問題でして。ドナ山脈はご存知ですか?」
リーザは再び眼鏡をクイッと右手で上げると、挑発するような目線でハンスを見た。
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