15
「さぁ君たち。制服に着替えろ」
横浜中央の校門から右手側には、「朋友館」という小さな施設が存在している。
三階建ての別校舎のような佇まいではあるが、この建物が授業に使われることはほとんどなく、各階に一つずつ存在する教室は主に自習スペースとして活用されている。
その二階にある教室を貸切るような形で、GTS部の面々は運動着から着替えた後に、それぞれ机に向かっていた。
「次は――どきどき宿題タイムだ」
素直に驚いた。
あたりを見渡してみると気怠そうに、皆がそれぞれペンケースやテキストを取り出し始めている。
数学や英語、生物など各人様々だ。
周りを見渡す俺に気付いたのか、黒板の前に立っていた滝部長が解説を始めてくれた。
「このGTS部は他の部活に比べると色々と優遇されていてな。その理由は、こうして部活の名目で勉強に励むことも奨励しているからだ。おかげで部活は優等生ばかりさ」
なるほどな。と合点がいく。
サウナ室を自由に使うことが出来るというのは、こと部活動においてはGTS部以外には存在しない。
時間は限られているものの、部活動の時間を使ってサウナに入れるというのは、この部活のみだ。
他の運動部からしたら羨ましいことこの上ないだろうが、サウナそのものが会場なのだから仕方あるまい。
「部長! 眠すぎて集中が出来ません!」
「雅也。言っただろ。遅くまで起きていることでこうなっちまう。早寝早起きは学生の基本だぜ」
前列の雅也が声を上げる。
当然だ。
「部長! ボクも同じくです!」
「黙ってろ大海。殺すぞ」
「態度があからさまに違う!?」
新入部員に対して厳しすぎる。
鳴り物入りでの入部じゃなかったのか。悲しいかな、こういうところで特別扱いはしてくれないらしい。
解説もそこそこに、滝部長はストップウォッチをカチカチといじり始める。
「今回の設定時間は二十五分だ」
長い設定時間だ。サウナでそんな長時間入っていることはまずありえない。
「ポモドーロ・テクニックというものがあるらしくてな。二十五分間を完璧に集中した後、数分間の休憩をはさみ、また二十五分間という集中時間へと戻る。その繰り返し」
なんだか自己啓発本にでも載っていそうなテクニックだ。
読んだことは勿論ないけれど。
「ここであくまでも勉強のみだ。さっきみたいな駆け引きは存在しない。あくまでも時間を自分の身に刻むだけの時間だ……それに、部活中に宿題が終わるんだ。効率的だろ?」
それもそうだ。ぐうの音も出ない。
ストップウォッチを一度押し、滝部長が合図の拍手を鳴らす。
その瞬間に部屋は沈黙に包まれ、くたびれたクーラーが小さく唸り続けることで存在を主張するだけになった。
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