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「なぁ、お前らはさ」
だから、気になる。
水泳部をメイン部活とし、あくまでトレーニングの一環としてGTS部に参加する雅也。
テニス部のみ所属し、ずっと前から実績を上げ続けている淳介。
GTS部とテニス部に入ってはいるが、試合以外の土日の活動には参加することがない裕介。
三者三様、部活に対するスタンスは違うはずだ。しかし参加しなくてもいい部活に参加し、あまつさえ大会に出ようとしている。
だから、彼らのマインドが気になる。
「お前らはさ、大会で勝ちたいと思うか」
勝利とは。勝負とは。それ以前に、勝ちたいのか。
明日から再び戦いの場に身を投じる人間として、一度は戦うことを辞めた人間として、他の意見を聞いておきたかった。
沈黙が、夜道に落ちる。
考え込んでいるような雰囲気。いつもバカな話をしている俺たちだが、互いの悩みには互いに真摯だ。
決して長い付き合いではないが、だからこそいつも一緒にいられるのだろうと思う。
「俺はお前ほど実績を残してるわけじゃないけど……やっぱり俺は勝ってなんぼのところはあるなぁ」
まず口を開いたのは淳介だった。
小学校からやっているテニスを、こいつは高校になってもまだ続けている。それは、とてもすごいことだ。俺には出来なかったことだ。
途中で、どうしようもなく嫌になることはなかったのだろうか。
「嫌になることはあるけど、勝つことが全てってわけじゃないけど、勝つことが楽しいのは確かだぜ」
当たり前だ。
しんどいトレーニング、理不尽なオーダー、体力と気力の限界。
高校生は肉体が全盛へと近づくが故に、中学や小学校と比べ更にレベルが上がり、過酷な部活になっているところも少なくない。
それでも何故、打ち込めるのか。
勝利という最高のものへと、至上の地位へと至るためか。
果たして本当に、それだけだろうか。
「でも、負けると楽しくない、というわけでもない。なんて言ったらいいんだろうな?」
「負けるのは悔しいけど、やらない方がもっと悔しいね」
淳介が言いよどんでいると、雅也が後に続いた。
掛け持ちをしている雅也だが、GTSにも、水泳にも、間違いなくどちらも本気だ。
「楽しいことをやり続けられるんだ。あくまで勝ち負けはその結果、後からついてくるものでしかない」
「時々そりゃあしんどくなるし、顧問に「コイツしばいたろか」って思うこともよくあるし……でも、結局俺はテニスが楽しいからな」
楽しい、か。
ふと、かつてサウナの皇帝と呼ばれた『彼』を思い出す。
楽しそうにサウナに入っていた、灼熱の空間の中でも笑顔でいた、唯一無二の男。
彼もサウナに入っていたのは、GTSをプレーしていたのは、楽しかったからだろうか。
「そしてそれが勝敗を決しなくてはいけないとしても、そのためにするものではない」
裕介が、満を持してといった顔で会話に入ってくる。ものすごいドヤ顔だ。口調も若干いつもと違っている。怖い。
だがしかし、裕介が言っていることはまさにその通り。
勝つのは楽しい。負けるのは嫌。当然のことだ。
だがそれでも、その快楽を享受するために俺たちはサウナに入るわけじゃない。ととのうわけじゃない。
「結局、最後まで残るのは――」
裕介は続けようとしたが、何かに気付いたのか言葉を止めた。
目線の先には、帰り道によく寄っていくコンビニがいつもと変わらずそこに佇んでいた。
広い駐車場に対して車が少ないのもいつもと同じだ。
ただし今日唯一いつもと違う点があるとすれば、駐車場にGTS部の先輩が三人いたということだ。
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