第41話
「じゃあ、まず初めに、補助魔法をあなたは使える。それは間違いないですか?」
「ああ。使える」
「おお! やっぱり! じゃあ、次の質問です。どれだけの補助魔法を使えるんですか?」
「それは言えない」
初めに話しかけられた際と、大きく異なるその口調に、違和感を感じながら質問に答える。
しかし、ほとんどが言えないとしか答えられない質問ばかりだった。
「はぁー。なかなか口が固いですねー。分かりました。最後の質問です。当然ながらあなたの使う補助魔法は、ワードナーから教わった。それでいいですね?」
どう答えるか一瞬迷い、しかしハンスは、この質問にも何度も繰り返した返答で返した。
「なるほど……分かりました。これは色々と調べる価値がありそうですね。あ、大丈夫ですよ。約束は守りますし、今後あなたたちに質問はもうしません。恐らくですが」
「ああ。言えないことばかりで悪かったな。くれぐれも秘密で頼むよ」
パックはまた一度ハンスに向かってウィンクをすると、鍵束から鍵を抜き、ハンスに渡した。
「バレているみたいですけど、この家、私の物なんです。私はこれから色々と情報を集めに旅に出ますから、この家、自由に使ってくれていいですよ。あ、鍵は別にもあるので、返さなくても大丈夫です」
「分かった。助かったよ。そんなにこの街に長居はしないだろうが、その間は遠慮なく使わせてもらう」
パックは荷物を背負うと、二人に陽気に手を振りながら、家を出ていった。
「さてと、俺らもそろそろギルドに出かけるか」
「はい!」
ハンスたちは必要最低限の荷物を持ち、家を出て、この街のギルドへと向かった。
冒険都市ティルスのギルドは、街の中心に建っていて、ガバナのそれよりも大きかった。
何度も改装を繰り返されたと思われる外壁は、豪華さを目的としない簡素な造りだった。
扉を開けると、右手に受付、左には広い待合の空間が広がっていた。
複数ある受付はどこも長蛇の列が続いている。
仕方なくハンスたちも列の最後尾に並び、順番が来るのを待った。
「おい。聞いたか? 今回の騒動、どうやらオーガロードが出没したらしいぞ」
「本当か? それに出会ったら俺らなんかイチコロだろうな。くわばらくわばら」
並んでいる間に目の前のパーティの会話が耳に入ってきた。
このパーティはどうやらハンスたちよりも一つ上の白磁級の冒険者らしい。
白く輝く陶器でできた冒険者証が、首からぶら下げられている。
やがて、ハンスの順番が来て、受付の女性にオーガ討伐のクエストの状況を聞く 。
「はいはい。あなたたちここは初めてよね? 正直オーガの大量発生で、色々支障を来たしているから大歓迎よ。ところで、クエスト受注は白銅級からだけれど大丈夫よね?」
「ああ」
聞かれてハンスは懐にしまっている冒険者証を取り出し、受付嬢に見せる。
セレナもそれに習って見せると、受付嬢は満足したように頷く。
「おーけー。でもあなたたちたった二人のパーティなのね。無理はしないでよ。死体の回収だって手が足りない状況なんだから」
「ああ。危なくなったらすぐ逃げるさ。ありがとう」
死と隣り合わせの冒険者たちは、軽口を平気で叩くが、それに慣れてきたハンスは、受付嬢がハンス達の身を案じてくれたのだと理解し礼を言う。
クエスト受領の手続きを済ますと、ハンス達はギルドを後にした。
軽い夕食を済ませると、パックから借りた家に戻り、寝支度を済ませた。
パックの家だというここには寝具は一つしかないため、以前同様、同じベッドに寝ることとなった。
「明日は朝からダンジョンに向かうからな。無理して当日死にましたじゃあ笑えない。この前みたいに訓練などせずにきちんと寝るんだぞ?」
「分かりました。ハンス様。すいません……」
そう言うと、ハンスは先にゴロンとベットの端に寝転がった。
続いてセレナが静かに、ハンスの邪魔にならぬようできるだけ端に寄って寝転がった。
しばらく経って、セレナの静かな寝息が聞こえてきた頃、ハンスは何故か眠れず、むしろ目が覚めてしまった。
ベッドから起き出すと、机に向かい、先日カルデアのギルドで書き留めた、新しい補助魔法の理論を確認する。
気になった同じ所に何度も目を通していると、重大な間違いに気が付いた。
このまま気付かずに明日を迎えていたら、大変な事になっていただろう。
ほっとため息を一度付き、ハンスは間違った部分の改訂を試みた。
直し始めると、理論の色んなところに影響が波及し、結局ハンスは夜中遅くまで、直すために起きることを余儀なくされてしまった。
このまま寝てしまっては、朝起きれる自信がなかったため、仮眠をとる時によくやっていた、机に身体を預けた格好で眠ることにした。
翌朝、セレナはベッドが空で、机に伏して眠るハンスを見つけ、苦笑した。
あれほど自分には万全の体調で、と言ったわりに、当の本人そのことなどお構い無しに夜通しで何かをしていたのだろう。
ハンスに限ってはその何かは間違いなく魔法関連だと、聞かなくとも分かるのだが。
久々の同衾に心を動かされた自分と違って、ハンスは自分の事など女性とは意識していないのだろう。
すやすやと眠る主人の寝顔を眺めて、一度ため息を付き、分不相応な考えを消すために強く頭を振った。
セレナの気配に気付いたのか、ハンスは顔を上げ、目を擦りながら、セレナにおはようと言うと、盛大に大きな欠伸をした。
それでも、幾分かは寝られた効果もあり、徹夜など日常茶飯事だったハンスは、軽快に動き出し、冒険の支度を始めた。
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