待っているのか、立ち止まっているのか

 彼女はそこにいる。
 ただ、彼女自身、自分が「待っている」のか、「立ち止まっている」のかが分からない。それは誰だって、いつだって、自分自身ではよく分からないものだ。
 そう、多くの人がなにかに手を伸ばす、その行為が、「求めている」ゆえなのか、「求めるふりをしている」ゆえなのかが分からなくなっているのと同じように。
 この物語は、そんな彼女の揺らぎから始まる。

 かつては意思をもって待っていたのだろうと思う。
 けれども待つことはとても魂を削る営みだ。
 待つことは、日々、希望を持ちながら諦め続けることだからだ。
 そんな行為を人は長く続けることができない。

 待たなくていい。自身もまた、立ち止まっていた足で歩み、求め、そして帰ってくれば、いつかだれかと、愛や愛情を持って向き合える日も来るだろう。
 そのときの彼女はきっと、自分自身のうつくしい羽根を身に帯びているに違いない。