26
俺がGTS部に入部して早いもので1週間が経過した。
部活のメニューも大会前と言うことで、外周、宿題、GTSの基本の流れは変わっていない。
結局あれから何回かGTSをしたものの、幸いなことに今のところ負けてしまったことはない。今のところ。
竹沢先輩や石川先輩からは何回かリベンジマッチを申し込まれたが、それでもなんとか勝利することが出来ている。
古井先輩とも一緒になる機会が何回かあったが、明らかに本気ではないというか、別のことを考えているというか、なんとも形容しがたい。
だからこそ、古井先輩に勝ったという実感は湧いていない。
入部を賭けたGTS交流戦でもそうだった。勝利とはもっと別のところに目が向いているような、そんな感覚。
あの人は、一体何を考えてGTSをしているのだろう。サウナに入っているのだろう。
交流戦で、横浜中央のサウナで、古井先輩は言っていた。
情熱は燃え盛る方がいいと。熱い方がいいと。
で、あるならば。本当に、言った通りであるならば。
あの人の情熱の炎は、一体どこに種火があるというのだろうか。
まぁ、古井先輩の場合はその言葉すら嘘である可能性があるから始末に負えない。
そしてそれ以上に、滝部長だ。
わざとか、そうでないのかは分からないが、部長とマッチングすることは結局一回もなかった。
だから、滝部長がどの程度の実力者なのか、俺には推し量ることが出来ない。それをさせないため、なのだろうか。
もしもそうなら、何のために。
俺と滝部長、どちらのために。
「――大海?」
声をかけられていることにようやく気付き、俺はあたりを見渡す。
横浜の市街地とは離れた、川沿いの一本道。
いつも通りの帰り道。裕介、雅也、淳介といういつもの面子。何一つ変わらないいつもの光景だ。
違うところがあるとすれば、それは俺の心持くらいの話だろう。
「ごめん。ちょっと……ととのってた」
「そんなわけねぇだろ」
「部活から尾を引きすぎだろ」
ちょっとした嘘も看過される。まぁ今のは噓というか軽口に過ぎないけれど。
いつもの感じだ。
だが俺の心持の他にも、きっと裕介と雅也の心持も、多少なりとも違うはずである。
GTSの新人戦が、いよいよ明日に迫っている。
インターハイには二人は出場しておらず、公式戦は初めてと言っていた。
裕介も雅也も別の部活に所属している関係上、部活の大会というもの自体は経験しているだろう。
だがGTSは、また別物だ。
心・技・体のうち、心が求められている。
磨いてきた技を披露する機会ではない。鍛えてきた力を発揮する機会ではない。
ただ心が、求められる。環境に耐えうる心が求められる。
「明日GTSの大会だっけ? 応援に行けたら行きたいけど、ちょっと予定がなぁ」
淳介が残念そうに言う。
だがどこかその言葉には、わざとらしさが感じられる。
こいつがこんな感じで話すときには、何かいいことがあったときだ。
「そう言って絶対女の子と遊ぶじゃんかよ」
「違うんだって。お前滅多なこと言うもんじゃねぇぞ。ただ部活があるだけなんだからな」
「でも実際は?」
「明日女テニと合同練習で、明後日は中学の女友達とデズネーランドに行きます」
「もう死んだ方がいいよ」
「くたばれ。出来るだけ早急にな」
「男の僻みは醜いねぇ……」
男友達の応援にも行かず、女に現を抜かすとは全く以て言語道断だ。
この四人の友情にも、二度と戻れない亀裂が入るというもの。
亀裂を激しく入れようとしているのは三人の方な気が若干するが、気のせいだろう。
「裕介、お前も言ってやれよ」
「真面目にテニスしろよ」
「お前にだけは言われたくないんだけど。お前土日テニス部の練習来たことないだろ」
「ほら、土日は自分の時間に使いたいし」
「明日GTSの大会出るじゃねぇかよ」
横浜中央の部活動の参加は、生徒の自主性に委ねられている。部活に入る入らないは勿論、どの程度本気で打ち込むのかも生徒の自由だ。
先生も程度の差はあれど無理に参加させようとする先生はいない。
あくまでも生徒のやりたいことを尊重する、という校風である。ただし実際には生徒間で、もう少し出てほしいといった圧力がかかることはよくあり、見て見ぬ振りがされている。
他ならぬ俺の現状も、そんな感じだ。
脅迫されて止む無く入部するというのは多分俺くらいだろうけれど。
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